第213話、大詰め

 オーガ族、ラミア族、龍人族のトップを集めて行う会談はどこでやるか。

 俺は地図を広げ、現在位置・オーガ族の町・ラミア族の大瀑布の三つをマーキングする。そしてその中心を見た。


「あら、そこは……」

「ウォタラさん?」

「確かそこ、古い遺跡があったわね。大昔に建てられた神殿かなにかあったような……」


 なんとまぁ奇跡なのか。3つの種族が住む場所の中心地に遺跡があるらしい。

 まさかまさか、アンドロイド関係の遺跡だったり……まぁ、そこまで運がいいとは思えないな。

 とりあえず、そこの遺跡で会談を行おう。


「じゃあ、ここで会談を行いましょう。それぞれの種族の代表を集めて、これからのラミュロス領土の話を」

「構わんぜ。まぁオレらは、ここでの生活を脅かそうとしなけりゃ手は出さん」

「……そのことですが、俺としては三種族に仲良くなってほしいです。無関係を貫くんじゃなく、手を取り合って」

「はっ、仲良しごっこねぇ……」


 ヴァルトアンデルスは苦笑する。

 悪いが、俺は本気だ。仲良しごっこみたいに見えることは百も承知、でも……誰も泣かない未来を作るには、龍人族だけ仲間外れじゃ意味がない。


「ヴァルトアンデルスさん。この龍人族の里を解放しろとは言いません。でも……若い人たちには選択の自由を与えてほしい」

「選択の自由?」

「はい。山の下で暮らしたり、オーガ族やラミア族と共存したり……」

「ほぉ……」


 ヴァルトアンデルスは、己の顎を撫でつけた。

 俺も目を逸らさず、ヴァルトアンデルスを見つめる。


「たかが人間が、どうしてこの領土問題に首を突っ込むかねぇ。お互い争わずの不干渉でいいじゃねぇか。なんだかんだで軋轢やこれまでの経緯もある。全てがうまくいって仲良しこよしとはいかねぇぞ」

「でも、最初の一歩は踏み出せます。俺は人間だけど……この領土のために何かしたいって気持ちに嘘はありません」

「…………ふぅん」


 ヴァルトアンデルスは、俺をジロジロ見て笑う。

 くそ、なんか恥ずかしくてクサかったかも……。


「ま、いいだろう。今日は泊っていけ、明日になったら下まで送ってやる。それと、両種族に遺跡に集まるように手紙を書きな。その手紙はこっちで届けてやるからよ」

「あ、ありがとうございます」


 こうして、三種族を集めることに成功した。

 会談場所は、三種族の住処の中央にある古代遺跡。そこで、このラミュロス領土に関する戦いに意味など無いとわからせる。

 会談には、俺も出席する。

 俺の理想は、種族同士が手を取り合い生きていくことだ。ヴァルトアンデルスの言う通り、難しいかもしれない。でも、やらなきゃ始まらない。


 たかが人間だって、やるときゃやるんだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。ウォタラさんに送られてみんなのところへ戻ってきた。

 アルシェは観光したいとか言ってたけど却下。そんな場合じゃないからな。ウォタラさんもすぐに龍人族の里へ戻っちゃったし。


 家の前では、キキョウとルーシアが稽古をして、子猫モードの三日月がエンタープライズ号の屋根の上でネコたちと日向ぼっこしていた。日向ぼっこと言っても太陽が出てないから温かくないけどな。

 俺たちを見たルーシアたちは稽古を止め、改めて家の中で話をする。


「というわけで、ようやく三種族を同じテーブルに付けるとこまで来た」

「なるほど……話を聞くと、なんとも言えない理由だな」

「ボタンの掛け違いですか……」


 ルーシアとキキョウは苦笑する。

 蓋を開ければなんてことない理由だ。要は勘違いだからな。


「んで、ワシらは遺跡とやらへ行くのか?」

「はい。三種族を出迎えるため、遺跡を綺麗にして準備しましょう」

「完璧に脇役ですねー」

「そういうもんだ」


 というわけで、俺たちは一足先に古代遺跡に向かう。

 ここから馬車で2日ほどの距離だ。会談は7日後と手紙に書いて出したから5日ほど余裕がある。さっそく準備しないとな。

 すると、人間モードに戻った三日月が言う。


「せんせ」

「ん?」

「その子、どうしたの?」

「あ、忘れてた」


 俺の背中に引っ付いてるネコだ。

 シリカが何かを喋った直後に俺に纏わりつくようになったのだが。


「聞いてみるね」


 三日月は、猫じゃらし型の固有武器『ススキノテ』を取り出すと、俺の背中に引っ付くネコの前でフリフリする。するとネコはススキノテに向かって猫パンチした。

 すると、ネコの身体がぼわっと光る。


『うにゃ……なんだこれ?』

「こんにちは。あなたのお名前は?」

『名前? そんなのない。なぁなぁ、ぼくに美味しいご飯を恵んでくれよ。この人に付いていけば、美味しいごはんがいっぱい食べれるってシリカさんから聞いたんだ』

「美味しいご飯……なるほど、シリカはわたしがネコを集めてるのを知ってたから、仲間を増やそうとしてくれたんだね」


 三日月は、クトネの膝の上で丸くなるシリカに目を向ける。だがシリカは我関せずとばかりに欠伸をした。


「わかった。今日からあなたはわたしのネコ。名前は……斑模様だから、まだら」

『まだら……うん、気に入ったよ。じゃあ美味しいご飯をよろしくね!』

「うん。よろしくね、まだら」


 まだらは俺から離れると、三日月の膝の上で丸くなった。

 三日月の力はネコを強化したり、自分がネコになって戦うこと。最近ではネコをパワーアップさせて一緒に戦うスタイルを身につけた。

 もしかしたらシリカは、三日月のためにネコを勧誘したのかも。


「と、とにかく、出発しよう」


 目指すのは古代遺跡。このラミュロス領土も大詰めだな。

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