第202話、ブリュンヒルデの成長

 ラミアの巣穴を出発して数日後……大瀑布まではあと少しだ。

 野営も順調で、モンスターに襲われることもない。だけど、スタリオンをやられたことが尾を引いてるのか、ブリュンヒルデとジークルーネは今まで以上の警戒を崩さない。


 エンタープライズ号内は安全なので、外の守りはブリュンヒルデたちに任せる。

 俺たちは、しっかり食べてしっかり休養を心がける。いつ、いかなる時に戦闘が起きるかわからないからな。ラミアの巣穴での戦闘は想定外だった。


 御者は基本的にジークルーネ。馬たちの世話はブリュンヒルデが担当だ。

 肉食の馬たちのために新鮮な肉を確保し、川を見つけたら水質検査をして飲める水をたっぷり飲ませて休ませる。野営の際は、蹄の手入れとブラッシングをして、たっぷりと休ませる。

 これだけ愛情を注いだスタリオンたちは、ブリュンヒルデとジークルーネによく懐いている。


 俺たちも、気を張りつつも適度に休む。

 川を見つけたら水浴びし、火を熾して問題なければなるたけ豪勢な食事でストレスを解消。キキョウとの鍛錬をしたり、ゼドさんと酒を飲んだり……こんな言い方は変だが、楽しかった。


 車内でのリラックス法も、個々で違う。

 まず、俺とルーシア、ゼドさんとキキョウは、酒を飲んでリラックスする。

 酒は樽で買ったから山ほどある。でも、ラミュロス領土で補給できるかわからないので、ある程度は節約して飲んでいる。

 ちなみに、おつまみを作るのはもっぱら俺の役目だ。


 クトネ、三日月、アルシェは、ネコやごま吉たちを愛でてリラックスする。

 猫じゃらしで遊んだり、ごま吉とジュリエッタのお腹をなでたりして遊ぶ。

 クトネの悩みは、シリカが『ススキノテ』にじゃれてくれないことだとか。お喋りしてみたいんだろうなぁ。


 そして10日後……猛毒女王の住む巣穴にやってきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 大瀑布。

 つまり、滝だ。


「す、すんげぇ……」

「わぁ、おおきいね、せんせ」

「あ、ああ……いやはや、自然世界遺産レベルだぞ、こりゃ」


 御者を務める俺の隣に座る三日月。太股の上にはひょうたを乗せており、優しき手つきでなでている。

 俺たちの目の前には、ナイアガラレベルの滝が流れていた。

 いやはや、大自然のすごさに地球も異世界もない。これだけの大自然、言葉じゃ表せないぞ。


「せんせ、毒蛇の女王様はどこにいるの?」

「…………」


 滝の裏に巣穴があるって話だけど……滝の幅が広すぎてどこだかわからん。

 こんな時は、ジークルーネにお願いしよう。

 俺は三日月に馬を任せ、居住車の中へ。


「あ、センセイ、到着したみたいですね」

『もきゅ~』

「ああ。それでジークルーネ、お前の力を借りたいんだ」

「わかりました。じゃあ外に出ましょう」

『きゅぅぅ』


 ごま吉を抱っこしていたジークルーネは、そのままブリュンヒルデにごま吉を渡す。

 ブリュンヒルデは、ごま吉をひっくり返し、お腹をワシワシとなで始めた。


『…………』

『もっきゅうぅ~』

「ブリュンヒルデ、ごま吉はお腹もだけど、頭をなでてやると喜ぶぞ」

『はい、センセイ』


 すると、ブリュンヒルデはごま吉をひっくり返し、頭をなでなでする。


『もきゅう』

『…………』

「はは、気持ちいいってさ」

『…………センセイ』

「ん?」

『私は、異常があるのでしょうか』

「え?」


 ブリュンヒルデは、俺を真っ直ぐ見て言った。

 

『ラミアの巣穴で、私は敵生態を倒すことだけを考えていました。そこに成体も幼体もない、ラミア族は全て敵と認識した上で殲滅をしました。センセイの指示がなければ、間違いなく全て殺していました』

「…………うん」

『私は、センセイの指示を無視しようとしました』

「そうだな。間違いない」

『私は、センセイを守ります。センセイを害する者は、誰だろうと破壊します。ですが……スタリオンを攻撃されたとき、スタリオンが負傷したとき、センセイを傷付けられたと同列に考えてしまいました。私は……深刻なバグを抱えている可能性があります』

「それは違う」


 俺は、一瞬で否定した。

 だってそれはバグじゃない。ブリュンヒルデは、可愛がっていたスタリオンを攻撃されて怒ったのだ。

 

「ブリュンヒルデ、それは成長だ。お前の心が成長してる証なんだ。まぁ、まだ未熟だけどな」

『成長』

「ああ。許せない気持ち、怒る気持ちが、お前の中に芽生えたんだ。まだ押さえが利かないみたいだけどな」

『…………』

「大丈夫。お前の中に芽生えた感情、少しずつ育てていこう」

『……はい、センセイ』


 俺はブリュンヒルデの頭をなで、居住車から出た。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ジークルーネと外に出て、さっそくお願いした。


「ジークルーネ、滝を重点的に、周囲を調べてくれ」

「はい、センセイ。ホルアクティ起動します」


 三日月に周囲を守ってもらい、久しぶりにホルアクティを空に飛ばして周辺をサーチする。

 目的は、毒蛇女王エキドゥナがいる巣穴。まずは巣穴を見つけて。それから次の手を考える。


「せんせ、見つけたらどうするの?」

「んー……ラミアの抜け殻でも掲げて、巣穴に乗り込むか?」

「……せんせ、危ないよ」

「冗談だよ、冗談」


 まぁちょっと本気だったけどな……。

 

「とりあえず、巣穴近くにラミアがいたら、ラミアの皮を持って近付こう。いきなり襲われたりはないと思うけど、用心していくぞ」

「センセイ、滝の裏に巣穴発見。それと、地上にいくつかの隠し通路を見つけました」

「仕事はやっ……ええと、巣穴内部の構造はわかるか?」

「はい。巣穴をサーチしてマッピングしました。けっこう……いえ、かなり広い巣穴ですね。町一つスッポリ入っちゃうくらいの広さかも」

「よし、とりあえず、地上にある巣穴の入口まで案内出来るか?」

「はい、センセイ」


 よし、これで道は開けた……かもしれない。

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