第203話、大瀑布の巣穴

 ジークルーネの案内で、巣穴の入口らしき穴までやってきた。

 ここで問題発生……なんと穴は縦穴、つまり落とし穴みたいな場所だった。

 俺と三日月は穴をのぞき込み、ジークルーネは御者席に座っている。


「こりゃ、エンタープライズ号は留守番だな……」

「どうするの、せんせ。飛び込むの?」

「うーん……」


 エンタープライズ号の護衛もあるし、ここはパーティを分けるべきだな。

 戦闘メンバー数名に俺、残りはエンタープライズ号で留守番か。


「せんせ、わたし行きたい。このくらいの縦穴なら、ジャンプで登れる」

「マップデータを持ってるわたしは行きますよ」

「よし、あとは護衛に……ブリュンヒルデを連れていくか。残りはここで待機、エンタープライズ号の護衛をしてもらう」


 方針を決め、居住車の中へ入る。

 その旨をみんなに伝えると、意外な声が上がった。


「セージさんセージさん、あたしも連れてってください!」

「クトネ? どうした急に」

「これから会う毒蛇女王エキドゥナは、妖術の達人なんですよ! もしかしたら妖術の情報が手に入るかも!」

「……あのな、遊びじゃないぞ。ラミアの皮があるとはいえ、完全なアポなし訪問だから危険だ」

「危険なんて、今まで何度もあったじゃないですか! それに、あたしだってやるときゃやるんですよ! セージさんの魔術師匠を舐めないでください!」

「……わかった」


 ここまでクトネが熱いとはな。よっぽど妖術に興味があるようだ。

 ラミアの皮を半分ほどちぎり、旗のように棒に括り付ける。

 そして、再度ジークルーネに確認。


「本当に、この縦穴にラミアの巣があるんだな?」

「はい、センセイ。巣穴というか町みたいな感じですね。希薄ですけど、かなりの生体反応が感知されています」

「……よし。このラミアの皮を信じるしかない。ブリュンヒルデ、三日月、戦闘は最後の手段だ。殺すのはダメだぞ」

「うん、せんせ」

『了解』

「クトネ、お前も」

「大丈夫ですって!」


 穴の前に集まり、ゼドさんに言う。


「ゼドさん、そっちはお願いします。もしラミア族に見つかっても、できることなら殺さないで下さい」

「ほんと甘めーやつだなオメーはよ。まぁわかった」

「ルーシア、キキョウ、アルシェも」

「わかった。私も無益な殺生は好まないからな」

「わかりました」

「ほいほーい。まぁテキトーに射抜いてやるわ」


 この残留メンバーなら大丈夫だろう。

 よし……準備は完了。いくか。

 俺は荷物のロープを取り出し、穴の近くにある木に結び付ける。

 相当な深さの縦穴だ。長さが足りればいいけど……。


「よし、みんな、慎重に行くぞ」


 と、気合を入れた。


『失礼します。センセイ』

「え」

「クトネはわたし」

「え」

「お姉ちゃん、センセイに衝撃が伝わらないように着地を」

『了解です』

 

 ブリュンヒルデに担がれた俺、三日月に担がれたクトネ。


「も、もしかして……」

『センセイ、口を閉じることを推奨します』


 次の瞬間、ブリュンヒルデが穴に飛び込んだ。

 圧倒的浮遊感。三日月も飛び込んだ。ジークルーネも……。


「ひっ……っをぉぉぉぉぉぉぉぉっーーーーーっ!? っもが!?」

「うっきゃぁぁぁぁっーーーーーっっ!? っもっご!?」

『お静かにお願いします』

「気づかれちゃう。しーっ」


 口をふさがれ、俺たちは堕ちていった……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…………」

『センセイ、起きて下さい。センセイ』

「む……」


 目を開けると、真っ暗な岩場にいた。

 縦穴から飛び降りたあとの記憶がない……どうやら、気を失っていたようだ。

 

「う~……みんな、無事か?」

『私は問題ありません』

「わたしも大丈夫です、センセイ」


 クトネを見ると、ふらふらしていたが何とか起きた。


「あ、あたしも平気です……シリカを置いてきてよかった」


 あとは三日月だけど……。

 すると、足下に小さなペルシャ猫がいた。俺の足に身体をこすりつけてくる。


『せんせ、ここ』

「ん……三日月? どうして子猫モードなんだ?」

『ここ、暗いから。この姿だと夜目がきくの。昼間みたいに見えるよ』

「そりゃ羨ましいな。ジークルーネ、マップは?」

「はい。周囲をサーチしてマップデータ作成。センセイのバンドに転送しまーす」

「お、すっげ……ぇけど、なにこの迷宮!?」


 ホルアクティの操作バンドにマップが表示されるが、とんでもない迷宮だった。

 すっげぇ難解なダンジョンみたい……ここ、本当に巣穴なのか?


「センセイ、どうしますか?」

「…………こういうのは、巣穴の中心を目指すのが定石だ。ジークルーネ、案内できるか?」

「大丈夫です。最短ルートを検索しまーす!」

「よし、ブリュンヒルデは護衛を頼む。クトネ、三日月を抱っこしてくれ」

「はいはーい。ふふ、シオンさんふっかふかです」

『うにゃー』

「よし……じゃあ、行きますか」


 毒蛇女王の巣穴探索開始です!


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 真っ暗闇。

 光のない洞窟はとても怖く、デコボコした地面は歩きにくい。それに、滝の音がとても響き、洞窟内は常に微弱な振動をしていた。

 

「こ、怖いな……」

「で、ですね……し、シオンさん?」

『にゃあ。大丈夫だよ』

「はいぃ……う~んもっふもふ」


 クトネは三日月を抱きしめ、モフモフしていた。シリカに言いつけてやろうか、浮気だってな。


『センセイ、生体反応感知』

「え……まさか、ラミアか?」

『いえ、形状から大蛇と考えられます。4分後に接触。戦闘許可を』

「も、もちろんだ。あと、洞窟を破壊しないように手加減しろよ?」

『了解。エクスカリヴァーン・アクセプト展開』


 ブリュンヒルデは大剣モードのエクスカリヴァーンを持ち、真っ暗な洞窟をスタスタ歩く。ブリュンヒルデやジークルーネにも、この洞窟は昼間のように見えてるらしい。


『敵を殲滅します』


 そのまま1分ほど歩き、ブリュンヒルデは立ち止まる。

 真っ暗で見えないからよくわからん。

 クトネと顔を合わせ首を捻ると、ブリュンヒルデはエクスカリヴァーンを槍投げのようなスタイルで構えた。


「お、おいブリュンヒルデ?」

『…………』


 無言のまま2分……。


『せんせ、きたよ』

「え? な、なにが?」


 答えを聞こうとした瞬間、ブリュンヒルデはエクスカリヴァーンを投擲した。

 ギョッとする俺とクトネ。

 風を切って飛ぶエクスカリヴァーンは一瞬で見えなくなり、同時にボチュチュチュチュチュッ!! と、水っぽい音が洞窟内に響いた。


『殲滅完了しました』

「え……」


 真っ暗なので確認しようがない。でも、ブリュンヒルデが倒したと言ったなら倒したんだろう。


「ええと、道はこっちですね。もう少しでラミアの集団と接触します。行きましょう」

「あ、ああ。よし、行くぞ」


 脇道に入り、先を進んだ。

 ちなみに何が起きたかというと、蛇が現れたと同時にエクスカリヴァーンを投擲し、頭から尾の先まで貫通させたそうだ。

 つまり、この道には巨大な蛇が横たわってる……暗くてよかったよ。


 そして、ついに俺たちは、ラミアと遭遇する。

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