第201話、センセイにできること
巣穴の中でラミアの手当てをした俺たちは、数人のラミアだけ動けるようにして、残りはジークルーネに拘束してもらった。
子供のラミアは母ラミアに抱き着いて泣いている……襲われたのに、胸が痛くてしょうがない。
子供を抱きしめた母ラミアに向かって、俺は言う。
「戦った後で言うのもなんだが、俺たちはラミア族と諍いを起こすつもりはない。話を聞いてくれ」
「……馬鹿を言うな、オーガ族を制圧した人間。オーガ族の次は我々を狙ってきたのだろう。我々は誇り高きラミア族、辱めは受けんぞ!!」
「辱めって……お前は女騎士か」
子供を抱きしめ、俺を睨む母ラミア。
オーガ族の件を知ってるってことは、どこかで見ていたのだろうか。
「いいか、俺たちは襲われたから戦っただけ。これは正当防衛だ。俺たちから戦いを仕掛けるつもりはない。もちろん襲われたら自分を守るために戦うけどな。それに、仲間の怪我はしっかり治療してやっただろう? もう一度言う、俺たちは話がしたいんだ」
「…………」
母ラミアは、仲間を見て俺を見た。
スタリオンのことは許せないが、ダメージ的にはラミア族のが上だろう。痛み分けってことで手を打ってもいい。
「……話、とは?」
「聞いてくれるのか?」
「……信用できないが、聞くだけなら聞いてやる」
「それでいい。ありがとう」
ジークルーネに頼み、残りのラミア族を覚醒させる。
キキョウやブリュンヒルデが睨みを利かせたのが効いたのか、戦闘の意思は感じられない。
母ラミアも、仲間を制してくれた。すると、巣穴の奥から少女ラミアたちがわらわら出てくる……どうやら、子供たちは巣穴の奥に避難させていたようだ。
子供と抱き合うラミア族は、母の顔だった。
『…………』
その光景を見たブリュンヒルデは、何を思うのだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
母ラミアは、この巣穴のリーダーだった。実に好都合。
巣穴の奥に案内され、岩を平らにしたテーブル? の前に座る。ちなみに椅子などないので地べたに直座りだ。
娘ラミアは幼女ラミアを抱いて奥へ……そうか、隠れてたけど母親が心配で外に出てきたのか。
「娘に色目を使うとはいい度胸だな……人間」
「ちち、違うっつーの!! 勘違いすんなっ!!」
「セージさん、貴方……」
「セージ、お前……」
「キキョウもルーシアもそんな目で見るな!!」
ちなみに、巣穴の奥に来たのは3人。俺とルーシアとキキョウだ。
残りは居住車で待機。ブリュンヒルデとジークルーネは、スタリオンの傍に付き添っている。
「して、話とはなんだ、人間」
「ああ、回りくどいのはなしで本題に入る。お前たちの王、
「…………やはり、女王を殺すのか」
「違う。殺しはしない……話をするんだ」
「何を話す?」
「この戦いを止めるんだ」
俺の中に、一つの目標が出来上がっていた。
オーガ族の集落を見て、子供たちが苦しんでいた。王を決める戦いとかで、子供が苦しむ道理はない。
地球でそんなことを言っても無駄だ。一個人にできることなんてたかが知れている……せいぜい、安全な場所でパソコンを開き、ネットの情報を見て嘆きながら、募金をすることしかできない。
でも、ここは異世界だ。
頼りになる仲間と力を合わせれば、ここの流れを変えれるかもしれない。
例えば……。
「王は1人、なんて考えを捨てて、3つの種族が手を取り合ってこの領土を治めるんだ。種族の勝手な都合で子供たちが苦しむ今の現状を変えたい。だから話をしたいんだ」
「…………そんなこと、できると思うのか?」
「できる。まずは三つの種族を説得する。そのためには戦うことも辞さない。同じテーブルに座って、腹を割って話すんだ。もちろん、反対の意見もあるだろうし、長年の確執もある。それでも、戦っていがみ合うよりはいい」
「…………くだらん」
「くだらなくてもいい。俺は、どんな手段を使ってもきっかけを作るぞ」
「…………」
つい熱くなってしまった。
ルーシアとキキョウも俺を見て驚いてるのがわかる。
ラミア母は、小さく息を吐いた。
「なぜ、人間がそこまでする。お前にこの領土の問題は関係ないだろう」
「……確かに関係ないけどな。でも、自分でも世界を変えれるかもって思ったら、どうしてもやってみたくなってな」
日本じゃ、一個人の俺に何かできるとは思えない。仮に国を変えると政治的な行動を起こしても、圧倒的な権力によって叩き潰されるのがオチだろう。
でも、ここなら、ここでなら何かをできるかもしれない。
仲間と力に恵まれた今なら、何か残せるかもしれない。
「無茶でも無謀でも、できるならやってみたい。余計なお世話かもしれないけど、子供が泣くような世界なら、それはきっと間違ってると思うから。だから、争いのない領土ができるなら、それを目指してみたい……たとえ、関係のない部外者でもな」
「…………」
オーガ族の少年アド、そしてこの母ラミアの娘の涙。そんな悲しい涙が流れないような世界を目指すのは、きっと悪いことじゃない。
「頼む、エキドゥナの居場所を教えてくれ」
「…………」
母ラミアは、幼女ラミアを抱いてこちらを見る少女ラミアを見て、俺を見る。
「……いいだろう」
「本当か!?」
「ああ。あの子たちが泣くような世界は、私も……仲間たちも望んでいないからな」
「……ありがとう!!」
母ラミアに、エキドゥナのいる巣穴の場所を教えてもらった。
ここから10日ほどの距離にある大瀑布に、巣穴を構えているらしい。
「あとさ、俺たちが出てきたオーガ族の集落を知ってるなら……話でもしに行ったらどうだ? 憎しみあうだけじゃなくて、一緒に酒でも飲みながらメシでも食ってみろよ」
「…………」
母ラミアは、何も言わなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エンタープライズ号に戻り、手土産をもらって巣穴を出た。
スタリオンは完全に回復し、いつもと変わらずに走っている。
御者席に座るクトネが、エンタープライズ号に吊るしてある手土産を見て唸っていた。
「あの、なんですかこれ……」
「ラミアの脱皮した皮だってよ。これを持ってるとほかのラミアに襲われることはない、むしろ協力してくれるだってさ」
ラミアは、数年に一度脱皮する。
脱皮した皮は自分で食べるのが普通で、誰かの目に触れることはない。だがその皮を所有しているということは、ラミアが自ら譲渡したというなによりの証。つまり、信頼の証という意味だ。
「センセイ、これ……食べれるの?」
「いや、食べないぞ」
「セージさんセージさん、シリカがめっちゃ警戒してるんですけど……」
『…………しゃあ!!』
クトネの太ももで軽く唸る。どうやら抜け殻が気になるようだ。
「ま、まぁいいだろ。魔除けみたいなモンだし……それより、次は毒蛇女王との対面だ。気を引き締めていくぞ」
「はい、センセイ」
「わっかりました!」
次の目的地は毒蛇女王の巣穴だ!!
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