第200話、BATTLE・ラミア族
エンタープライズ号は、たくさんのラミアに囲まれていた。そして、俺は初めてラミア族という存在を視認する。
上半身は美しい女性で下半身は蛇というテンプレで、尾の長さは一体につき五メートルくらいか、個体によって長さが違う。
エンタープライズ号を包囲しているのは、20人ほどのラミアだ。木に尾を巻き付けてぶら下がったり、地を這うようにして無音で移動してきたようだ。
「センセイ、生体反応が希薄で位置を特定しにくいです。それにサーモセンサーにも反応しない……たぶん、ラミア族は体温を自在に変えることができるんだと思います!」
ジークルーネは叫ぶ。
なるほどな。音もなく移動するのに加え、生体反応が希薄だから感知しにくいときたもんだ。アルシェやキキョウはともかく、ジークルーネが見逃すとは思えない。こんな理由があったなんてな。
「セージ、用心しろ!!」
「わかってます!!」
ジークルーネを守るように立ち、剣を構える。
俺の前には、両手に剣を持ったラミアが立ちふさがる。
「来いっ!!」
「シャァァァァッ!!」
ニュルニュルと蛇行しながら迫ってくるラミア。めっちゃ怖い!!
「このっ!!」
ビームフェイズガンを乱射するが当たらない。あまり威力を上げると森が焼ける可能性があるからな。
ラミアは、両手の剣をクルクル回転させながら迫ってきた。やばいこいつ、俺より強いかもしれない。
「シャァァァァッ!!」
「うわっ!? この、おんどりゃぁぁぁっ!!」
「なっ!?」
ラミアの剣とキルストレガがぶつかった瞬間、ラミアの剣がすっぱりと折れ……いや、切れた。
キルストレガの切れ味舐めんなよ? こいつは剣を斬る剣だからな。
「オラァッ!!」
驚いたラミアのどてっぱらに最小出力のビームフェイズガンを当てて吹っ飛ばす。みんなには申し訳ないが、どうしても殺す気にはなれない。
「おいセージ!! こっちも手伝わんかっ!!」
「は、はいっ!!」
ゼドさんが、ラミア二体と同時に戦っている。不利には見えないが、二対一じゃやられてしまう。
俺はゼドさんに加勢すべく、キルストレガを握りなおした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
三日月は、迫りくるラミア相手に一歩も引かなかった。
両手の爪を伸ばし、ラミアの剣を爪で受け流しながらチャンスをうかがう。
「っわわっ!!」
すると、木に巻き付いたラミアが矢を放ってきた。
なんとかギリギリで回避するが、危なかった。
「……森の中、ちょっと不利かも」
ここは、ラミア族のホームグラウンドだ。地形を熟知しているだろうし、トラップや隠れ場所なんてのもあるだろう。
攻撃を捌くのは余裕だが、一撃入れようとすると邪魔が入る。
三日月は集中して周囲を探る。
「……上に二、下に三」
このまま戦えばいずれ勝てるだろうが、体力はごっそり消費する。
『猫王』モードで戦うには木々が邪魔……なら、手は一つ。
「新アビリティ……『ネコの絆』」
三日月は、新しく習得した能力を解放する。
「みんな、きてっ!!」
三日月が鳴くと、ネコたちがエンタープライズ号から飛び出し、一目散に三日月の元へ。
「みんな、力を貸して!!」
『ええ、もちろん』と、みけこ。
『まかせて!』と、くろこ。
『ふ……出番か』と、はだお。
『任せろや!』と、ひょうた。
三日月は子猫モードになると、全身の青い毛が逆立ち、4匹の猫たちは青い光に包まれた。
『新技、『
5匹の猫たちは、青い光を纏いながら飛び出した。
人間が猫になったことに驚くラミアだが、やることは変わらない。たとえネコだろうと、剣で身体を両断すればそれで終わり……。
『しゃぁっ!!』『にゃぁぁっ!!』『ふしゃーっ!!』
「なっ……はやっ」
高速で駆け回るネコを捉えることすらできない。
そして、みけことくろこの爪が、ラミアの身体を抉り始めた。
「ぐっ……この、ネコが!!」
『遅い遅い、あくびがでるわ』『みけこ、さっさと終わらせるわよ』
三毛猫と黒猫が、超高速でラミアを抉り……いや、切り刻む。
あまりの速さに動くこともできず、傷だけが増えていくラミアは、出血からその場で倒れた。
そして、のっそりと歩くひょうたの前に、一体のラミアが。
「ネコがなにさ!!」
『ん?』
ひょうたに向かって棍棒を振り下ろし、その頭部を砕こうとしたが、砕けたのは棍棒のほうだった。
こんな小さなネコに、ラミア渾身の一撃を防がれた。
「なっ……」
『痛いんじゃボケがぁぁぁぁぁっ!!』
「ひっ……うあぁぁぁっ!?」
ひょうたは、ラミアの尻尾に噛み付くと、そのまま思いきり持ち上げて振り回し始めた。
ネコではありえない怪力に、ラミアはわけがわからない。そして、そのまま近くの岩に叩き付けられ、頭から血を流して気絶した。
そんなひょうたを、木に巻き付いて狙撃しているラミアが弓で狙っていた。
『へい、物騒なものを向けるんじゃないよ』
「えっ」
すると、枝の上でくつろぐ一匹の毛無ネコに声をかけられる。
「な、ね、ネコだと!?」
『そう、ネコさ。愛しのシオンに頼まれたんでね、君たちを倒させてもらう』
毛無ネコのはだおは、鋭い爪でラミアの顔を何度もひっかいた。
二体のラミアは、はだおによって倒され木から落下、そのまま気を失った。
そして、青い毛のペルシャ猫こと三日月しおんは、最後の一体であるラミアと対峙していた。
仲間が猫にやられた衝撃で、脂汗をダラダラ流している。
「こ、こんなネコに……」
『わたしのネコ、強いでしょ? 新しいスキル『猫の絆』は、わたしの飼い猫を限界まで強くすることができるの。パワー・スピード・防御力、どれもすごいでしょ?』
「舐めるなぁぁぁぁぁっ!!」
ラミアは、双剣を構えて三日月にとびかかるが、子猫モードの三日月に当たるはずもない。三日月は周囲の木々を足場に飛び回り、ラミアの背中を爪で引き裂いた。
「っぐぅぅっ!! このネコ」
『終わり』
三日月は飛び、人間モードに変身する。
「『
両手に伸びた長い爪が、ラミアの胸を切り裂いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
周囲のラミアを一掃したようだ。
ルーシアとキキョウは当然のように無傷。アルシェはピナカの矢で数体倒し、クトネは土魔術で防壁を作ったり、小石を飛ばして援護、ゼドさんは5体倒し、三日月も5体、俺は2体だけ……いや、こういうのは数じゃない。
ジークルーネに元に行くと、スタリオンを優しくなでていた。
「スタリオンは無事か?」
「はい。落ち着いたみたいです……よかったぁ」
『ブルルル……』
ほかの仲間は、周囲を警戒している。
アルシェはラミアの接近を許したことを悔やんでいるようで、エンタープライズ号の上から全力の警戒をしている。
とりあえず、ラミアをなんとかしないとな。
「よし、ラミアを拘束してブリュンヒルデのところに行こう。ゼドさん、ロープか何か」
「あ、拘束ならわたしに任せてください」
「え?」
ジークルーネが『華』出すと、周囲にナノマシンを散布する。
20秒ほど散布すると、笑顔で言った。
「神経麻痺処置完了。半日後にナノマシン活動を再開して神経修復を行うようにセットしました。意識ははっきりしてるけど指一本動かせない……スタリオンの受けた苦しみに比べたら大したことありませんが」
「そ、そうかい……」
ジークルーネ、恐ろしいことをサラッとやるな。
意識がはっきりしてるのに動けないって、目の前に凶悪なモンスターが出ても動けないってことだろ?
「よし、周囲を警戒しつつ巣穴に行こう」
そう言い、スタリオンには悪いけどエンタープライズ号で移動した。
そして……地獄絵図を見た。
「ゆ、ゆるひて……」
『…………』
ブリュンヒルデが、ラミア族を壊滅させていた。
下半身の尾が切断されたラミアが何十人も横たわり、殴られたのか顔が変形しているラミアもたくさんいる。
巣穴の近くだからか、出てくるラミアをギッタギタに叩きのめしたみたいだ。
ブリュンヒルデは、尾が切断され顔が変形したラミアの首根っこから手を放す。
「ぶ、ブリュンヒルデ……」
『センセイ、有力情報を取得。データの共有を申請』
「あ、ああ……」
さすがに、これはひどすぎる……。
「ブリュンヒルデ、やりすぎだ」
『ですが、ラミア族はスタリオンを攻撃しました。私が処理したラミアは全て生存しています。尾を切断しましたが再生可能です』
「…………」
ラミア族の尾は、切断されても生えてくる。
治癒力が高いので、致命傷じゃない限り怪我は治る。
オーガの町で得た知識だが……この惨状を見るとさすがに心が痛む。いくら相手から仕掛けてきたと言っても、これはやりすぎだ。
そして。
「…………」
『センセイ、離れて下さい』
「え?」
『ラミア族の生き残りです』
「…………あ」
俺は見た。
巣穴の陰でおびえるように震えていたのは……ラミアの子供だった。
ブリュンヒルデは、エクスカリヴァーンを構え────────。
「やめろブリュンヒルデ!!」
『────────敵は処理します』
「ブリュンヒルデ!!」
『っ』
俺は初めて、ブリュンヒルデの頬を叩いた。
「子供だぞ」
『はい』
「────────もういい。戦闘は終わりだ。先に仕掛けてきたのはラミア族だけど、手当てをしていく」
これに対する反対意見はなかった。
さっきまで戦っていたラミアも巣穴に運び、ジークルーネに治してもらう。
『…………』
ブリュンヒルデは、何も言わずに作業を見ていた。
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