第199話、ブリュンヒルデの怒り

ラミア族は、家を建てたりするのではなく、洞穴などで生活しているらしい。

 好まれるのは迷宮のように入り組んだ洞窟で、妖術を使ったトラップをいくつも仕掛け、獲物を誘い出しては始末する。

 拠点を構築して誘い出す、カウンタータイプの戦い方を得意とするようだ。


『センセイ、私とジークルーネに妖術とやらは通用しません。巣穴を見つけ次第、一網打尽にします』


 なんてブリュンヒルデが言った。

 というかこの子、最近益々好戦的になってるような気がする。


 だが、俺たちの目的は一網打尽ではない。ラミア族の王エキドゥナを抑えて、戦闘の意思をなくすこと。オーガ族のように投降させることだ。

 

 そのためには、まずエキドゥナを探さないといけない。

 オーガ族の見つけた巣穴を調べ、エキドゥナの情報を入手する。問題は、妖術とやらの危険性に、ラミア族の個体情報だ。


オーガ族の説明じゃあラミア族がどんな存在だかわからない。

 まぁブリュンヒルデやキキョウが負けるとは思わないけど、いざという時はある。

 

まずは、巣穴の一つ目に向かって、ラミア族に接触しよう。

オーガ族みたいなきっかけがあれば友好関係を結べるかもしれないが、そう簡単にいくとは思えない。

警戒しつつ、巣穴を目指そう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オーガ族の村を出て数日後……。


「ラミア族かぁ……」

「たしか、この領土の王様なんですよね」

「ええ。毒蛇女王ヴェノムクィーンエキドゥナ。ラミア族最強の妖術使いにして、最も長い尾を持つラミアと言われてますねー」

「クトネ、詳しいな」

「これくらいは常識です! まぁ妖術たぐいの話は知りませんでしたが……」


 御者席に座る俺、ジークルーネ、クトネ。

 クトネは太ももにシリカを乗せ、優しく背をなでている。


「セージさんセージさん、もしラミア族に話を聞けたら、妖術のことも聞きましょうよ。妖術を研究して学園で発表すれば、魔術研究者としての道が開かれるかもっ!!」

「そういえばクトネって魔術学園の生徒だっけ」

「忘れてたんですか!? あのですね、戦闘じゃそんなに役立ってないですけど、あたしはあたしで頑張ってるんですからね!! この旅のレポートを書いたり、戦ったモンスターや相手の情報をまとめたり、もう一冊の本が完成するレベルですよ!!」

「お、おう……悪い」

「あたし、オストローデ王国とのケリを付けたら復学しますから、セージさんにはマジカライズ王国を取り戻してもらわないと!」

「ははは……わかってるよ」


 そうだな。頑張らないと。

 生徒たちを取り戻して、日本に帰るんだ。

 そのために、できることをしっかりとやろう。


「センセイ、もうすぐお昼の時間ですね」

「やたっ、セージさんご飯です!」

「はいはい」


 まずは、お昼の支度かな……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オーガ族の町を出て十日後……。


『センセイ、目的地まであと少しです』

「来たか……ラミア族の巣穴」

「セージセージ、怪しいヤツいたら撃っていい?」

「だーめだっつの。まずは話し合いできるかどうか試す」

『センセイは私が守ります』

「ああ、頼んだぞ」


 ラミア族の巣穴1つ目。

 御者を務めるブリュンヒルデに、エンタープライズ号の屋根の上でうつ伏せになり、足をバタバタさせるアルシェ、そして俺だ。


「話が通じるといいけど……」

「オーガ族曰く、話は通じず、巣穴に誘い込み絞殺または妖術で殺害、引きこもりがちだが野外戦闘も侮れない……だっけ」

「かなりやばいな……とにかく、まずは話を」


 と、ここまで言うとアルシェが身体を起こし口笛を吹いた。


「え?」

「敵襲!!」

『……』


 呆然とする俺。

 そして、スタリオンの首に細い矢が刺さった。


『ヒッヒィィィィィンンン⁉』

「スタリオン!? な、なんで」

「敵だって!! 洞窟の周りにラミアがいる!! みんな弓を持ってる!!」


 アルシェが口笛を吹くと、ピナカの矢が飛んでラミアの矢を打ち落とす。

 甘かった。ラミア族はこちらを敵と認識している。


「くそ、スタリオン、大丈夫か!?」

『ブル、ぶるる……』


 スタリオンは崩れ落ち、スプマドールが心配そうにスタリオンの顔を舐める。

 矢は細く貫通していない……くそ、とにかく。


「ジークルーネ、ジークルーネ、来てくれ!!」

「はい、センセ……スタリオン!?」

「頼む、スタリオンを治してくれ!!」

「はいっ!!」


 すると、騒ぎを聞きつけたのか、キキョウとルーシア、クトネと三日月が下りてきた。

 ゼドさんが斧を担いで降り、俺に言う。


「セージ、敵だな!? ラミアか!!」

「はいっ!! ラミアの巣穴前で、遠くから矢でスタリオンが!!」


 各々が、戦闘態勢を取る中。


『センセイ』

「ブリュンヒルデ、お前も……」


 俺は、初めて見た。


『センセイ、敵生体の殺害許可を申請します』

「……っ!!」


 ブリュンヒルデが、怒りに燃えているのを。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『敵生体排除に向かいます』


 ブリュンヒルデはヴィングスコルニルを召喚、バイクモードに変形させて跨る。

 

『第二着装形態へ移行』


 エクスカリヴァーンが変形し、盾と槍を装備。木々がひしめく森の中を、巧みなドライブテクニックで走り出した。

 殺害許可は……出さなかった。

 だけど、ブリュンヒルデは可愛がっていたスタリオンを傷付けられ、本気で怒っている。


「……ここはブリュンヒルデに任せる。俺たちは馬の護衛と居住車の防衛、アルシェは付近の偵察を頼む」

「了解!!」

「せんせ、スタリオンは……」

「大丈夫。ジークルーネ、どうだ?」

「…………うん、大丈夫。矢に毒が塗られていたけど解毒完了。矢が細くてよかった」

「そうか……よかった」

「うん。本当によかった……」


 ジークルーネは、スタリオンに抱きついた。

 スプマドールも安心したのか、スタリオンに寄り添っている。


「……どうやら、ラミア族は隠密戦闘も得意なようです」

「みたいね。やばいよセージ……囲まれてる」

「よし、ジークルーネは馬の護衛、キキョウとルーシアと三日月は敵を迎え撃ってくれ、アルシェとクトネは全体のサポート、ゼドさんはジークルーネの護衛とエンタープライズ号の防衛をお願いします!!」

「わかりました。申し訳ありませんが、私は遠慮しません」

「任せろセージ!」

「久しぶりに本気だす。あと、新技見せる」


 キキョウとルーシアが武器を構え、三日月は両手の爪を伸ばしネコミミと尻尾を出す。


「アルシェさん、あたしにあんまり期待しないでくださいね!」

「やる前から何言ってんのよ。まぁアンタに届く矢はガードしてあげる」


 アルシェはエンタープライズ号の屋根に乗り、遠慮がちにクトネも登る。


「ジークルーネ、馬をしっかり守れよ。こっちに来る雑魚はワシがぶっ潰す!!」

「お願いします!! この子たちを傷付けられて、わたしだって怒ってるんですからね!!」


 ゼドさんが斧を振り回し、ジークルーネの周りには『華』が咲く。


「よし……やるぞ!!」


 俺は剣を抜き、腰の銃を抜く。

 久しぶりの、仲間全員での戦いが始まった。

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