第198話、タケミカヅチ・Type-SUSANOO②/不安
ゴエモンとバンショウは、胡坐をかいて座り、酒を飲んでいた。
バンショウは、ゴエモンの盃に古そうな徳利に入った酒を注ぐ。
「飲め。ワシの故郷の酒じゃ」
「……かたじけない」
透き通る水のような液体だ。だが、強い香りがこの液体を酒だと認識させる。
ゴエモンもバンショウの盃に酒を注ぎ、剣豪二人の酒盛りが始まった。
つまみは、これまでの人生。
「ゴエモン、お前さん……強さの果てに何を見る?」
「……さぁのぅ。まぁ、その果てとやらを見てから考えるとしよう」
「ふん、小童が生意気言いよって」
バンショウは、カッカと笑う。
そして、目の前にいる男にアドバイスを送った。
「ゴエモン。強さを求めるのは楽しいが、その先をしっかり見据えろ。戦いたいように戦い、斬りたいように斬る、それではただの暴君だ。お前が何を目指すのかは知らんが、お前の中に決して折れない一本の『芯』を入れろ」
「芯?」
「ああ。信念というやつだ」
盃に酒を注ぎ、バンショウは一気に飲み干した。
「このワシを負かしたんじゃ……ゴエモン、お前さんにワシの剣をやる。お前さんが向かう先の景色を、ワシの剣に見せてやってくれ」
「……承知した」
ゴエモンは、バンショウに頭を下げた。
「ふぅ~……酒がうまい」
バンショウの胸から、おびただしい量の血が流れていた。
ゴエモンと全力で戦い敗北。己の死期を悟り、最後の酒盛りをしていたのである。
そんなバンショウに、何も言わずゴエモンは付き合った。
「バンショウ。お前さんの剣と技、これからもワシの中で生き続ける」
「ああ……」
バンショウは、静かに目を閉じ……そのまま動かなくなった。
「…………『無剣』のバンショウ。その名、儂の胸に刻んでおく」
ゴエモンは静かに黙祷し、バンショウに向けて頭を下げた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
バンショウをその場に埋葬し、墓標代わりにバンショウの大太刀を刺し、酒を注ぐ。
しばし黙祷を捧げていると、ゴエモンの背後に人影が。
「終わったのですか?」
「…………ああ」
「そうですか。では任務をお願いします。このラミュロス領土にセンセイ一行が入ったとの情報がありました。本格的なデータ収集を行いますので、code04と全力で戦って下さい。可能なら破壊を」
「…………まだ駄目じゃ。まだ『夜笠』が残っちょる」
人影ことアシュクロフトは、僅かに眉を顰める。
「ゴエモン。これ以上、あなたの我儘に付き合っていられる状況ではありません。センセイ一行の戦力はもはや無視できないレベルになっています。計画に支障が出るレベルではありませんが、放っておくと厄介なことになる」
「だったらお前がやれアシュクロフト。それと、今は静かにしろ……墓前じゃ」
「……まだ、私の出る幕ではない。ゴエモン、死んだ人間にかまけてる場合ではないのですよ。我々の目的をお忘れですか」
次の瞬間、ゴエモンの太刀がアシュクロフトの首に添えられた。
「────────ッ!!」
「次、死者を侮辱してみろ……同志といえ容赦せん」
ぎらつくような目で、アシュクロフトを睨みつけた。
ゴエモンは剣を収めると、静かに歩き去る。
「夜笠の居場所を摑め。そいつを斬ったら仕事してやる」
「ゴエモン……ッ!!」
「なんじゃ。儂と戦るんか?」
「…………チッ、わかりました。ですが、このラミュロス領土にいるとは限りませんよ」
「場所さえわかればこっちから追いかける。ほれ、さっさと探さんか」
「…………」
ゴエモンは、そのまま歩き去った。
残されたアシュクロフトは、空を仰ぐ。
「オストローデ最強……ゴエモンは危険ですね」
ゴエモンは、人間に入れ込みすぎている。
下手をすれば、アンドロイドを裏切り人間に付く可能性もある。
もしセンセイ一行にゴエモンが加われば……オストローデ王国にとって最大最強の障害になるだろう。
「これは、急がないとなりませんね……」
アシュクロフトは、七領土に潜航させているアンドロイドに指示を出し、『夜笠』の行方を捜索させる。
夜笠がセージたちと行動を共にしていると知ったのは、指示を出してから6時間後のことだった。
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