第194話、オーガの町へ

 居住車に戻り、全員を集めて話をする。

 村長からもらった方法を、仲間全員で共有するのだ。


「……というわけで、オーガ族の町に向かう。そこでオーガ族最強の『鬼王キオウダイモン』っていう王候補のオーガを倒そう!」

「いやいやセージさん、そんなあっけらかんと言われても……」

「だが、わかりやすくていい。ウダウダ難しい話をするよか、力でねじ伏せて言う事を聞かせるっちゅうことじゃな」

「ま、まぁ。言い方はアレですけど……」


 オーガの頭が悪いということじゃない。今回は王を決める戦いに乱入するんだ。オーガ族が力で来るなら、真っ向から迎え撃つ。

 そのための協力者もいる。


「村長から、ガドさんを案内に付けてもらった。俺たちだけじゃ敵だと思われるからな」


 ガドさんに町まで案内してもらい、ダイモンと話をする。

 力で来るなら叩き潰し、話してわかるならそれでいい。

 

「出発は明日……今日はゆっくり休もう」


 ◇◇◇◇◇◇


 夜。

 オーガ族に炊き出しを行い、俺たちの夕食も終えて自由時間。

 俺とルーシアとキキョウはバーカウンターで酒を飲み、ゼドさんは早めの就寝、ブリュンヒルデとジークルーネは外で馬たちの警護、残りの女子はネコとごま吉たちの部屋でお喋りをしていた。

 俺はつまみのチーズを齧りながら、キキョウに言う。


「キキョウ。鬼王との戦いだけど」

「私がやります。オーガ族最強の戦士、相手にとって不足はありません」

「そ、そうか……相手が未知数だからブリュンヒルデに任せようかと思ったけど」

「私がやります」

「……わかった。いいかルーシア?」

「私に是も非もない。今の私は実力不足を痛感している……相手が未知数ならば、確実な方を選べ」


 ルーシアは、ワインを飲んでサラミを食べる。

 キキョウはカットフルーツを食べ、ウィスキーを飲む。意外にもキキョウ、飲めればなんでもいいらしい。


「ルーシアさん、ハッキリ言いますが、あなたならS級も夢ではありません……全て、さらけ出す覚悟があるなら、ですが」

「…………」

「あなたの能力……使わない理由は知りません。ですが、自分の能力に蓋をした状態で強くなれるとは思わないことです」

「…………」

「お、おいキキョウ」

「それとセージさん、あなたはまず、いちいち驚かないことと、妙な奇声を上げることを止めましょう。全てはそこからです」

「き、奇声ってなんだよ!? 俺は真面目にやってるぞ!!」

「無自覚とは……」

「すまんセージ、私もあの奇声はやめて欲しい」


 ルーシアまで……奇声って、地味にショックなんだけど。

 というか今更だけど、美女2人と晩酌って最高じゃね?


「オーガの町までの道中も訓練は続けます。いいですね?」

「もちろん、頼むぜ」

「ああ、私も覚悟を決めよう。その代わりキキョウ、後悔するなよ」

「もちろん……あなたの能力、楽しみです。セージさんの能力も知りたいのですが……」

「あ、俺のは戦闘じゃ役に立たないんで」


 いやマジで……もっと戦闘系の力が欲しかったよ。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。村に別れを告げて出発した。

 案内はガドさん。息子のアドくんは奥さんと一緒に村へ残った。

 ガドさんは、エンタープライズ号の前をのっしのっしと歩く。

 御者席に座る俺は、前を歩くガドさんに聞く。


「あの、町までどれくらいの距離ですか?」

「7日ほどだ。言っておくが、道中襲われることも考えておけ」

「わかりました」


 ラミア族、龍人族か……もちろん、やられるつもりはない。


「ジークルーネ、周囲の索敵を怠るな。ブリュンヒルデ、メインウェポンの使用を許可する」

「はい、センセイ」

『はい、センセイ』

「アルシェ、お前も頼むぞ」

「りょーかーい。敵がいたら眉間に矢をぶち込んでやるわ」


 うーん、実に頼りになる女性たちだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 5日後。

 キキョウと訓練しつつ、オーガ族の町へ。

 道中、襲われることはなかったが、食糧確保のためにモンスターを襲うことはあった。

 

 訓練は順調に進んだ。

 チート能力の使用を解禁したルーシアは、ほんの少しだけキキョウを驚かせた。だが、それでもキキョウを倒すこはできず、武器を使わせることも出来なかった。

 もちろん、俺も。


「ほぉぉぉあっちゃぁぁぁぁぁーーーっ!!」

「…………」


「チェイサァァァーーーっ!!」

「…………」


「ポォォォォォーーーっ!! チャァァァァーーーっ!!」

「…………」


 いくら挑んでも、キキョウに勝てる気がしない。

 少しは強くなったと信じたいが…………ん?


「ルーシアさん、セージさんの奇声ですが……」

「ああ、酷くなっている。あそこまでいくと、病を患っているのかと疑うぞ。なんとかならないか?」

「……難しいです」


 おいそこ、何を真面目に話してる。

 奇声って……そんなに変な声なのか?

 

 それから2日後、オーガ族の町に到着した。

 町と言っても、人間のような文化的な町ではなく、いくつもの住居があるだけで、村のような感じだ。

 ガドさんを先頭に進む居住車は、やっぱり目立った。

 町の入口で、守衛っぽいオーガが槍を向ける。


「待て、そいつはなんだ!!」「まさか……人間か!?」

「落ち着け!! 人間だが敵ではない。我らの集落を救った恩人だ!!」


 両手を挙げたガドさんが、守衛に向かって何か話してる。

 とりあえず待機するしかない。

 それから数分、守衛の1人が村の中へ向かい、ガドさんが戻ってきた。


「今、ダイモンに話を付けにいった。このまま暫し待て」

「は、はい。その……大丈夫ですか?」

「ああ。オーガ族は同胞を絶対に欺かない。話せばわかってくれるさ」


 そして、守衛の1人が戻って来た。


「……入れ。ダイモンが会うそうだ」


 さっそく、ボスの登場ですか……いいぜ、やってやる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る