第195話、展開はやっ

 オーガ族最強の戦士、鬼王ダイモン。

 身長約4メートル、燃えるような赤い肌、蜷局を巻いた2本のツノに額から伸びる1本の合計3本ツノ、髪は白くサラサラのストレートでオールバックにして流している。

 魔獣の革を使った鎧に、エクスカリヴァーンに匹敵する大剣を背負った、いかにもなパワーファイターだ。


「…………」

「…………」


 そんなバケモノが、俺たちの目の前に座っていた。

 この威圧感、アルアサドに匹敵する。しかも目がギラギラして怖い、いや怖すぎる。

 だけど、俺は目を逸らさなかった。


 ここは、鬼王ダイモンのいるオーガ族の軍事本部といえばいいのだろうか。ガチムチオーガたちがたくさんいて落ち着かない。

 居住車は外に置き、念のため護衛としてルーシアとアルシェを残してきた。ガドさんの案内でダイモンと面会してるのは、俺とブリュンヒルデとキキョウ、ゼドさんと三日月だ。クトネとジークルーネは居住車内でごま吉たちの護衛をしてもらっている。


 案内されて対面したけど……恐ろしすぎた。

 さて、どう話そうか───────────。




『あなたに勝負を挑みます。私が勝利した場合、センセイの指示に従ってください』




 マジで血を吐くかと思った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ブリュンヒルデは、ダイモンを真っ直ぐ見据えていた。

 ダイモンも、ブリュンヒルデをジッと見ている。そして一言。


「勝負、とは?」

「あーちょっとすんません。ええとその」

「勝負、とは?」

「あ、その……」

「勝負、とは?」


 ごめんなさい、ダイモンさんは完全にスイッチ入ってます。

 青くなる俺を余所に、キキョウが言う。


「ブリュンヒルデ、こちらの方に勝負を挑むのは私です。今回は譲りません」

『目的が達成されるのならばどちらでもかまいません。私は可能性が高い選択をしたまでです』

「……それは、私が貴女に劣る、そういうことでしょうか?」

『…………』


 ダイモンさんを完全に無視し、険悪になるブリュンヒルデとキキョウ。

 ブリュンヒルデがケンカを売るような発言をしたことに驚いたが、この状況でそんな話をしてる場合じゃないだろおい!!


「あ、あのですね、その……」

「いいだろう。ここまで虚仮にされたのは初めてだ。なぜ人間がこの地にいるのか知らんが……その喧嘩、買ってやる」

「あ、あの、は、話したいことがあるんです。その」

「言いたいことがあるなら、オレを倒してからにしてもらおうか」

「…………」


 強烈な怒気が俺に叩き付けられる。

 ああ、展開早いよ……もっと話をしてからにしようと思っていたのにぃ。


「表に出ろ」


 表に出ろなんて、リアルで初めて聞いたわ……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 表に出ると、居住車がオーガに囲まれていた。

 ルーシアとアルシェが守るように立ち、ジークルーネが馬を宥めさせようとしている。

 険悪な雰囲気なのは、すぐにわかった。


「……かなりヤバいな」

「そらそうだ。逆の立場だったらオメーはどうする? 自分の住む町に数人のオーガが『敵じゃねぇ』と言いながら来てみろ。ニコニコしながら歓迎の宴を開こうと思うか?」

「思いません」


 ゼドさんの言うとおり、俺たちはかなり無礼な客だろう。

 さすがのガドさんも手を出せないらしく、居住車に手を出させないようにガードしてくれている。

 すると、ダイモンが言った。


「これより、決闘を始める。ダグ、ジガ、行くぞ」

「うっす、兄貴」「おう、兄貴」


 ダイモンは、2人のオーガを連れて町の中央へ。

 すると、数人のオーガが俺たちの周りに来て言った。


「3人選べ」

「前座2名、ダイモンの兄貴と戦るのが1名だ。5分で決めろ」

「え、あの」

「わかった。行くぞセージ」

「ちょ、ゼドさん?」


 ゼドさんに引っ張られ、居住車の元へ。

 すると、居住車の影で様子を見守っていたクトネも出て来た。これで全員が外に出たことになる。

 ゼドさんは、みんなに言った。


「つーわけで、あいつらをぶちのめすぞ。ブリュンヒルデの挑発に上手くのってくれた。ああいう手合いは話をするより実力を見せつけた方がいい」

「展開が早すぎて頭痛いんですけど……」


 オーガの町に来てまだ1時間も経ってないぞ。なんでダイモンを怒らせて戦う流れになってんだよ……。

 すると、クトネが言う。


「セージさんセージさん、あたし何が何やら……」

「あー、いい流れだと思うから安心してくれ。あとでちゃーんと話すからさ」

「は、はぁ……なんか最近、置いてきぼりな気がして……」


 とりあえず、3人選ばないと。

 この中で戦闘に特化したメンバーと言えば……。


「私は鬼王ダイモンを倒します」

『センセイ、私にお任せください』

「はいはーい、アタシがやりまーす!」


 キキョウ、ブリュンヒルデ、アルシェか……。


「どうする、ルーシア」

「……ここは任せる。私はまだ自信がないのでな」

「珍しい、ルーシアがそんなことを言うなんて」

「ふ、今回はじっくり見させてもらおう」


 と言うワケで、戦闘メンバーは決まった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 町の中央が特設のリンクになっていた。

 いや、リンクと言うより土俵だな。オーガたちが円になり、壁の役割をしている。

 円の中央では、ダイモンと子分2名が腕を組んで待っていた。

 俺たちはオーガの円に混じり、ブリュンヒルデたちも前に出る。


「悪いが、女子供でも容赦しない」

「申し訳ありませんが、泣き喚いても容赦しません」


 ダイモンの挑発に挑発で返すキキョウ。

 ブリュンヒルデはいつも通り、アルシェはウキウキしていた。


「お前たちが勝ったら話でも何でも聞いてやる。もし負けたら、オレを侮辱したことを謝罪してとっとと出て行け」

「侮辱……? はて、なんのことでしょうか。そんなことより、早く始めましょう」

「……いいだろう、ダグ」

「へい、兄貴」


 ダグと呼ばれたオーガが前に出て、ダイモンともう1人は後ろに下がる。

 さて、こちらはというと。


「はいはーい! アタシやるっ!」

「私は構いません」

『…………』

「異議なしね。じゃあいっきまーす!」


 アルシェが前に出た。

 ブリュンヒルデたちは下がり、ダグとアルシェは20メートルほどの距離で向かい合う。


「あのさ、武器はいいんだよね?」

「もちろんだ。持てる武力を全て使え。それで殺されても文句は言わん……死の覚悟は?」

「あるよ。まぁ死なないけど」

「そうか」


 ダグは、2メートルはある棍棒を持っていた。

 オーガは力自慢だ。俺では持ち上げることすら困難な棍棒を、ダグは片手で持っている。

 対するアルシェは、固有武器である『ピナカの矢』を手で弄んでいた。


「まさか、それが武器か?」

「うん」

「……そんな矮小な武器でオーガに立ち向かうというとは」


 すると、ドッと笑い声が上がる。

 品のない笑いが頭にくるが、アルシェはケラケラ笑った。


「あはは、確かに小っちゃいよね。もっと大きければってアタシも思うときあるもん」

「…………」


 ふいに、静まり返る。ああ、ダイモンが手を上げたからだ。

 そして……ダイモンが手を振ると同時に、戦いが始まった。


「フゥゥゥンンン!!」


 ダグが棍棒を振りかぶり、アルシェに向かって突撃しようとした……が。


 ───────────ピィュイ。


 口笛が鳴り、ピナカの矢が飛ぶ。


「ぬ? ぅ、おぉぉぉっ!?」


 ピナカの矢は一瞬でダグの両足首を射貫き、ふくらはぎ、太ももを何度も往復するように貫通する。

 穴だらけになった両足から鮮血が吹き、ダグはそのまま転倒。

 同時に、ダグの両手の手のひらにピナカの矢が貫通、両腕を何度も往復し穴だらけにした。

 両腕から鮮血が吹き出すと同時にダグは気を失った。

 そして、ピナカの矢は一瞬でアルシェの元へ戻る。


 この間、4秒。


「もうちょっと大きければ、何度もブッ刺す必要ないんだけどね」


 静寂の中、アルシェの声はとてもよく響いた。

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