第193話、情報収集
半日後、オーガの村に到着した。
途中、現れた巨大なヒグマみたいなモンスターを狩り、まだ体調が万全ではないガドさんの代わりにブリュンヒルデが担いでる。どうやら食料らしい。
村は、悲惨な状況だった。
「う……ひ、酷い」
御者席で、思わず呻いてしまった。
オーガも畑作をするのか、でも畑の作物は腐っている。そして村からは腐臭がする。
すでに何人か死んだのか、墓のような土山がいくつかあった。
「ラミア族が、川に水を流したんだ……おれたちが倒れたのを見計らって、川を浄化する算段だったらしいよ」」
「川……じゃあ、その水を飲んで?」
「うん。おれは1人で狩りに出かけてたから、被害に遭わなかったけど……」
アドくんは肩を落とす。
でも、聞かなくては。
「被害は?」
「体力の落ちてる老人が何人か……オーガはある程度、毒に耐性があるからなんとか保ってる。父ちゃんは村で一番強いオーガだから、動ける内にラミアの心臓を獲りに行こうとして」
「俺たちに会った、ってわけか」
というか、オーガの体力スゲぇな。
神経毒・出血毒・筋肉毒のミックスって、人間なんて一滴でも血中に混ざればアウトだぞ。
「……よし、治療を始めよう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は、仲間たちを呼ぶ。
「ジークルーネ、治療にはどれくらいかかる?」
「この程度なら3分あれば。ナノマシンを村中に散布して治療します」
「はやっ……ええと、じゃあさっそく頼む。三日月、クトネ、ブリュンヒルデは村を回って、何かあったら対処してくれ。ゼドさん、ルーシアはヒグマの解体を。ガドさん、大きな鍋とか調理器具があればお借りしてもいいですか? 俺とアルシェで精の付く料理を作ります…………って、なんだよみんな」
またもやみんながぽけーっと俺を見ていた。
「せ、セージさん、マジでどうしたんです?」
「おいクトネ、どういう意味だ?」
「せんせ、かっこいい!」
「うむ。中々に的確な指示だぞ、セージ」
「三日月、ルーシアまで」
「カッカッカ!! 解体ならワシに任せとけ!!」
「クマ肉を使った精の付く料理ね……とりあえず、シチューなんてどう? 乳牛くらいいるわよね」
いろいろ引っかかるが、とりあえずいい。
すると、ジークルーネが言った。
「センセイ、ナノマシン散布終了しました。村全体をスキャンした結果、解毒は順調……あ、終わりましたね」
「はやっ、いつの間に……よし、さっそく行動開始だ」
というわけで、オーガ族を救うぞ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
救助活動は、いい感じで進んでいた。
水をどうしようか悩んだが、ジークルーネが「毒に侵された水ですけど、煮沸すれば問題ないですよ?」なんて言うから驚いた。まさかこれだけの毒が、沸騰させるだけで消えるなんて、誰も思いもしなかったからだ。
ガドさんから大鍋を借り、アルシェと一緒に熊肉シチューを作った。
乳牛が無事だったのは助かった。煮沸した水をたっぷり与え、エサをたっぷり与えたら元気になった。そっちの世話はガドさんとアドくんに任せる。
少しずつ、解毒が終わったオーガたちが表に出て来た。
最初は警戒していたが、お腹を空かせたオーガの子供たちに、できたてのシチューを持って行く。
「さぁ、お腹へったでしょ? いっぱいあるから食べて食べて!」
種族をものともしないアルシェがシチュー皿を子供に渡すと、オーガの子供たちはガツガツ食べる。
大人たちも、若干の遠慮があったが、シチューを食べ始め……3時間も経過すると、すっかり警戒心はなくなった。
村の住人は60人ほどで、毒による死者は5人……。
5人はしっかり供養し、酒好きだということでゼドさんがとっておきの火酒を添えた。
ここまですると、もう警戒心はない。むしろ感謝の気持ちで溢れていた。
「ありがとう、本当にありがとう!」「人間とはなんと慈悲深い……」
「子供たちも、こんない喜んで……」「なにか礼がしたい」
殺到するオーガたちと握手すると、アドくんとガドさん、そしてガドさんの奥さんと1人の老オーガが来た。
老オーガは、この村の村長らしい。
「人間よ。我らの村を救っていただき感謝の言葉もない」
「いえ、助かってよかったです」
「何か礼がしたい。なんでも言ってくれ」
「……では、お話を聞かせてください」
「話、とな?」
「はい。王を決める戦いについて……」
ついに本題だ。
こんな言い方はアレだが、この状況のお陰で話がしやすい。
まずは、オーガ族から王を決める戦いの情報を聞きだそう。
「何故、人間であるあなたが……いえ、わかりました。何か事情がおありのようで。わしの家にお越しください」
よし、まずは情報を集めよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
全員で押しかけるのはアレなので、老オーガこと村長の家には、俺とジークルーネ、ルーシアの3人で向かった。
残りは居住車で待機……と言ったが、アルシェや三日月は子供のオーガと遊んでいた。まぁ別にいいか。
白湯を出され、まずは質問する。
「あの、王を決める戦いについて、教えてください」
「はい。このラミュロス領土では、百年に一度、王を決める戦いが行われます。この地域には様々な亜人が棲息していますが、我らオーガ族、ラミア族、そして龍人族の三つ巴の戦いになることが殆どですな」
「やっぱり強いんですね……」
「はい。我らオーガは圧倒的な身体能力、ラミアは妖術、龍人はそのどちらも兼ね備えた強大な種族です。前回の王を決める戦いではラミア族が勝利し、『
「…………」
ちょっとした疑問だ。
「あの、この村はどうして毒に?」
「もちろん、ラミア族がオーガ族に対して行った攻撃です」
「いや、そんなあっけらかんと……」
「戦いはすでに始まっております。これは種族同士の争い、実際、我らオーガもラミア族や龍人族に攻撃を仕掛けております故」
「で、でも、ここには子供も居るし……」
「そう、ですな……ですが、仕方ないのです。オーガ族である以上、他の種族にとっては同じですからな」
でも、そんなのおかしい。
オーガ族の子供は、大人オーガと違って筋肉があるように見えず、肌の色が赤いくらいで小学生と変わりない。
そんな子供が、毒で苦しんでいた。
「戦いはすでに始まっています。ところで、あなた方の目的はなんですかな?」
「……俺たちは、この王を決める戦いに参戦しに来たんです」
「な……なんと!? ば、バカな!!」
「バカじゃありません。確認しますが、この戦いを制した種族が王なんですよね? オーガ族、ラミア族、龍人族の最強戦士を倒せば……このラミュロス領土の王様、ですよね」
「……あなたは、何を言ってるのか理解しておいでですか?」
「もちろんです」
俺たちの目的は、戦力を集めることだ。
ラミュロス領土で最強の三種族である、オーガ族、ラミア族、龍人族を倒して王になり、オストローデ王国に対する戦力とする。
でも、こんな戦いに子供を巻き込むことは、やっぱりよくない。
毒で苦しむ子供、戦いで死ぬ子供、そんな姿を見るのはゴメンだ。
「お願いします。オーガ族最強の戦士の場所を教えてください」
「…………本気、なのですね?」
「はい」
「……わかりました。我らはあなたに恩がある。ですが、戦いとなれば話は別……我らオーガ最強の戦士が、あなた方を倒すでしょう」
「承知の上です」
俺は、村長から目を逸らさなかった。
俺の敵はオストローデ王国。この程度の障害、なんてことない。
村長から地図をもらい、オーガ族最強の戦士『
どうやらこの町は、オーガ族の戦いの拠点でもあるらしい。
「ありがとうございます。いろいろ助かりました」
「いえ。それよりも気を付けください、オーガ族最強の戦士ダイモンの強さは、あなた方の想像を遥かに上回る」
当然だ。人間だろうと亜人だろうと獣人だろうとアンドロイドだろうと、俺たちは決して油断しない。
村長は言う。
「あなたが王を目指すなら、『
村長に頭を下げ、俺たちは家を出た。
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