第192話、オーガの村
とりあえず、倒れたオーガさんを居住車まで運ぼう。
服を着てオーガさんの元へ。ルーシアは着替えてブリュンヒルデを呼びに言った。
俺は、オーガさんのそばでしゃがむ少年オーガに聞く。
「きみのお父さん、ラミア族を殺してどうするつもりだったんだ?」
「……ラミア族の毒は、ラミアの心臓じゃないと解毒できないんだ。王を決める戦いで、おれの村がラミアに襲われて……」
「王を決める戦い……もう始まってるのか」
「……そういえば、あんたたちって人間だよね。なんでラミュロス領土に人間が……?」
「あ、いや、その、ちょっといろいろあってね。それより、俺はセージだ。よろしくな」
「……アド。父ちゃんはガド」
「アドくんね。よろしくな」
「…………」
アドは、気を失ったオーガ、ガドさんの方へ向く。
まだ信用されていないな……と、来たか。
『申し訳ありません、センセイ』
「いきなりだな。そんなことより、この人を居住車まで運んでくれ。どうやら毒に侵されてるみたいでな、ジークルーネなら治せるか?」
『可能です』
断言しちゃったよ。
俺はルーシアに聞く。
「まずは、この人を解毒して話を聞こう。どうやら王を決める戦いは始まってるみたいだ」
「そうか……よし、少年、きみのお父さんの治療をする。一緒に来てくれ」
「…………本当に、父ちゃんは治るの?」
ルーシアは、俺を見た。
俺は大きく頷く。ジークルーネの力なら治せるはずだ。
「ああ、もちろんだ。私たちを信用して欲しい」
「…………わかった」
ブリュンヒルデがガドさんを担ぎ、俺たちは居住車へ戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
居住車に戻ると、ジークルーネとゼドさんが待っていた。居住車の屋根にはアルシェもいる。
ブリュンヒルデが担いでるオーガのガドさんを見て、ゼドさんは言った。
「ほぉ、こいつがオーガか。始めて見たぜ」
「おい! おれの父ちゃんだぞ!」
「おっと、威勢のいいガキじゃねぇか。ちっこいが将来有望だぜ」
「バカにするな!」
ゼドさん、ケラケラ笑いながらアドくんの相手をしてる。
俺はジークルーネに頼む。
「ジークルーネ。この人、どうやら毒に侵されてるらしいんだ。治せるか?」
「毒? ちょっと待って、分析するね」
ジークルーネは、ルーシアの攻撃で傷付いた足に付着していた血液を指で掬い取り、ジッと見る。
今更だが、オーガの血も赤いんだなと思った。
『血液成分の分析開始……………………完了』
「どうだ?」
「うん、センセイに言ってもわからないから成分は端折るけど、神経毒・出血毒・筋肉毒がミックスされた毒だね。人間がこの毒を打たれたら、15分も持たないよ」
「ちょっと引っかかる言い方だけど、ヤバいのはわかった。治せるか?」
「うん。毒の成分を破壊するナノマシンを打てば治るよ」
「じゃあ頼む。治してやってくれ」
「はーい」
ジークルーネは乙女凜華を一輪出し、花の中心から注射器のような細い針を出す。
これにはアドくんも黙ってなかった。
「おい、父ちゃんに何を」
『下がって』
「っ……!!」
ジークルーネの無機質な表情と声に、アドくんはビクッと震えた。
俺はアドくんの肩に手を置いて言う。
「大丈夫。うちの名医が治してくれる」
「名医……い、医者なの?」
「ああ、そんなもんだ」
「…………」
乙女凜華の針が、ぐったりしてるガドさんの腕にプツッと刺さる。
すると、怪我をした足の傷が復元され、呼吸も落ち着いてきた。
『解毒完了。血液サンプル更新。ワクチンプログラム更新』
ジークルーネがブツブツ呟いているが、アドくんは聞いてなかった。
「父ちゃん、父ちゃん!!」
「む……あ、アド、か?」
「とうちゃぁぁぁんっ!!」
ガドさんはムクリと起き上がり、しがみつく息子の頭を優しく撫でた。
怪我も治ってるし、ナノマシンマジパネェな。
「……命を救ってくれたこと感謝する」
「いえ、よかったです」
「聞きたいことがある。なぜ人間がここに? 毒の治療をしたと言う事はラミア族を殺害したのか? お前たちの狙いは?」
「ええと、俺たちも聞きたいことがあるので、よろしければ中でお話を」
「……申し訳ない。話を聞きたいのは山々だが、村で苦しむ同胞たちのために、ラミアの心臓を手に入れなければ」
「それなら問題ありません。ジークルーネ」
「はい、センセイ。毒の成分を分析しました。ナノマシンにデータを反映させたので、注射じゃなくても治療できます」
「…………?」
「え、ええと、つまり……毒は俺たちが治療します。オーガの村に案内してください」
「…………本当に、治療できるのか?」
「あなたを治したのは、この子です」
「…………」
さて、信じてくれるだろうか。
こんな言い方はあれだが……これはチャンスだ。
オーガの村に住む人たちを治療すれば、信頼を得るチャンス。ラミュロス領土の情勢や、オーガ族のお偉いさんと話すチャンスがあるかもしれない。
すると、ガドさんは言った。
「……わかった。お前たちを信用しよう。我らの村に案内する」
「よし。それじゃあ行きましょう」
内心でガッツポーズをして、出発の準備をする。
アドくんを御者席に座らせ、ガドさんは先行して案内してもらう。
馬の操作は俺で、アルシェを居住車の屋根に置き、残りのメンバーは居住車内で待機してもらった。
「村は、ここから半日ほどの距離だ。しっかり付いて来いよ」
「わかりました。では、案内をお願いします」
こうして俺たちは、オーガの親子を助け、村まで案内してもらうことにした。
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