第184話、再会
「よーっし、終わり! なーんだ、こんなモン?」
「…………」
国境都市ルペペ郊外の森で暴れているハイオーガの討伐。
街道に現れては、商人や旅人を襲うらしい。ハイオーガ自体はそんなに強くないが、繁殖力が強く、1匹見かけたら5匹はいると言われている。
依頼書に書かれた討伐数は3匹。
出現場所にエサとなるオーク肉を撒いたらワラワラ現れた。ゴキブリみたいに数が多く、2人じゃ厳しいと考えていたら……。
───────────ピィュイ。
口笛が響き、アルシェの固有武器『ピナカの矢』が飛ぶ。
矢は正確に飛び、ハイオーガの脳を綺麗に貫通。20匹いたハイオーガは、たったの2秒で全滅した。
おいおい……俺の見せ場がないじゃん。
「ねぇセージ、討伐の証ってツノだっけ?」
「あ、ああ。頭のツノを斬り落としていこう」
「うん!」
まぁ、楽しそうだしいいか。
俺はキルストレガでツノを切断し、持参した麻袋に入れる。よかった……ツノって20個あっても軽いわ。
ハイオーガの死骸は、放っておけば他のモンスターのエサになるので放っておいていい。というか、血のニオイに引かれて他のモンスターが寄ってくる。
「よし、ツノも集めたしギルドに報告だ」
「うん! ねぇセージ、お腹減った!」
「はいはい。ギルドに報告したら何か食べるか」
「やたっ!」
ホントに、子供みたいにキャッキャッと笑う奴だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アルシェが耐えきれなかったので、報告前にメシを食うことにした。
「あ、あの串焼き美味しそう! あっちの焼きハマグリもいい香り~……ん! あsこに美味しそうなクレープ発見!」
「落ち着け落ち着け、全く……」
「ん~……全部食べたい!」
「いいけど、残すなよ?」
「はーいっ!」
アルシェと一緒に、町の入口近くにある広場でやってる露店を回る。
回る店全ての商品を買い、肉串を頬張るアルシェ。
俺もハマグリや焼き魚を買い、お腹を満たした。
「はぁ~……しあわせぇ」
「お前、よく食べたなぁ」
「ん、だって一人暮らしのときはこんな手の込んだ料理あんまり作らなかったもん。煮たり焼いたり炒めたりって、面倒だしね」
「その割には、料理はかなり上手じゃないか」
「そりゃ、百年以上やってれば、誰だって上手くなるわよ」
「あー……」
そう、アルシェはウチのクラン最高齢だ。
そう思って頷いた瞬間、ピナカの矢が俺の鼻先でピタッと止まる。
「おぅわっ!?」
「……また変なこと考えてるでしょ」
「い、いえ、滅相もございません」
ピナカの矢が消え、クレープを頬張るアルシェ。
うん、アルシェに年齢の話や気配は厳禁だ。察しがいいから思っただけでもわかってしまう。
「さて、腹もいっぱいになったし、今度こそ報告に行こう」
「ん、報酬はどーすんの?」
「半分はクランに貯金で、もう半分はお前の取り分だ。好きに使えよ」
「……セージは?」
「俺は何もしていないからいいよ。お前の初報酬だ、好きに使え」
「セージ……ありがとう!」
うん、可愛い顔で笑うじゃないか。
アルシェと一緒に、冒険者ギルドに向かいますかね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ギルドでは驚かれたよ······だって討伐数3体で依頼達成なのに、この短時間で20体もハイオーガを討伐したんだもんな。
まぁ、多く倒したからと言って報酬が増えるとかはない。
余分なツノを買い取ってもらい、アルシェの小遣いにはなったけどね。
「んふっふ〜♪ 嬉しいな〜」
「お疲れさん。というか、今更だけどお前ってG級レベルじゃないよな」
「ランクなんてどーでもいいわ。冒険者ってめっちゃ楽しい♪ ねぇねぇ、明日はみんな連れて高ランクの依頼受けようよ!」
「う〜ん、近場で日数が掛からなければいいけど······俺も実戦訓練したいし」
「なら決定! じゃあ依頼を探しに行きましょー!」
「おいおい待て待て。ったく······ん?」
ふと、ギルドが騒がしくなった。
ザワザワと喧騒が響いていたが、ドヨドヨと困惑したような喧騒になる。
何事かと思いギルド入口を見て······。
「······あっ!?」
見覚えのある、黒い『笠』を見つけた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
彼······いや、『彼女』はS級冒険者『夜笠』ことキキョウ。俺の腰に差している『吸魔剣キルストレガ』をくれた、大学生くらいの女の子だ。
真っ黒なマントで身体のラインを隠し、真っ黒で大きな編笠で顔を隠している。腰には常に出しっぱなしの『固有武器』である刀を二本差しており、唯一肌を露出しているのが口元だけだ。初見じゃ女の子なんて絶対に思わないだろう。
俺は、フォーヴ王国でキキョウに救われた。そのときに夜笠が女の子だと知り、内緒にするように言われている。
「よ、夜笠だ」「S級······」「す、すげぇ」
「かっけぇ······」「おい、声かけろよ」「バカ言うな!」
海を割ったモーセのように、夜笠さんが歩くと人垣が割れる。
声をかけようか悩む。向こうが俺を覚えているかなんてわからんし、ここで声をかけたら注目間違いなしだからな。
すると、アルシェが言う。
「ねぇセージ、あの人だれ?」
「S級冒険者の一人『夜笠』だよ。冒険者の中でも特に強い4人の内の一人だ」
「ふーん。知り合いなの?」
「······知り合い、かなぁ? なんでだ?」
アルシェを見ながら言うと、アルシェが言う。
「だってさ、その夜笠って人、こっちに来るよ?」
「え」
前を振り向くと、夜笠さんはこっちに来ていた。
俺とアルシェの後ろは壁······まさかここ、夜笠さんお気に入りの寄り掛かりポジションとか?
そして、間違いなく俺の前で止まった。
「············」
「こ、こんにちは······お、お久しぶり、です」
「············」
編笠のつばを押さえ、わずかに首を傾けた。
ああ、どうやら覚えてるみたいだ。
「ねぇねぇセージ、この人めっちゃ強いよ!」
「そりゃそうだろ。最強クラスだぞ」
「セージの仲間なの? ならさ、一緒に晩ごはん食べよう!」
「は? おいこらアルシェ、勝手なこと言うなって。あ、夜笠さんは初めてですよね。ウチの新しいメンバー、アルシェです」
「アルシェだよ。よろしくね!」
「············」
そして、気が付いた。
とんでもなく注目されている。
「あ、やべ······え、ええと、その、よかったらウチの居住車に来ます? 久しぶりだし、お茶でも······なんて」
「············」
う〜ん······頷いた、のか?
とりあえずギルドから出ると、夜笠さんは付いてきた。
ギルドに用事があったんじゃないのか? と思いつつ、居住車へ向かった。
思えば、この再会が始まりだった気がする······。
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