第185話、夜笠との会話

 S級冒険者『夜笠』さんを連れ、居住車へ戻ってきた。


「ただいまー」

「たっだいま~!」

「……」


 外には、エンタープライズ号のメンテナンス作業をするゼドさんと、その手伝いをしているジークルーネがいる。

 俺とアルシェはともかく、夜笠さんは初めてだよな。


「帰ったか……ん、客人か?」

「おかえりなさい、センセイ、アルシェさん。お客様なんて珍しいね」

「ただいまゼドさん、ジークルーネ。この人はフォーヴ王国で世話になった夜笠さん。久しぶりに会ったんで、お茶に誘ったんだ」

「…………」


 夜笠さんは、無言で頭を下げる。

 

「じゃあ、お茶の準備をしますね」

「そうしろ。こっちの手伝いはいい、助かった」

「はーい」


 ゼドさんは作業を再開し、ジークルーネはお茶の支度をするために中へ。

 アルシェは……。


「ふぁ……アタシ、ちょっとお昼寝する……おやすみ~」

「お前な……」


 アルシェは、自分で茶に誘えとか言ったくせに、車内の二階にある自室へ戻ってしまった。

 まぁいいか。今日は初依頼で疲れただろうし、寝かせてやろう。


「ささ、夜笠さん、中へどうぞ」

「…………」


 勢いで誘ったけど……会話になるのかな。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 夜笠さんにソファを勧め、ジークルーネがお茶を淹れてくれた。

 ジークルーネも座るのかと思いきや、「わたし、ゼドさんのお手伝いをしてきます。ごゆっくりどうぞ」と言って外へ。ほんとにできた子だよ。

 思いがけず2人になると、夜笠さんは口を開いてくれた。


「……メンバー、増えましたね」

「あ、そそ、そうです。あの、この剣すっごく役に立ってます! ほんと、これが無かったら何度か死んでました。ありがとうございます!」

「……いえ。それと、以前のように普通にしゃべってください」

「……わかった」


 相変わらず可愛いアニメ声だ。

 この声のおかげで人前でしゃべることができないんだよな。というか、夜笠……いや、キキョウはすっごい美人でスタイルも抜群なのに、勿体ない。


「改めて、久しぶり」

「ええ、お変わりないようで……」


 キキョウは編み笠を外さず、ジークルーネが淹れた紅茶を啜る。

 

「……強くなりましたね」

「え?……お、俺がか?」

「ええ。死線を潜りましたね? 空気でわかります」


 わかるんかい。

 まぁ、いろいろ冒険したからなぁ……あ!


「なぁ、これからどんな依頼を受けるんだ?」

「……特に決めていません。強ければ強いほどいいのですが、最近はそういう手合いに会うことがありませんので……正直、退屈です」

「ならさ、一緒に来ないか? 実はこれから、ラミュロス領土へ向かうんだ」

「…………人間が入ることは許されていませんが」

「裏ルートがある。いろいろ事情があって、強い仲間が欲しい」

「…………何をするおつもりで?」


 俺は、ラミュロス領土へ行く理由を簡潔に言った。


「ラミュロス領土の亜人たちを倒して、トップに君臨する」

「…………は?」


 これには、さすがのキキョウも首をかしげた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…………つまり、オストローデ王国は『あんどろいど?』とやらの王国で、セージさんの教え子が洗脳されて捕まっている。その子たちを解放するために戦力が必要で、現在三つ巴で戦争中のラミュロス領土へ向かい、強大な三つの種族であるラミア族、オーガ族、龍人族を倒し屈服させて戦力を確保する……と、言うことですか?」

「あ、ああ」


 わかりやすい説明ありがとうございます。

 客観的に聞くと、無鉄砲なアホみたいな行動だよな。


「私に、亜人たちと戦えと?」

「……そうじゃない。キキョウには、俺を鍛えてほしいんだ」

「セージさんを鍛える、ですか」

「ああ。俺自身が強くならないといけない」


 ルーシアも立派な師匠だが、格下の俺とばかり戦うより、レベルの高いキキョウと手合わせすればもっと強くなれる。


「キキョウ。俺とこのクランを鍛えてほしい……もちろん、金は払う」

「…………」

「駄目ならいい。今の話は忘れてくれ」


 まぁ、これは思い付きだ。

 キキョウが一時的にでも仲間になってくれれば心強いし、鍛えてくれればクランのレベル上げにもつながる。

 ダメならダメで、ブリュンヒルデに無双してもらえばいい……本当は、そんなやり方は気に入らないけどな。でも、手段を選んでる状況でもない。

 すると、キキョウは編み笠を外した。

 黒髪ロングをお団子にまとめ、目は俺と同じように黒い。どことなく日本人をほうふつさせる。


「私は、戦いたい」

「え……?」

「私の能力チート、『色即是空しきそくぜくう』は、戦いに飢えるという副作用があります。常に強者を求め、戦いに明け暮れる日々……ですが、私を満足させる相手は、いなかった」

「え、ええと?」

「セージさん。あなたが戦いを挑む『あんどろいど』は、強いのですか?」

「……ああ、強い。とんでもなくな」

「私の目的は、S級冒険者『無剣』……最強の剣客と呼ばれた剣士に戦いを挑むつもりでしたが……いいでしょう、協力します」

「え、マジで!?」

「はい。ラミュロス領土にはS級冒険者『鶺鴒セキレイ』がいると言われています。『眠り姫ネムリヒメ』に挑むことも考えていましたが、順序よく行きましょう」


 つまり、キキョウが手を貸してくれる。

 これほど頼もしい仲間がいるだろうか。


「ただし、私は素顔を晒しません。あなたは信頼できますが、ほかの方はよく知りませんので」

「……うん、それでいい」


 まぁ、とりあえずそれでいい。

 でも、いつかみんなに晒してほしいとは思う。


 よーし……やってやる!

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