第九章・【クラン戦乙女ルート*戦乙女型アンドロイドcode00ワルキューレ】

第182話、クラン戦乙女の現在


 


*****時間は巻き戻り、オルトリンデたちと別れた数日後*****




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ん………ぐ、うぅぅ……はぁ、はぁ……」


 俺は相沢誠二。みんなからセンセイと呼ばれてる、しがない教師だ。

 現在、俺は異世界で冒険者をやってる。理由はたくさんあるが……一番は、オストローデ王国にいる生徒たちを救う為だろう。


 俺たちを日本から異世界に召喚したオストローデ王国。

 オストローデ王国は、この世界で過去の技術である、アンドロイドの作った王国だ。

 俺たちを召喚したのもアンドロイド。どうやらアンドロイドたちは、異世界人に宿る『チート能力』が目当てらしい。


「はぁ、はぁ……ん、くぅぅ……はぁ」


 俺は、この世界で様々な出会いをして、仲間も増えた。

 魔術師の少女クトネ、騎士団長のルーシア、ドワーフのゼドさん、エルフのアルシェ、教え子の三日月。そして、アンドロイドのブリュンヒルデとジークルーネだ。

 

「ぐ、ぅぅ……あぁ、っく……」


 ブリュンヒルデとジークルーネは、『戦乙女型』と呼ばれるアンドロイド。

 人間であり、全てのアンドロイドの父と呼ばれる『オーディン博士』が制作した、最高傑作にして最後のアンドロイド。そして……彼が娘と呼んだアンドロイド。

 彼女たちは、俺をセンセイと呼んで慕ってくれる。


「はぁー……はぁー……っくぉ……っぐ」


 俺は、仲間たちと一緒に冒険をしている。

 今の目的は、オーディン博士が残した【戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】の捜索と、オストローデ王国に対抗するための戦力を確保すること。

 そのために、ラミュロス領土と呼ばれる亜人たちの領土へ向かっている。


「う、うぅぅ…………」


 さて、現在の俺は睡眠中。

 ラミュロス領土手前まで進んだところで野営をしたんだけど……俺はうなされていた。

 身体が重く、とても息苦しい。


「んん~~………」


 息を吸っても、吸い込めない。

 非常に寝苦しく、窒息してしまいそうだ。

 おかしい……俺は、居住車の自分の部屋で寝ていたはずなのに。


「ぅ、ぁ……ん」


 そして……俺はとうとう、眼を覚ました。

 そこで、寝苦しさの正体を知る。


『もきゅう』

『きゅう~』

「…………お前らか」


 ベッドの上……いや、正確には俺の上に、アヌジンラウトと呼ばれる居住車の守護獣である、ごま吉とジュリエッタがいた。

 そりゃ重いよ……だってこいつら、1匹15キロはあるんだぜ? 最初に出会った頃より大きくなってるし、美味しいご飯を食べてるから重量も増えている。

 アヌジンラウトというのは、アザラシの赤ちゃんみたいな生き物だ。大人になっても毛が抜けず、死ぬまでフワフワなままだ。

 ごま吉は真っ白、ジュリエッタはクリーム色で、なぜか俺のところによく来る。


 守護獣というのは、居住車に乗せる守り神だ。

 どうも最近、この守り神というのは迷信のような気がしてならない。まぁ可愛いからいいけど。


「ふぁぁ……おはよう」

『もきゅ』『きゅうう』


 ベッドから起きて着替える。

 ちょっと寝坊したようだ。たぶん外では朝食の支度が始まってる。

 

「さて、行くぞ……重っ」

『きゅう~』『もきゅう』


 ごま吉とジュリエッタを両脇に抱え、一階へ降りる。

 それにしてもこの2匹、重い。この皮下脂肪の塊め。

 

「あ、おはようございますセージさん」

「せんせ、おはよ」

「おはよう、クトネ、三日月」


 一階にいたのは、魔術師の少女クトネと、教え子の三日月だ。

 クトネの猫シリカと、三日月の友達猫みけこ・くろこ、はだおにエサをやっている。

 俺はごま吉とジュリエッタを降ろす。


「こいつらにもエサをやってくれ」

「はーい。外でアルシェさんがご飯を作ってますよ」

「お、そうか。じゃあ俺も手伝うか。ルーシアとゼドさんは?」

「ルーシアは素振り、ゼドさんは居住車のチェックしてるよ」


 ごま吉とジュリエッタを三日月たちに任せ、俺も外へ出る。

 すると、居住車エンタープライズ号のチェックをしているゼドさんがいた。


「おうセージ、起きたか」

「おはようございますゼドさん。遅くなってすみました」

「気にすんな。ワシもついさっき起きたばかりだ」


 ゼドさんは、エンタープライズ号の各部をチェックしてる。邪魔しては悪いので、外に作った竈で料理をしてるアルシェの元へ。


「おはよセージ、おっそいわよ」

「悪い。手伝うよ」

「じゃあサラダ盛り付けして」

「了解」


 アルシェは、ずっと一人暮らしだったから、料理が得意だ。

 このクランの料理番は、自動的にアルシェになった。俺はそのサポート。

 サラダの盛り付けをしていると、手拭いをで顔を拭うルーシアが来た。


「起きたか、セージ」

「ああ、おはようルーシア」

「うむ、おはよう」


 ルーシアは朝の鍛錬を日課にしている。

 長い髪を縛り、シャツ一枚で素振りをしているようだ…………言ったら殺されるから言わないが、ルーシアは無自覚でエロい姿をしていることが多い。今だって、汗でシャツが透けて立派なお乳が見えてます……ふむ、胸にはサラシを巻いてるのか。


「セージ、ごま吉とジュリエッタにエサあげてくるから、あとはよろしくっ!」

「お、おう、わかった」

「では、私も着替えてこよう」


 2人は、居住車の中へ消えた。

 外に出した簡易テーブルに食事を並べ、朝食の支度は完成した。

 

「さて…………お」


 パカラッ、パカラッ……と、馬が走る音が聞こえる。

 すると、馬に乗った2人の少女がこちらへ来た……ブリュンヒルデとジークルーネが、居住車を牽引するために手に入れた2頭の馬である、スタリオンとスプマドールに乗って来たのだ。

 重い物を引いて歩く2頭のために、この辺りを全力で走らせてきたらしい。2頭にとってもストレス解消になるしな。


「ただいま~」

『ただいま帰還しました。おはようございます、センセイ』

「おはよう。ブリュンヒルデにジークルーネ。スタリオンとスプマドールの調子はどうだ?」

「うん、二頭とも広い草原を全力で走れて満足だって。ね?」

『ヒヒィィン!!』『ブルルルン!!』


 スタリオンとスプマドールは、嬉しそうに鳴いた。

 そして、ブリュンヒルデたちが帰ってきたと同時に、居住車に乗っていたみんなとゼドさんが来た。


「セージさんセージさん、ご飯にしましょー」

「せんせ、おなかへった」

「確かに……私も空腹だ」

「がははははっ、ウチのおなごは腹ぺこばかりじゃのう」

「確かにね。セージ、スープよそって」

「はいはい、みんな座れよ」

『センセイ、私とジークルーネはスタリオンとスプマドールの世話をします』

「いっぱい走ったし、みっちりマッサージしてあげる!」


 クラン『戦乙女』は、今日も平和です!


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 朝食を終え、馬たちのマッサージも終えた。

 改めて、目的地へ向かう。


「なぁ、ラミュロス領土へはどれくらいで到着する?」


 俺は、御者席に座るジークルーネに聞く。

 いつもはブリュンヒルデとジークルーネが並んで座るが、ブリュンヒルデは三日月に誘われ、ネコとごま吉たちの部屋で遊んでいる。


「ラミュロス領土へはあと1日の距離です。でもその前に補給をします」

「あ、そうか」


 ラミュロス領土の近くに、そこそこ大きい町がある。

 そこで補給をしてからラミュロス領土へ向かうんだな。

 すると、エンタープライズ号の屋根の上にいるアルシェがニュッと顔を出す。


「アタシ、町を観光したい!」

「はいはい、自由時間はあるから安心しろ」

「やたっ。あと、依頼も受けたいなぁ~」

「いいぞ。ただし、単独の依頼は受けないこと、チームで動くのが条件な」

「はーい」


 国境都市アドドで、アルシェの冒険者登録は済ませた。

 そういえば、冒険者の活動もしていないな……。


「んっふふ~、楽しみ~」

「アルシェ、あんまりはしゃぐなよ」

「はいは~い」


 まったく、まぁ……外の世界が楽しくて仕方ないんだろう。

 しょうがない。依頼を受けるなら、俺が一緒に受けてやるか。

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