第180話、MIDBOSS 砂漠王&氷雪王②/戦いの終わり
オルトリンデは、砂の鰐めがけて全武装を解放した。
砂の大地は全て鰐になったおかげで、流砂でキャタピラーが傾くこともない。大地に足を付けたまま、銃器やミサイルをブチかました。
「人間さえ救助すりゃ、とっておきが使えるんだがな……」
おそらく、【
オルトリンデが放つ攻撃は、砂の鰐にヒットする。だが、攻撃によってダメージがあっても、すぐに修復されてしまう。
「厄介だな、チート能力ってのはよ!!」
すると、砂鰐の口がガパッと開き、オルトリンデめがけて砂の塊が発射される。
「アタシに向かって銃器のマネゴトか!? 馬鹿にすんじゃねぇぞっ!!」
砂の塊と、オルトリンデのミサイルシャワー。
互いにぶつかり、大爆発を起こす。
「ッチ……エレオノール、ヴァルトラウテ、さっさと頼むぜ」
◇◇◇◇◇◇
ヴァルトラウテは、第二着装形態で空中を飛んでいた。
「う~ん、大きいですわね……」
目の前には、氷の巨人。
全身に棘の付いた、触れただけで凍り、傷つきそうなデザインだ。
ヴァルトラウテは、そんな氷の巨人に追われていた。
『オォォォォォォォーーーーーンンン!!』
ズズン、ズズンと歩く巨人。自重で崩れないのがおかしいレベルだ。
眼前のヴァルトラウテに手を伸ばすが、上手く躱される。
「ほらほら、鬼さんこちら!」
ヴァルトラウテは、追いかけられてる間もスキャンする。
クルーマの電子頭脳と合わせ、従来の6倍ほどの演算能力をもって分析、計算をする。
視線を一度、地上へ。
「……エレオノールちゃん」
ライオットに担がれたエレオノールが、ヴァルトラウテを見上げている。
その様子がうれしく、ヴァルトラウテはクスリと笑う。
「わたくしやお姉さまが、吸血鬼の女の子に頼るなんて……ふふっ」
人間は、守護の対象だった。
それが今や、人間や吸血鬼と肩を並べて戦っている。
「でも……やはり、守りたいと思うのがわたくしたち。戦乙女なのね」
氷の巨人の指先から氷の塊が発射される。
クルーマ・アクパーラの噴射で氷弾を全て躱し……ついに見つけた。
「力の流れの中心地……見つけましたわ」
ともに、人間でいう脳の位置に2人はいた。
砂鰐の頭、氷巨人の頭に、生体反応を確認。
ヴァルトラウテは、短距離通信を開く。
『お姉さま、人間の位置を確認。データ送信しましたわ』
『おっし!……受信完了。んだよ、脳ミソか……お約束だぜ』
『ええ。あとはお任せしても?』
『ああ。まずは邪魔な部位を破壊する。とっておきを使うから、おめーはアタシと合流、準備に時間がかかるからガードしろ』
『了解』
通信を閉じ、オルトリンデに合流すべく移動した。
◇◇◇◇◇◇
オルトリンデと合流したヴァルトラウテは、着装形態を解除したオルトリンデを乗せて再び上空へ。
そして、オープンチャンネルでライオットと通信した。
「聞こえるかライオット、これからアタシは切り札を使う。40秒だけ奴らを引き付けろ!」
『うっす! お嬢ちゃんは……』
「隠しとけ。それと、切り札を使うと人間の姿が見えるはずだ、エレオノールにも準備させとけ」
『うっす!』
「ライオット……いいか、無茶すんなよ」
『うーーーすっ!!』
ライオットは、エレオノールを下す。
「お嬢ちゃん、これから姐さんが切り札を使うっす。そのあとはお嬢ちゃんの出番っす!」
「は、はいっ」
「自分はこれから、あいつらの気を引くっす。お嬢ちゃんはここで隠れてるっすよ」
「え……で、でも、一人じゃ……」
「大丈夫。自分は負けないっす!!」
ライオットは、ボルテックモードを起動。漆黒の重騎士のような姿に変身し、背中と両腕の電極を展開。全身を帯電させながら敵へ突っ込んだ。
『さぁ、自分が相手っすよ!!』
開幕、エレクトリカルアームから電撃を放ち、氷の巨人の足に命中。だが、僅かな亀裂が入っただけで、すぐに修復された。
そして、氷の巨人がライオットを蹴り飛ばそうと、トラック数台分はあろうかという足で蹴ろうとする……が。
『オォォォォォォォッ!!』
ライオットはあえて受け止める。
自分に注意を向かせ、エレオノールやオルトリンデたちを守るために。
『だぁらぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!』
バチバチと帯電し、そのまま放電。
摑んだ足にビシビシと亀裂が入り、そのままバッキンと砕けた。
『まだまだっすよーーーーーっ!!』
両腕が帯電し、砕けた足に向かって電撃を放つ。
亀裂が再び入り、修復されるまえに砕け散った。
『姐さぁぁぁぁぁぁぁーーーーんっ!!』
ライオットの叫びは、オルトリンデに伝わっていた。
◇◇◇◇◇◇
「ライオットの野郎……やるじゃねぇか」
「ええ。素敵ですわ……」
少し離れた場所でライオットの奮闘を見ていたオルトリンデたちは、感心していた。
かつて敵であったType-LUAKが、仲間のためにああも戦うとは。
それはつまり、アンドロイドとしての行動理論は、書き換えるだけでこうも変わるという証明でもあった。
「……シグルド姉も、きっと戻るよな……」
「…………ええ、きっと」
オルトリンデは、悲しげにほほ笑み……この戦いを終わらせるための最終兵器を展開する。
『モーガン・ムインファウル変形。空間掘削消滅砲【メルカヴァー】展開』
漆黒の水牛であるモーガンが、巨大な
メルカヴァーの一部が操縦席のようになり、オルトリンデはそこに座る。
「目標ロック。チャージスタンバイ……」
「お姉さま、守りはお任せを」
「おう……奴さん、気が付いたぜ」
ライオットと戦っていた砂鰐が、メルカヴァーの存在に気が付き、砂の塊を飛ばしてきた。だが、塊は全てヴァルトラウテが防御する。
氷の巨人も、ライオットよりオルトリンデを脅威と感じたのか、ライオットを無視してオルトリンデに向かってきた。
だが、もう遅い。
ライオットに離れるように指示を出す。
「頭以外の場所を全て消す。へへ、行くぜ」
メルカヴァーのエネルギーチャージ完了。
モーガン・ムインファウル最強の武装が放たれる。
「メルカヴァー、発射!!」
キャノン砲の先端に集まったエネルギーが発射される。
漆黒のエネルギー弾が砂鰐と氷の巨人の中心地に着弾。ブラックホールのような空間が広がり、あらゆる物理法則を飲み込み、掘削する。
『ウォォォォォーーーーーーン!?』
『ギャオォォォォォーーーーン!?』
砂鰐と氷の巨人の身体が、飲み込まれていく。
そして、頭部だけが残り、ブラッックホールは消滅した。
頭部が地面に落下すると、砕けた部分から人間の身体がはみ出していた。
オルトリンデは、叫んだ。
「今だエレオノール!! 終わらせろぉぉぉーーーっ!!」
◇◇◇◇◇◇
小さなころから、この力があった。
大人も子供も関係ない。エレオノールに近付くものはみんな眠ってしまう。
親の顔も知らずに捨てられ、ずっと1人で生きてきた。
誰も自分に触れることはできない。友達は不眠ペンギンのピーちゃんだけ。
生きるのにはお金がいる。
なんとなく始めた冒険者だったが、自分には天職だった。
どんなに強いモンスターも、自分が近づくだけで眠ってしまう。
いつの間にかS級冒険者になり、『
S級冒険者の地位なんて、どうでもよかった。
お金はたくさん入ったが、大部分は訪れた町の孤児院に寄付をした。
別に理由なんてない。邪魔だったから寄付しただけ。
これから先も、自分は変わらないだろう。
誰も自分に触れることはできない。誰かに恋することも、家庭を持つこともできない。
孤独のまま、朽ちていくのだろうと思っていた。
『ありがとな』
でも、違った。
銀色の美しい少女が、自分の頭をなでてくれた。
温かく、柔らかな手で……。
うれしかった。
初めて、力の通じない相手が現れた。
オルトリンデ、ヴァルトラウテ、ライオット。
とっても不思議な3人組。大事な姉妹を探しているといった。
迷わず、付いていこうと決めた。
オルトリンデたちも、自分を受け入れてくれた。
旅は、とっても楽しかった。
毎日が、宝物のようだった。
そして、今。
自分は、オルトリンデたちに必要とされている。
「今だエレオノール!! 終わらせろぉぉぉーーーっ!!」
エレオノールは、生まれて初めてこの『力』に感謝した。
吸血鬼としての固有能力である『睡眠』の力を、全力で振るおう。
仲間のために、忌み嫌い続けた力に感謝しよう。
「任せてください!」
全力なんて、出したことがなかった。
だが、生まれて初めて全力を出そう。
「わたしは『
エレオノールの白髪が波打つ。
血のような瞳が真っ赤に輝き、口から牙が覗く。
背中から、純白の……コウモリのような翼が開いた。
その変化を無視し、エレオノールは両手を開く。
「眠れ……『
エレオノールの歌声が、周囲一帯に轟いた。
まるで歌にも聞こえ、超音波のようにも聞こえる。
「!?!?……」
ライオットの動きが止まり、ガクンと崩れ落ちた。
オルトリンデたちも、この状況に驚いていた。
「なんだこりゃ!? え、エレオノールのやつ、ライオットを強制停止させやがった!?」
「まさか、アンドロイドに干渉する歌声!? 肉体や精神に作用する能力は通じないはずでは!?」
「知るか!! 現にライオットは停止してやがる。クッソ、アタシらも近づけねぇぞ!!」
「それに、あの姿……まるでコウモリですわ。エレオノールちゃんの、いえ……吸血鬼としての力かも」
「かもな。それより……」
「ええ、終わりましたわね」
砂鰐と氷の巨人が完全に崩れ、素っ裸の少年少女が残された。
どういうわけか怪我も全快している。
エレオノールは歌を止め、丁寧にお辞儀した。
「ご清聴……ありがとうございました」
◇◇◇◇◇◇
武装解除をして、エレオノールたちと合流した。
合流すると、ライオットにひたすら頭を下げるエレオノールがいた。どうも、強制停止させたことを謝罪しているようだ。
「オルトリンデさん、ヴァルトラウテさん!」
「おう、お疲れさん」
「お疲れ様です。エレオノールちゃん、ライオットさん」
「お疲れっす、姐さん、お嬢」
互いをねぎらい、笑顔になる。
エレオノールの服の内側に隠れていたピーちゃんも無事だと知り、オルトリンデがピーちゃんをナデナデしていると、ヴァルトラウテが言った。
「ところで、このお方たちは……?」
「オストローデの関係者だろ。写真撮っておけ、あとでセンセイに見せる」
「はい」
「あ、あの……」
「どうしました、エレオノールちゃん?」
エレオノールは、2人が裸なのを気にしている。
特に、ほぼ同年代の今野が裸でいることに落ち着かないようだ。だが、羞恥心のないアンドロイド3人は全く気にしていない。毛布を掛けることもせず、素肌のまま地面に転がしていた。
「とりあえず、面倒ごとは終わった。ヴァンピーア王国では騒ぎになってるだろうし、さっさとずらかるか」
「え、行かないんですか?」
「面倒だしな。それに、レギンレイブがいない以上、もうここに用はない。ジークルーネに通信入れて、このまま別行動するか、センセイと合流するか決め……」
そこまで言った瞬間。
突如、地中から量産型ルークが現れた。
「な、まだいやがった! ライオっ……」
すると、量産型ルークは胸の装甲をバカっと開き、地面に転がっている今野と山岸を飲み込んで地中へ潜航した。
「このやろっ!!」
「ダメですお姉さま、壊せば人間が死んでしまいます!」
「……チッ」
こうして、戦いは終わった。
まさかのチート能力者との戦いだった。
結果……オルトリンデたちは、この領土で何も手に入れられなかった。
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