第178話、BOSS・魔道強化生徒サンプル1号&2号⑤/砂の怪物

 オルトリンデは、無限に湧き出てくる『砂獣』を破壊しまくっていた。

 砂サソリ、砂虎、砂トカゲ、砂オオカミと、形に決まり無く襲ってくる。しかも、破壊しても破壊しても復活する。

 それはそうだろう、地面が砂であるかぎり、砂の怪物はいくらでも再生できるのだから。

 

「っだぁぁぁーーーーーっ!! しつっけぇなぁこの野郎どもぉぉぉぉっ!!」


 オルトリンデは、ガトリングガンとチェーンガンを連射しながら叫ぶ。

 砂の怪物どもは破壊出来る。だが、津波のように押し寄せてくるので、本体である黒猿仮面を狙うことができない。それに、黒猿仮面こと今野は砂の壁によって姿が見えない。

 モーガン・ムインファウルの第二着装形態の火力なら、砂の怪物共を楽に一掃できる。


「ちっくしょう……めんどくせぇ」


 獣だけでなく、砂の腕も追加された。

 オルトリンデは、駆動鎧ライドアーマーのキャタピラーを動かし、砂の獣を蹴散らしながら移動する。

 オルトリンデは、イライラしながら撃ちまくる。


「雑魚どもを囮にしてアタシを消耗させるつもりかよ!」


 オルトリンデは、センサーをフル稼働させて周囲を検索する。

 熱感知は役に立たない。なぜか砂のバケモノたちからとんでもない熱量を感知している。赤外線も役に立たない、生体検知器も砂のバケモノたちに反応しっぱなしだ。

 

「周囲をねこそぎ吹っ飛ばすこともできるけど、それだと人間が死んじまうからな……くっそが、めんどくせえ!!」


 キャタピラーで砂漠地帯となった大地をひた走る。

 前方から砂オオカミが襲い掛かるがチェーンガンで砕き、砂の腕や砂サソリもミサイルで吹っ飛ばす。

 だが、ここで予想外の攻撃が来た。


「ん、おぉぉっ!?」


 ガクンと、駆動鎧ライドアーマーが傾いた。

 理由は簡単。今野の力で砂漠となった大地が沈んだ……つまり、流砂を引き起こしたのである。

 第二着装形態クジャタ・チャリオッツに飛行形態はない。流砂に引き込まれれば、オルトリンデといえ脱出は難しい。


「クソがっ!! 着装解除だ!!」


 駆動鎧を解除し、第一着装形態に戻る。

 モーガンが流砂に引きずり込まれ、オルトリンデはそれを見届けることなく攻撃に写る。

 この間にも、砂の怪物は止まらない。

 オルトリンデを狙い、四方から殺到する。


「くっそが……ッ!!」


 さすがに、捌ききれなくなってきた。

 今野の姿は依然として見えず、四方から殺到する砂の怪物たちの相手で精一杯。

 右手のガトリングガンで怪物を砕き、左腕のレーザーガンで怪物を吹っ飛ばし、背中のチェーンガンとミサイルで大型砂怪物を打ち砕く。

 だが、さすがに対処しきれなくなってきた。


「ぐっ……この、ちくしょう!!」


 背中、腕、足……砂の怪物の攻撃が、少しずつ当たるようになってきた。

 攻撃と言っても体当たりのような突撃だ。損傷自体は少ないが、体勢は崩される。

 狙いが付けにくくなり、ほんの一瞬が相手にとって攻撃のチャンスとなった。


 つまり、砂の怪物たちの攻撃が、オルトリンデに殺到する。


「ちっくしょ……しつけぇんだよゴラァァァッ!!」


 狙いもクソもない、オルトリンデは使える兵器を片っ端から撃ちまくる。

 砂の怪物たちがある程度砕けたが、砂がある限り復活する。


「このままじゃジリ貧だ、どうすりゃいい……ッ!!」


 積み重なるダメージは、もはや無視できない。

 このままではマズい。そう思いながら撃ちまくり……。


「……待てよ、こいつら」


 あることに、気が付いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ドリンク」

「はいはい」


 アリアドネは、撃破された山岸を置いて、オルトリンデの無力化に全力を注いでいた。

 オルトリンデの火力こそ凄まじいが、四方から攻めれば対処不能だということを分析し、砂の怪物を使って追い詰めていた。


「code03が合流する前に仕留めないと……」

「アリアドネ、量産型LUKEが残り3体よ」

「わーってるよ、うっさいな」


 リミッター解除したライオットが、劣化コピーの量産型LUKEに負けるワケがない。

 ライオットは素手で量産型LUKEを殴り、破壊していた。


「…………」

「劣勢ね」

「うっさい!!」


 このままでは、マズい。

 ライオットが量産型LUKEを破壊し、ヴァルトラウテがオルトリンデに合流するのに一刻の猶予もない。せめてcode02を無力化し、回収しなくてはいけない。


「こーなったらcode02だけでも回収する。つーかこんなところに戦乙女型がいるなんて思いもしなかったし、あたしが負けても仕方ないよね」

「…………」

「土産くらいは持って帰らないと……まぁ、量産型LUKEの戦闘データはとれたから別にいいけど」

「…………」

「なによ、文句あんの?」

「…………アリアドネ」


 アナスタシアは、ニッコリ笑った。


「負けたら罰を与える。どうもあなた、緊張感がないわ。ハイドラやセルケティヘトみたいに前線に出ないからわからないのかしらね……」

「は、はぁ? なんでよ。あたしは戦闘タイプじゃないし、こうやって操作するのが本領で」

「その本領で負けそうなのよねぇ……それに、それを言うならハイドラもセルケティヘトも戦闘タイプじゃないわ」

「な、なに言ってんのあんた? つーかあんたにあたしを裁く権限なんてないし」

「なら、進言するわ。私たちを裁く権利のある者にね」

「な……」

「セルケティヘトの言う通り、少し緊張感を持った方がいいわ。今の私たちアンドロイドには、足りない何かがある……」

「あ、あんた……どうしたの?」

「さぁね。それより前を見なさい、code02が何かしそうよ?」

「え」


 アナスタシアに気を取られたおかげで、オルトリンデから注意が逸れた。

 画面を見ると、全武装を下に……砂漠に向けるオルトリンデの姿が見えた。

 

「あいつ、なにを…………まさか!?」


 次の瞬間、オルトリンデは全武装を一斉砲撃。大爆発が起きた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「チッ……さすがに無傷とはいかねぇか」


 オルトリンデは、地面に砲撃を行うと同時に跳躍。爆風で一気に上空へ上がった。

 さすがにノーダメージとはいかない。右足の一部が損傷し、機械部品が露出した。

 だが、オルトリンデは笑う。


「やっぱりな。砂の怪物ども、空中までは追ってこねぇ」


 そう、狙いはこれだ。

 砂の怪物は、上空に飛んでこない。今までの攻撃は全て、地上で行われている。上空に飛び出せば、砂の腕以外の攻撃は来ない。しかも砂の腕は爆煙で一時的にオルトリンデを見失っている。

 敵は、オルトリンデの武器や特性を知っている。空を飛ぶ手段がないことも知っているはずだ。だから地上戦で始末しようとした。


「チャンスだ!! 本体は…………めんどくせえ!! 第二着装形態クジャタ・チャリオッツ展開!! 全武装一斉展開!!」


 流砂に引きずり込まれたモーガンを再度召喚、空中で着装形態へ。

 全武装を展開し……ニヤリと笑った。


「まぁ……全部吹っ飛ばせばいいか」


 一応、ライオットとエレオノールにギリギリ当たらないように計算し、オルトリンデは言った。


「死ぬなよ?」


 そして、クジャタ・チャリオッツの全武装が火を吹いた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「きゃぁぁぁぁぁっ!?」

「お嬢ちゃん!!」


 閃光と轟音が響き、地震が起きた。

 ライオットが盾になったおかげで、エレオノールは無傷だった。それでも鼓膜が破れそうになる衝撃音で、エレオノールはクラクラした。


「な、なにが……え」


 エレオノールは驚愕した。

 砂漠だった地面に、巨大なクレーターが空いていた。

 そして、クレーターの中心でボロボロになっている人間がいた。


「な、なにこれ……お、オルトリンデさんが?」

「み、みたいっすね……とんでもない火力っす」


 量産型LUKEを全て破壊したライオットは、エレオノールを庇いながら呟く。


「姐さん、やりすぎっす……」


 今野は、かろうじて生きていた。

 爆破の衝撃で数十箇所の骨折、爆炎で大火傷を負いながらも、砂を硬化させた防壁でギリギリのところで命を繋ぎ止めた。

 そして、オルトリンデはライオットの傍で着地。ヴァルトラウテも合流した。


「終わりましたわ。というかお姉さま……」

「んだよ。仕方ねぇだろ、あいつけっこう強かったし」

「あ、あはは……わたし、何の役にも立ってないです」

「うっす、お嬢ちゃんは自分が守りました!!」

「気にすんなエレオノール、それと良くやったライオット。頭出せ」

「うーっす!!」

「エレオノールちゃん、無事でよかったですわ」

「はぅ……」

 

 オルトリンデはライオットの頭をなで、ヴァルトラウテはエレオノールを抱きしめた。

 こうして、今野耕一郎と山岸雪子は無力化できた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「くっそくっそくっそ!! 再起動、再起動!! ちっくしょう!!」


 アリアドネは、今野と山岸の再起動を何度も試みた。だが、バイタルが不安定で意識が覚醒しない。脳内麻薬を分泌させてドーピングをしても、身体がもう限界だった。


「戦乙女型……くんなところで」

「アリアドネ」

「……なによ」

「もう、諦めなさい。地中に潜行させてる量産型LUKEで2人を回収、治療して記憶を消去しなさい」

「…………けっ」

「アリアドネ」

「なに、よっ!?」


 アナスタシアは、アリアドネの頭を鷲づかみする。

 ギシギシと、人工頭蓋が軋んだ。


「ここでアナタの制御を奪って、私が後始末してもいいんだけど?」

「わ、わかったよ……つーか離せ、アンタなんか怖いよ」

「怖い? ふふ、もしかしてアナタ、『恐怖』を感じてるのかしら?」

「はぁ? んなわけねーだろ……」


 アリアドネは、地中に潜行させている量産型LUKEに指令を出し、2人が死なないように脳内麻薬を分泌させ、痛みを抑えておこうとした時だった。


「……ん? なんだこれ」

「どうしたの?」

「なんか、様子がおかしい………」


 今野と山岸の様子が、おかしかった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



********************

【名前】 今野耕一郎 異世界人

【チート】 『砂の軍勢デザート・ラ・ストラテウム』 レベル99

 ○砂漠化・あらゆる大地を砂に変える。 レベル99

 ○砂具現化・砂の形態を操る。レベル99

 ○砂硬化・砂の硬度を自在に変える。レベル99

********************

 


 ドクン───────────────。



********************

【名前】 山岸雪子 異世界人

【チート】 『氷結世界グラシアス・ワールド』 レベル99

 ○氷霧・絶対零度の霧を散布。 レベル99

 ○氷結・氷の結晶を作り出す(形状・自由)。レベル99

 ○氷の大地・視界に写る大地を凍らせる。レベル99

********************

 


 ドクン───────────────。



********************

【名前】 今野耕一郎 異世界人

【チート】 『砂の軍勢デザート・ラ・ストラテウム』 レベル99

 ○砂漠化・あらゆる大地を砂に変える。 レベル99

 ○砂具現化・砂の形態を操る。レベル99

 ○砂硬化・砂の硬度を自在に変える。レベル99


【チート覚醒】←New

《砂漠王アンドヴァラナウト》←New

********************

 


 ドクン───────────────。



********************

【名前】 山岸雪子 異世界人

【チート】 『氷結世界グラシアス・ワールド』 レベル99

 ○氷霧・絶対零度の霧を散布。 レベル99

 ○氷結・氷の結晶を作り出す(形状・自由)。レベル99

 ○氷の大地・視界に写る大地を凍らせる。レベル99


【チート覚醒】←New

《氷雪王ニブルヘイム》←New

********************



ドクン───────────────!!



 カッ!! と、今野耕一郎と山岸雪子の目が開いた。

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