第175話、BOSS・魔道強化生徒サンプル1号&2号②/想定外の実験

 アリアドネは、缶の飴玉を摘まみ、口の中へ入れた。

 

「…………落ち着け、想定外の事態、戦乙女型、落ち着け、実験、実戦……よし」


 アリアドネは、改めてディスプレイを見る。

 理由は全く不明だが、何故か地面から戦乙女型が2体と吸血鬼2名、センセイに改造されたというType-LUKEが現れた。

 アリアドネの電子頭脳はショート寸前だった。


「ワケわかんない、落ち着けるかっ!! アナスタシア、アナスタシアーーーーーっ!!」


 アナスタシアを呼び出すと、思い切り不機嫌そうな顔で見られた。


『……忙しいの、もういい加減に』

「それどころじゃない!! 想定外の事態発生、ヴァンピーア領土に戦乙女型が現れた!! しかも2体、センセイと別行動してるcode02とcode03だよっ!!」

『……なんですって?』

「もうワケわかんない!! 地面からいきなり現れたのっ!! ウソだと思うならこっち来てよ、マジでワケわかんないっ!!」

『落ち着きなさい。ちゃんと説明して』

「そ、そうだね……あんま時間ないからこっち来て。今、目の前に2体、いや3体と2人いる」

『わかった。そっちに行くわ』


 目の前のディスプレイには、『乙女武装ヴァルキリー・ウェポン』を展開するオルトリンデとヴァルトラウテ。両腕のエレクトリカルアームを展開するライオット。エレオノールは右手を突き出し、ニールは後ろに下がった。


「……ヤルしかない、かな」


 想定外の事態だが、これはチャンスかもしれない。

 戦乙女型とはいずれ戦う運命。こっちはチート能力者2人と量産型LUKEがある。

 

「ふん、やってやろうじゃん……戦乙女型!!」


 アリアドネは、飴玉をいくつも口に含んで噛み砕く。

 ドリンクを飲み干し、エネルギーを満タンにする。


「さぁ、あたしの操縦、見せてやるよ!!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オルトリンデとヴァルトラウテは、目の前の仮面の人物がピクリとも動かないことに警戒していた。


「なぁ……なんかおかしいな」

「ええ。なんだか生気を感じませんわ」


 すると、黒猿仮面の方がゆっくりと動き、同時に地面の砂がブワッと舞う。

 砂はエレオノールを狙って飛ぶが、エレオノールに触れることなく落下した。


「……おやすみなさい」


 エレオノールは、人差し指を黒猿仮面に突き付け、『眠れ』と命じる。

 それだけで、黒猿仮面はフラリと横に傾き……耐えた。


「えっ!?」

「エレオノールの眠りに抗いやがった……こいつ、人間か? まさかアンドロイド?」

「いいえ、この方は生身ですわ。ですが……ただの人間ではなさそうです」


 エレオノールは、ニールに警告する。


「ニールさん、下がっ……あれ? ニールさん?」


 ニールがいつの間にか消えていた。

 周囲を見回すが、どこにもいない。


「あの、ニールさんが……」

「逃げたんだろ、放っておけ!! それより、気を付けろ!!」

「え……?」

「エレオノールちゃん、地中から熱源反応多数、来ます!!」


 次の瞬間、地中から茶色い鉄の塊がいくつも飛び出してきた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アリアドネは、追加の飴玉を口に入れた。


「なんだ今の……意識が強制的にシャットダウンした」


 一瞬だが、今野の意識がプツンと切れた。

 すぐに覚醒させ支配下に置いたが、正直なところヤバかった。


 完全な機械ならともかく、生身の身体なのだ。呼吸は必要だし飲食もする。排泄だってする。

 人間の欲求である『睡眠』を強制的に引き起こす能力。アンドロイドではあり得ないので、戦乙女型と一緒にいる吸血鬼の能力だとアリアドネは看破した。

 

 人間の天敵のような存在であるエレオノールは、いくら強力な能力を持ってしても、正面からぶつかるのはかなり不利。なので、もう一つの実験機を使用する。


「量産型LUKE起動。第一、第二、第三部隊までこっち来い、狙いは吸血鬼、戦乙女型はサンプル1号と2号が引き続き相手をする」


 飴玉を噛み砕くと、アナスタシアが入ってきた。

 

「首尾はど」

「ちょーどよかった!! ドリンクと飴玉の補充よろしくっ!! 大至急!!」

「……………」


 アナスタシアは、ため息を吐きながら来た道を戻った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 地中から現れたのは、15体の『量産型LUKE』だった。


「これは……ライオットの同型機か!!」

「決まりですわ。あの方たちはオストローデ王国ですわね」

「……な、なにこれ」

「エレオノール、こいつはオメーには無理だ。下がってろ!!」

「は、はいっ!!」


 エレオノールはゆっくりと後ずさり、どこか身を隠せそうな場所を探す。

 この人外の戦いに、自分では役に立たないと判断したのだ。

 その判断は間違っていない。無理に参加してオルトリンデたちの負担になることだけは、絶対に避けたかった。

 そして、オルトリンデたちから5メートルほど離れた瞬間。


『排除シマス』

「えっ」


 エレオノールの背後に、量産型LUKEの1体が飛び出してきた。

 狙いは、完全にエレオノールだった。

 量産型LUKEの腕はライオットと同じ『エレクトリカルアーム』になっており、バチバチと高圧電流を帯びている。

 アンドロイドにエレオノールの『睡眠』は効かない。だが、アンドロイドの攻撃もエレオノールには効かないはずだが、突然の不意打ちで身体が硬直してしまう。

 ピーちゃんを抱きしめ、エレオノールは目を閉じた。


『排除シマス』

「させないっす!!」


 ライオットのエレクトリカルアームから発射された放電が、量産型LUKEを吹き飛ばした。

 耐電処理をしているのかダメージが殆ど無い、吹っ飛ばされた量産型LUKEは立ち上がり、再度エレオノールを狙う。

 ライオットは、オルトリンデたちに背を向けて首をコキコキ鳴らす。


「姐さん、このポンコツ共は自分が……」

「ああ、狙いはエレオノールだ。雑魚は任せていいか?」

「うっす」

「ライオット、こんな劣化コピー、粉々に砕いてやりな」

「ライオットさん、お願いしますわ」

「……うっっす!!」


 ライオットはエレオノールの元へ一足で飛び、量産型LUKEをそのままぶん殴る。

 そして、地中から現れた産型LUKE15体も、オルトリンデたちを無視してライオット……正確にはエレオノールの元へ。

 完全に包囲されたが、ライオットは焦らなかった。


「お嬢ちゃん、安心するっす」

「え……?」

「自分は『拠点防衛・制圧兵器』……お嬢ちゃんという拠点を守り、この劣化コピー共をぶち壊すっすよ!!」

「ライオットさん……」


 ライオットが変身する。

 漆黒の騎士のような、本来の戦闘形態へ。

 セージの調整でリミッターカットされた『ティターン・Type-LUKE』の姿へ。

 両腕の『エレクトリカルアーム』に、背部の発電用電極『ライトニングボルト』がガシャガシャと展開し、戦闘形態・ボルテックモードになった。


『行くっすよ!!』


 ライオットの戦いが、始まった、

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