第174話、BOSS・魔道強化生徒サンプル1号&2号①/惑いの中で

 襲撃者は、破壊されたはずの『code01シグルドリーヴァ』だった。

 この事実は、オルトリンデとヴァルトラウテのヴァルキリーハーツに、多大な影響を与えた……つまり、精神的ショックを受けた。


「どういうことだ!! シグルド姉のヴァルキリーハーツは砕けたはずだ!!」

「…………まさか、オストローデが?」

「んなもん知るか!! おいライオット、お前の思考ルーチンは、『感情』はどっから湧いてんだ!? まさか戦乙女型にオストローデタイプの電子頭脳が組み込まれて」

「う、うっす……わ、わからないっす」

「わからねぇじゃねぇだろ!! くそ、その頭引っぺがして電子頭脳見せろコラぁ!!」

「お、お姉さま、落ち着いて……ライオットさんを責めても」

「シグルド姉だぞ!? ヴァルトラウテ、オメーは何も感じてねぇのか!!」

「そんなわけないでしょう!! シグルドリーヴァ姉さまのヴァルキリーハーツは確かに砕けました!! あれは……シグルドリーヴァ姉さまのボディを使った、別物ですわ!!」

「くっ……クッソ!!」


 エレオノールとニールは、ワケがわからなかった。

 ただ、オルトリンデが激高し、ヴァルトラウテが頭を抱えて悩むのを見てることしか出来ない。


「ちくしょう……遺跡荒らしがシグルド姉だって? アルヴィートは関係なかったのかよ……」

「シグルドリーヴァ姉さまの狙いはレギンちゃんだった……そういえば、通信が入りましたわよね?」

「通信……確か、シグルド姉が『父上』とか言ってた。おい待て、まさかオヤジも生きてるなんて言うんじゃねぇだろうな」

「……可能性がないとは言い切れませんわ。だって……シグルドリーヴァ姉さまがいたんですもの」

「…………ああクソ、頭ん中がバグだらけだ。再調整が必要だぜ」

「ええ、わたくしも……」


 ヴァルトラウテは頭をボリボリ掻き、ヴァルトラウテは頭を押さえる。

 ライオットは、申し訳なさそうにモジモジしていた。


「……悪かった、ライオット」

「うっす……」

「ほれ、頭出せ」


 オルトリンデは、ライオットの頭をなでなでする。

 少し落ち着いたのか、ヴァルトラウテが言った。


「とりあえず、これからどうしましょうか?」

「決まってる。レギンレイブを探して、シグルド姉に話を聞く。たぶんだけど、また会える気がするぜ」

「そうですわね……では、ジークルーネちゃんたちに報告しないと」

「おう、頼んだぜ。それとエレオノール、ニール、置いてきぼりで悪いな」

「え、ええと……わたしにはサッパリですけど、さっきの人ってオルトリンデさんのお姉さん、ですか?」

「おう。どーやら遺跡荒らしは身内の不始末だ。悪かったなニール」

「いえ、ボクとしては、この場所が開いただけでもありがたいです。ありがとうございました」

「そうか……」


 考えることは山ほどある。

 とりあえず、この遺跡に用はない……そう思った瞬間だった。


「あら?……これは」

「ん、どーしたヴァルトラウテ」

「…………」

「ヴァルトラウ……って、なんだ?」

「どうしたんですか?」

「うっす?」


 部屋の天井から、『砂』が落ちてきた。

 サラサラと、まるで砂時計のように。


「………まずい、ですわ」

「ヴァルトラウテ?……おい、なんだこれ」

「エレオノールちゃん!! 砂を『眠らせ』なさい!!」

「え、あ、は、はいっ?」


 次の瞬間、天井が爆発して大量の『砂』が流れてきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 枯れた大地であるヴァンピーア領土。そして国家であるヴァンピーア王国の郊外は、『砂漠』となっていた。

 ちょうど、オルトリンデたちがいる遺跡の真下辺りは、完全な砂漠となり、サラサラの砂が木々を飲み込み、緑を破壊していた。

 もちろん、これは魔術ではない。


「むふふ、サンプル1号の『砂の軍勢デザート・ラ・ストラテウム』はいい感じだねぇ。あらゆる大地を砂に変え、その砂を自在に操る……こりゃ、量産型LUKEは必要ないかな?」


 アリアドネが、今野を操って起こした現象だった。

 今野耕一郎の能力。『砂の軍勢デザート・ラ・ストラテウム』。


********************

【名前】 今野耕一郎 異世界人

【チート】 『砂の軍勢デザート・ラ・ストラテウム』 レベル99

 ○砂漠化・あらゆる大地を砂に変える。 レベル99

 ○砂具現化・砂の形態を操る。レベル99

 ○砂硬化・砂の硬度を自在に変える。レベル99

********************

 

 シンプル故、強力な能力だ。

 時間をかければヴァンピーア王国そのものを流砂に引きずり込むことも不可能ではない。

 このまま少しずつヴァンピーア王国を砂で浸食し、王国の吸血鬼たちが現れたら、砂漠と化した大地で戦闘を開始する。

 砂を使った戦闘を試す、絶好の機会だった。


「さぁ……早く出ておいで」


 サンプル1号と2号の、全力の戦闘データを取るチャンス。

 アリアドネは、缶に入った飴玉を1つ摘まみ、手で弄ぶ。


「まず、絶対有利のフィールドを作り出す。そして吸血鬼たちを誘い出して実験開始かな」


 アリアドネは、手に持った飴玉を放り投げ、口を開けた。





 同時に、砂漠が大爆発を起こした。





「…………………………は?」





 飴玉が、アリアドネの頭に命中するが、そんなことはどうでもよかった。

 アリアドネは、画面から目が離せない。


「よっしゃぁぁぁぁっ!! ナイスだエレオノール!!」

「は、はいっ!!」

「うふふ、エレオノールちゃんが砂の移動を眠らせ、わたくしの【亀翁クルーマ・アクパーラ】に乗って脱出……なかなかスリリングでしたわ♪」

「うっす!! さすがお嬢とお嬢ちゃんっす!!」

「え、ええと……なんだかボクにはさっぱり」


 亀型の【戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】である【亀翁クルーマ・アクパーラ】に乗ったオルトリンデたちだった。


 アリアドネは、完全にフリーズしていた。


 なぜ、ここに戦乙女型が?


 しかも、目の前に……?


 オルトリンデたちは、黒い猿の仮面を被った今野と、灰色の犬の仮面を被った山岸を見た。

 間違いなく、あれが全ての元凶だ。


「あれが敵みてぇだな……ヴァルトラウテ、あれはなんだ?」

「恐らく、オストローデ王国の刺客ですわね」

「オストローデ王国だって……? それは本当かい?」

「ニールさん? どうしたんですか?」

「……いや、恐らくだけど、あれは最近話題になってる冒険者狩りだ。仮面を被ってるから間違いないと思う」

「冒険者狩り……へへ、悪人ならアタシらで狩ってやらぁ。チート能力持ちと戦うのもいい経験だぜ!!」

「お姉さま、殺してはダメですわよ」

「うっす!! ヤルっす!!」


 オルトリンデたちは着地、クルーマ・アクパーラから降りた。


「おいオメーら、この砂はなんだ? どっちかの能力か?……止めて大人しく帰るなら許してやる」

『……………』

『……………』

「だんまりか。じゃあ……ぶっ飛ばす!!」


 こうして、あまりにも想定外な戦いが始まった。

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