第173話、遺跡の奥に眠るモノ
一行は、装飾の施されたドアを開けて先に進む。
すると、オルトリンデがニヤリと笑った。
「ビンゴ……へへ、来たぜ」
「ええ、間違いありませんわ。この感じ……」
扉の先は、見慣れない金属壁だった。
エレオノールとニールがペタペタ触り、感想を述べる。
「こんな材質の壁、見たことないよ。これが夜王城の隠された遺跡の正体か……」
「ツルツルしてますね。それに、ボンヤリ光ってる……?」
間違いなく、人類軍が建設した、アンドロイドの修復施設だった。
オルトリンデとヴァルトラウテは、センサーを稼働させながら進む。
そして、施設中央付近にあるホールへ到着した。いくつかの道に分岐している。
「とりあえず、電力を復旧させねえと話にならねぇな」
「ええ。センセイがいれば、壁に手を触れて『
「アタシらには無理な話だ。おいライオット、電力復旧させるから手ぇ貸せ」
「うっす!!」
「あの、わたしたちは?」
「その辺で休んでろ」
「じゃあ、ボクはこの辺の調査をしてるよ。よかったらエレオノールさんもどうだい?」
「……じゃあ、一緒に」
「変なのに触れるなよ?」
「はい、オルトリンデさん」
こうして、修復施設の電力復旧が始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
電力復旧事態は、すぐにできた。
施設の発電所に向かい、手動で電力供給を行う。設備そのものの損傷がほぼなかったので、いくつかの不具合はあったが、なんとか復旧できた。
電力供給をすると、施設の電灯がすべて灯る。
「わぁ、明るくなりました」
「本当だ……不思議な灯だね」
「ええ、ランプや魔術光とは違う、温かい光です」
部屋の中央にいたエレオノールとニールは、明るくなった室内で息を吐く。
ニールは、エレオノールに聞いた。
「あのさ、質問していい?」
「はい?」
「キミはS級だけどパーティを組んでる。理由を教えてくれないか?」
「理由……」
そんなの簡単だ。
おるオルトリンデたちは、エレオノールがそばにいても眠らない。
「あの人たちは、わたしの能力が通じないんです。わたしがそばにいても、笑ってくれたり抱きしめてくれたり……温かい」
「……」
「わたしが近づくと、みんな眠っちゃうから……眠らない人たちは初めてなんです。だから、わたしからお願いして仲間にしてもらいました」
「S級のキミが仲間にね……」
「等級は関係ありません。わたしが仲間になりたかったんです」
そこだけは、譲らなかった。
オルトリンデたちは、エレオノールの大事な仲間だ。
「そっか。悪かったよ」
「いいえ……あの、ニールさんはどうしてここに?」
「決まってるさ。ボクは冒険者だから、それと……この遺跡の謎は、放っておけなかったから」
「?」
「S級冒険者のキミが調査に乗り出すと聞いてね……1人で先行して待ってたらモンスターに襲われた、って言ったらどうする?」
「え……?」
「なーんて、冗談さ。さぁて、せっかく扉が開いて明るくなったんだ。調査ちょう……」
「……ニールさん?」
ニールは、入り口を見て硬直していた。
エレオノールも視線を追い、入り口を見る。
「え………だれ?」
そこには、フードとローブで全身を隠した何者かが立っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オルトリンデ・ヴァルトラウテ・ライオットは、電力供給を終えた後、施設の最奥の部屋であるナノポッド安置部屋にやってきた。
「どうだ、ヴァルトラウテ」
「間違いありません。ここに……レギンちゃんが眠っていますわ」
「おっし!! ビンゴだぜ」
「では、さっそく……」
ヴァルトラウテは、部屋に設置されているコンソールに手を触れる。すると空中投影ディスプレイが浮かび上がり、詳細なデータが表示された。
「……うん。レギンちゃんの修復は完全に終了していますわ。あとは覚醒させるだけ」
ヴァルトラウテがディスプレイをタッチすると、部屋の中央の床が開き、ナノポッドがせり上がってきた。
透明な円柱型のポッドはナノマシンが循環している薬液で満たされ、1人の少女が全裸で固定されている。銀色の髪をツインテールにした、ジークルーネと同年代くらいの少女だった。
彼女が、code05レギンレイブ。間違いなく、オルトリンデたちの妹だ。
「よし、起こせ」
「はい。ナノマシン修復液排出。メインシステム起動。ヴァルキリーハーツ覚醒……」
その時だった。
「姐さん!!」
ライオットが叫んだ。
オルトリンデは瞬間的にメインウエポンを起動、ライオットがパンチのモーションに入ったのを視界に捉え、ヴァルトラウテの守るように前に立つ。
ヴァルトラウテは、コンソールに集中していたので完全に出遅れた。
「なんだテメェっ!!」
「…………」
オルトリンデは、間一髪間に合った。
バズーカ砲を盾にするように構え、ローブとフードで全身を隠した何者かの一撃を防いだ。
ローブの人物は、布でぐるぐる巻きにされた巨大な剣を持っている。
「ライオット!!」
「うっす!!」
ライオットが背後から襲撃者を襲う。
だが、振り下ろされた拳は襲撃者に触れることなく、地面を抉った。
襲撃者は、ライオットをすり抜けて消えた……。
「っぐ!!」
「な、ヴァルトラウテ!?」
襲撃者は、ヴァルトラウテの真横に現れ、ヴァルトラウテを蹴り飛ばした。
ヴァルトラウテは全く反応できなかった。オルトリンデやライオットをも上回る、圧倒的近接戦闘能力だ。
そして、襲撃者は一瞬でコンソールを操作した。
「……」
『ココロSYSTEM起動。ヴァルキリーハーツ覚醒。code05レギンレイブ起動』
「テメェっ!!」
もう、遠慮しなかった。
オルトリンデは着装形態になり、右手のガトリング砲を襲撃者に向けて撃ちまくる。
襲撃者はガトリング弾を大剣で受け、そのままレギンレイブの眠るナノポッドへ向かい、剣を薙ぎ払うように弾丸を弾き飛ばし、ナノポッドを叩き壊した。
同時に、素っ裸のレギンレイブが転げ落ち、覚醒する。
「んんん~~~~? ふぁぁ、な~んか騒がしいっスね? はぁぁ……ひっさしぶりの起動っス」
全裸でへたり込んだまま、レギンレイブは背伸びした。
何もかも丸見えだが、それを気にするような輩はこの場にいない。というかそれどころではない。
「あれ? オル姉にヴァル姉? それに誰っスか? え? この状況は何っスか?」
「寝ぼけんなこのバカ!! さっさと装備をロードしろ!!」
「うひっ!? 相変わらずオル姉は怖いっス……ん、どちらさま?」
「………」
襲撃者は、レギンレイブに剣を向けた。
「うひっ……」
「…………」
「てんめぇぇぇっ!!」
ブツンと、レギンレイブが崩れ落ちる。
同時に、オルトリンデのガトリングが火を噴き、わずかに対処の遅れた襲撃者のローブとフードを弾き飛ばす。
襲撃者の全貌が、明らかになった。
「──────────────え」
オルトリンデは、硬直した。
襲撃者のフードが弾け、長いロングストレートヘアが流れ落ちる。
「──────────────うそ」
ヴァルトラウテは止まった。
襲撃者のローブが落ち、見覚えのある肢体と、それを包む銀の鎧が現れる。
手に持っている大剣の布も、パラリと落ちた。
「──────────────ちっ、戦乙女型を侮っていたようだ」
襲撃者は、18歳ほどの少女だった。
長いロングストレートの銀髪、均整の取れた肢体、機能性を重視した戦乙女の鎧、そして、ゴテゴテした装飾の施された、美しい大剣を持っていた。
すると、背後から声が聞こえた……ニールだ。
「気を付けろ、そいつが噂の遺跡荒らしだ!!」
襲撃者は、レギンレイブを抱える。
「目的はこいつの回収……だが、回収物には
剣をオルトリンデに向け、襲撃者は構えた。
そして……。
『待て、今はまだ早い……帰っておいで』
「……了解。帰還します、
オルトリンデたちにも聞こえた。どこからか通信が入った。
襲撃者は、オルトリンデとヴァルトラウテに言う。
「近いうち、お前たちも回収する。それまで破壊されるなよ……
「……あ」
「ま、まって……」
襲撃者は、オルトリンデたちを飛び越え、あっという間に出口から出て行った。
追いかけることすらできなかった。
動くことも、できなかった。
「オルトリンデさん、大丈夫ですか!? ごめんなさい、わたしの力が通用しなくて……」
「…………バカな」
「ヴァルトラウテさん?」
「…………そんな」
「うっす……」
「ライオットさん?」
エレオノールが声をかけても、オルトリンデたちは反応しなかった。
こんなの、初めてのことだ。
そして……オルトリンデは呟いた。
「なんで──────────────シグルド姉が」
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