第172話、久しぶりの着装形態

 ニールを仲間に加えたオルトリンデ一行は、地下遺跡の探索を始めた。

 鉄扉の先は横幅が広い道になっている。


「ボクの調査ですと、ここから先は強力なモンスターが大量に現れます。そのモンスターの存在こそ、この遺跡が踏破されない理由なんです」 

「ふーん」

「ふーんって……あの、オルトリンデさん?」

「いや、アタシらにとってモンスターは石ころと変わんねぇよ」

「は、はぁ……」


 ニールは首を傾げたが、話を続ける。


「噂ですが、この地下遺跡の終わりには強大な門番がいて、そいつを倒すと古代文明の遺産が手に入るとか」

「…………ほぉ」

「…………それはそれは」


 オルトリンデは、ヴァルトラウテに短距離通信を送る。


『おうヴァルトラウテ、ちょっと考えてなかったことがある』

『奇遇ですわね。わたくしもです』

『ああ。アタシらの目的はレギンレイブの捜索だけどよ……もしこの遺跡に【戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】があったらどうするよ? ジークルーネと共有した情報だと、センセイにしか開けられねぇ扉らしいじゃねーか』

『うーん……わたくしたちの武器でも扉は破壊できないようですし、置いておくしかないかと』

『実物見ねーとわかんねーけど、最悪、センセイを連れて来るしかねーな』

『ですわね。でも、レギンちゃんの可能性もありますし、調査を続けましょう』

『おう』


 オルトリンデとヴァルトラウテは、互いにうなずき合う。


「あの、ボク……変なこと言いましたか?」

「いいえ、なんでもありませんわ。それよりニールさん、あなたの集めた情報のお話を聞かせてくださらない?」

「ええ、かまいませんよ」


 ヴァルトラウテは、ニールの隣に立つ。

 オルトリンデとライオットは前に立ち、エレオノールは後ろへ。


「じゃあ、雑魚はアタシとライオットで掃除すっからよ」

「……え? あの、彼女が戦うんじゃ?」


 ニールは、エレオノールを見ながら言った。

 確かに、未知の遺跡だ。ニールの言うモンスターが現れるなら、S級冒険者のエレオノールが前に立つのが自然と考えるだろう。

 だがニールは、オルトリンデとライオットの強さを知らない。


「はっ……まぁ見てろ」

「うっす!!」


 もちろん、ニールはすぐに思い知ることになる。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ガルルルルルルッ!! と、ガトリングガンが火を吹く。

 弾丸の雨は、ロックタイガーという岩で構成された虎のモンスターを砕く。


「んー、弾丸が通りにくいな……」

「姐さん、自分が……」

「いいっての。殺り方はいくらでもある」


 オルトリンデはガトリングガンを投げ捨て、回転式弾倉を持った強力なグレネードランチャーを両手に装備する。


「へへ、粉々にしてやるよ!!」


 モンスターはいくらでも現れる。

 視界に入ったモンスターに照準を合わせて引き金を引くと、グレネード弾が発射される。

 この遺跡には、岩タイプのモンスターしか現れない、おかげでグレネード弾で簡単に粉々にできる。

 もし、普通の冒険者がこの遺跡に踏み込んだら、敵モンスターの硬さに辟易しているだろう。

 だが、オルトリンデには関係なかった。


「オラオラオラァァッ!! アタシの前に出るヤツは粉々にしてやるよ!!」


 ボンボンボン!! と、グレネードランチャーから発射される炸裂弾が、岩タイプのモンスターを粉々にする。

 これを見たニールは、心底驚いていた。


「こ、こんな人がいたなんて……」

「うふふ、お姉さまはとっても強いんですよ?」

「え、ええ……まさか、S級冒険者以外でこんなに強い人がいたなんて」


 当然だが、オルトリンデの射撃は正確無比。的を外すことはあり得ない。

 現れるモンスターは、オルトリンデの敵ではなかった。


「おいライオット、ここの敵はアタシが全部殺るからな!!」

「うっす!!」


 現れるモンスターは、あっさりと砕け散った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「んだよ、岩ばっかりだな……生肉系がいないぜ?」

「恐らく、エサがないからでしょう。この岩は、遺跡の一部と考えられます。それが魔術によってモンスターの形になっているのでしょう」

「つまり?」

「ええ、この岩タイプモンスターを作った制作者がいるはずです。そいつを叩けば、この岩モンスターを止めることができると思います」

「ニールさん、詳しいですね」

「ええ、ボクは冒険者ですが、遺跡の調査を生業としているので」

「……ふーん」


 ニールは、腰に剣を提げていた。どうやら戦闘は可能らしい。

 だが、こんな細い剣1本では、この岩タイプモンスターを倒すのは難しい。


「まぁいい。ヴァルトラウテ、どうだ?」

「……うーん、進んではいると思いますが、どうも遺跡内は広くて」

「頼むぜ、オメーのマッピングにかかってる」

「わかっています、お姉さま」


 ヴァルトラウテは、センサーの索敵範囲を最大にして、この広い地下遺跡をマッピングする。

 先の道がわからないので、確率計算をしながらルートを決め、道案内をしている。

 そして、遺跡の最深部付近まで来た。


「……この先、広い空間になってますわ」

「お、ゴールが近いのか?」

「恐らく……そして、この先に生体反応あり、ですわ」

「了解。ソッコーでケリ付ける」


 ヴァルトラウテの言う通り、最深部には大きな扉があった。

 これまでとは違う、装飾の施された扉。だが扉はところどころで錆びており、開いた形跡もない。


「恐らく、ここまで踏み込んだのはボクたちが初めてかもしれませんね」

「······開けるぞ」

 

 ニールの呟きに反応せず、オルトリンデは扉を開ける。

 重さにして数トンの扉を、こともなく片手で押し開けるオルトリンデ。

 最深部は広く、瓦礫が散乱していた。


「あれ、何もない······? 瓦礫しかないですね」

「······いや、待ってください」


 首をかしげたエレオノールをニールが制した。

 オルトリンデ、ヴァルトラウテ、ライオットは気が付く。

 これは、瓦礫ではない。


「へへ、おいライオット、手ぇ出すなよ」

「うっす!!」

「え······わ、わぁっ!?」


 エレオノールが驚くのも無理はない。

 何故なら、周囲の瓦礫が集まり形となったからだ。

 全長3メートルを超える、岩石の巨人。


「こ、これは······なるほど、この遺跡の門番というわけか!!」

「これも魔術の力······?」

『きゅっぴーっ!!』


 ニールが身構え、エレオノールもピーちゃんを強く抱きしめる。

 オルトリンデはバズーカ砲の『乙女激砲カルヴァテイン・タスラム』を転送、軽々と肩に担ぐ。


「ヴァルトラウテ、ガードしろ」

「はいはい······お姉さま、やりすぎないように」

「へっ、そのためにオメーがいるんだろ?」


 オルトリンデは、バズーカ砲を分解させる。

 バズーカ砲だけじゃない。異空間に保管してある全ての武器を転送し、変形、着装形態へ移行する。


『【乙女激砲カルヴァテイン・タスラム】着装形態へ移行。【激高砲カルヴァイン】・【震砲ヴァルテイン】装備。【破壊制圧砲タスラム】装着』


 久しぶりの着装形態。

 右腕に装備された巨大実弾兵器【激高砲カルヴァイン】。あらゆる口径の弾を発射する。メインは4門の大型ガトリング砲。

 左腕に装備された光学兵器【震砲ヴァルテイン】。あらゆる金属を溶かす究極の熱線砲。

 背後に装備された数多のミサイルポッドにレールキャノン、プラズマ収束ビー厶砲【破壊制圧砲タスラム】は、目前の岩巨人を正確にロックオンしている。


 これが、本来の着装形態。

 セルケティヘトに操られていた頃の、不完全な着装形態ではない。

 集団戦を最も得意とするcode02オルトリンデの姿だ。


「す、すごい······オルトリンデさん」

「わぁー······カッコいい」

『きゅぴー!』


 ニールたちが驚くのも無理はない。この世界に銃器は存在しない。

 オルトリンデは、両腕の砲身と背部の兵器全ての照準を、岩巨人に向ける。

 

「出てきたところで悪いが、お呼びじゃないんでね」

 

 直後、閃光······そして、爆音が響いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お姉さま······やりすぎです」

「そうか?」


 エレオノールが目を開けると、岩巨人は消えていた。

 周囲には砂利のような物が散乱している······どうやら、岩巨人は木っ端微塵に砕けたようだ。

 攻撃の余波は、ヴァルトラウテが全て防いだ。

 いつの間にか、ヴァルトラウテの手には巨大盾が装備されている。


「さーて、ゴミも片付けたし、調査続行だ」


 武器を収納し、奥の扉を見る。

 そこは、間違いなく普通とは違う。装飾の施された立派な扉だった。


「ついに、夜王城地下遺跡の秘密が······」


 ニールは、興奮していた。

 まるで子供のような興奮っぷりに、エレオノールは微笑ましい気持ちになる。

 

「さーて、レギンレイブのやつはいるかね?」

「いなかったら、またふりだしですわね」

「うっす!!」

「やかましいっ!!」


 ライオットの頭を叩く音が、遺跡内に響いた。

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