第171話、マニピュレイター・Type-PAWN③/調査調査♪
今野と山岸は、ヴァンピーア王国近くまでやってきた。
マントは薄汚れ、足取りは重い。
「はぁ······なんかくたびれた」
「そうね······ここまで戦闘はなかったけど、なんだか身体がダルいわよ」
「だよなー······なんか訓練後みたいだぜ」
二人は当然ながら知らない。脳内に埋め込まれたマイクロチップにより身体と思考を操られ、数多の冒険者たちを屠ったことを。その間の記憶は完全に消去され、肉体的な疲労だけが残っていることを。
「お、あれがヴァンピーア王国か」
「あそこの調査をすれば任務完了ね」
「調査······やっぱり魔王か?」
「それもあるけど、位の高い吸血鬼の調査もしないと。中には吸血鬼にしかない固有能力を持つ個体もいるそうよ」
「へぇ〜······強いのかな?」
「それを調査するんでしょ!」
今野と山岸は、ヴァンピーア王国に向けて歩き出す。
そして、数歩歩いたところで足を止めた。
「············」
「············」
目を見開き、ピクリとも動かなくなる。
まるで、機能停止したアンドロイドのように。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二人を止めたのは、もちろんアリアドネだ。
ゲームでいう『ポーズ状態』なのか、画面越しの二人を眺めながら、飴玉を転がす。
「さて、どーしよっかな······可動データは収集できた。問題点もいくつか見つけた。どれも修正・調整可能······」
ガリッと飴玉を噛み砕き、ディスプレイを呼び出す。
そこには、資料整理を行っているアナスタシアがいた。
「ねーねーアナスタシア、ちょっといい?」
『······何度も言ってるでしょ? 忙しいのよ』
「あのさ、ちょっとお願いがあるんだけどー」
『······聞いてないわね。はぁ······なにかしら?』
アナスタシアは諦めたのか、資料を置いてディスプレイに顔を向ける。
アリアドネは新しい飴玉を掴み、口に含む。
「あのさ、『
『大事なデータ?』
「うん」
アリアドネは、再び飴玉を噛み砕く。
「レベルマックス能力者の、全力戦闘のデータだよ」
アナスタシアは、目を細める。
『······つまり、耐久テストね』
「うん。今のところ肉体的には問題ない。まぁ雑魚ばかりでほとんど能力を使うまでもなかったからね。それで思ったんだけど······この二人ならたぶん、『
『まさか······ヴァンピーア王国へ踏み込むつもり? たった二人で?』
「二人じゃないよ。知ってるでしょ? 『
『············』
つまりアリアドネは、今野と山岸を使ってヴァンピーア王国へ攻め込むと言うのだ。量産型Type-LUKEを兵士として。
「データは取れたし、もうこの2人はいらない。30人もいるんだし、2人くらい破棄しても構わないっしょ。それに、もし捕まっても自害させればいいし、この世界の技術じゃ脳内のチップを取り出す外科技術は存在しない。オストローデの関与が疑われることもない」
『······アシュクロフトが知ったらどう思うか』
「なんで? そもそも異世界のチート持ちはあたしの手足として使う予定でしょ? 大陸統一のためには犠牲は付き物だし、ここで2人犠牲になるのはしょうがないって!」
アリアドネは、ドリンクを飲みながら言った。
飴玉を掴み、口に放り込む。
『······わかった。あなたが言うならヴァンピーア王国へ攻め込むのもいい。でも、コンノくんとユキコを使い潰すことは許さない』
「なんでよ? ははぁ〜ん、もしかして情でも沸いたの?」
『そうじゃない。利用価値があるから言ってるの。それに、もし生徒が死んだなんてセンセイに伝われば······』
「伝われば?」
『······とにかく、絶対にダメよ』
通信は切れた。
アリアドネはドリンクを飲み干す。
「や〜れやれ。アナスタシアも何を考え天だか」
アリアドネは知らない。
アナスタシアは、不測の事態が起きることを『恐れて』いる。セルケティヘトが遺した、センセイの得体が知れない能力に。
「ま、許可は出たしやりますか」
全て電子頭脳で操作する。それがアリアドネのやり方。
アリアドネの操作で、今野と山岸が仮面を装着する。
「手始めに······ヴァンピーア王国の正規兵かな」
王国を攻撃すれば、きっと吸血鬼の軍団が出てくる。
2人のチート能力なら、多人数相手でも問題ない。むしろ、本領発揮と言えるだろう。
アリアドネは、実験の感覚で操作をしていた。
まさかこの地に、戦乙女型が二体もいるとは、思いもせずに。
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