第170話、遺跡内にて

 夜王城の地下遺跡。

 最初は、とても長い通路が続き、通路が終わると広い部屋に出た。そしてその先には鉄の扉があった。

 

「どうやら、あそこが迷宮の入口ですわね」

「みてーだな。ったく、位置的には夜王城とやらの下か?」

「そうですわね。迷宮を越えると夜王城に繋がる通路があるはずですわ。その道中にレギンちゃんの手がかりとなる施設があればいいのですけど」


 オルトリンデたちが求めているのは、アンドロイドの修復施設だ。

 このヴァンピーア王国ができる前に修復施設があれば、地下に施設があってもおかしくない。過去の建物をそのまま利用し、国の一部や遺跡になっているのが、セージたちが発見した遺跡の特徴だ。

 もしかしたら、アンドロイドの修復施設もここにあるかもしれない。


「モンスターはアタシとライオットでやる。エレオノールはサポ、ヴァルトラウテは索敵だ」

「は~い」

「わかりました!」

「うっす!」


 4人は確認し、鉄扉を開けた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 そこは、コモリのダンジョンと似たような地形だった。

 唯一違うのは、その広さ。そして現れるモンスターだ。


「ライオット、オメーも戦え……数が多い」

「了解っす!!」


 オルトリンデは、狭い遺跡内で使える重火器を選び、現れるモンスターに対して撃ちまくり、ライオットはモンスターを殴り殺した。

 ダンジョンと違うのは、ここは遺跡内なのでモンスターの死骸が残ること、血のニオイに引かれて更にモンスターが集まることくらいだ。

 普通なら辟易するが、特に問題はなかった。


「あの、わたしも……」

「そうだな、エレオノールも戦え……って、眠らせればいい」

「はい。というかわたし、それしかできませんから」


 クスッと笑い、エレオノールが前に出る。

 それだけで、現れるモンスター軍団はバタバタと眠るように倒れていく。

 エレオノールが能力をある程度解放すれば、無理に戦闘を行う必要などない。


「『睡眠欲ヴ・スエーニョ』……わたしを起点として、半径50メートルの生物は、眠りに付きます」

「ほぉ、便利だな」

「ええ。戦わずして進めますわ」

「お嬢ちゃん、スゴいっす!!」


 褒められたエレオノールは照れつつも気を抜かない。

 エレオノールの吸血鬼としての固有能力は『睡眠』。ヒトやモンスターだけでなく、自然現象や事象ですら眠らせる。


 人間がチート能力を発現させるように、吸血鬼には固有能力が発現する。

 人間と違うのは、固有能力にはレベルという概念がない。覚醒した能力を改良し、戦闘に特化させた技を作るのは、吸血鬼の腕次第。

 エレオノールに出来たのは、『眠り』の効果を手から放出させること、そして自らを起点として波紋のように広げること、睡眠の深度を操ることだ。

 たったこれだけで、エレオノールはS級冒険者となった。

 これが、三大欲求の1つである『睡眠』を操る最強の4人の1人『眠り姫ネムリヒメ』。


「うし、ヴァルトラウテ、遺跡内の怪しい空間や部屋を片っ端から調べるぞ」

「はい、お姉さま」


 4人は、モンスターなど歯牙にも掛けず、遺跡調査を続行した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 遺跡の中盤ほどまで調査しただろうか、不思議な反応をキャッチした。


「あら? この反応……」

「どうしたヴァルトラウテ?」

「ええ、ヒトの反応がありますわ」

「ヒトぉ~?……アタシら以外の調査組か?」

「組というか……1人ですわね」

「はぁ?」


 遺跡の中央付近に、ヒトの反応があった。

 ヴァルトラウテはエレオノールに合図すると、エレオノールの『睡眠欲ヴ・スエーニョ』が止まる。こんな場所で眠らせれば、モンスターのいいエサだ。

 

「動いてませんわね……怪我でもしてるのかしら?」

「まぁ行けばわかる。ヴァルトラウテ、ナノマシンは?」

「治療用でしたら、ジークルーネちゃんの『華』がありますわ」

「よし、行くぞ」


 オルトリンデたちは、ヒトの反応がある場所へ向かう。

 するとそこには……いた。


「男か……怪我してんのか?」


 部屋の中央はやや広い空間になっており、いくつかの鉄扉がある。

 その部屋の壁に、1人の若い男がもたれ掛かっていた。

 どうやら、腕を負傷しているらしい。


「あ……この人」


 エレオノールはすぐに気が付いた。

 男は、息を荒くしながら、ゆっくりとオルトリンデたちを見る。


「だ……誰? まさか、死の遣い?」

「アホ。死神はもっと禍々しいだろーが。アタシらみたいな乙女が死神に見えんのか?」

「はは……確かにそうだね」


 男は、腕を押さえて苦しそうに呻いている。

 ヴァルトラウテが近付き、傷口にそっと手を触れた。


「な、なにを……」

「動かないで」


 ジークルーネから借りた一輪の『乙女凜華』から、治療用ナノマシンが散布される。

 裂けた傷口から侵入し、血管と筋肉を繋ぎ、皮膚を接着する。

 失った血は戻せないが、応急手当は完了した。


「おお、傷が……」

「失った血液までは戻らないので、安静にしてくださいな」

「あ、ありがとう! 死の遣いどころか、癒しの女神とはね!」

「まぁ、お上手」


 ヴァルトラウテはクスクス笑う。

 男は立ち上がり、オルトリンデたちに向けて頭を下げた。


「助けてくれて感謝する。ボクはニール。B級冒険者で、この遺跡の調査をしてる」

「調査って、1人でですか?」

「まぁね。ボク、ソロ専門の方がやりやすいんだ」


 エレオノールは、ニールに近付きすぎないように言う。


「あの、あなた……吸血鬼ですか?」

「え?……あ、もしかしてキミも……って、『眠り姫ネムリヒメ』じゃないか!! もしかして、キミみたいなS級冒険者が遺跡調査を?」

「は、はい」

「おお……じゃあ、キミ達も冒険者なんだね! まさかキミ達も、この遺跡のお宝を探しに?」

「お宝だぁ?」

「うん。サタナエル様が管理するこの遺跡には、すっごいお宝が眠ってるって噂だよ」

「あの、ここにある宝は、全てサタナエル様の物では……?」

「あはは、少しくらいいいじゃないか」


 ニールはケラケラと笑う。

 屈託のない笑みで、少年っぽい笑顔だった。


「ここで会ったのも何かの縁だし……協力して行かないかい?」

「んだよ。ソロ専門って言ったじゃねぇか」

「あはは、でも……キミ達と一緒だと、何か見つかりそうな気がするんだ」


 ニールは、頭を下げた。


「頼む、これから先、ボクも連れて行ってくれ」

「あー……」


 オルトリンデは、仲間たちを見る。

 ソロでは、進むにしても帰るにしても危険すぎる。連れて行った方が安全だろう。

 この遺跡をクリアするまでならいいだろう……と、視線でわかった。


「わかった、いいぜ」

「おお、ありがとう!」


 こうして、臨時メンバーのニールが加入した。

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