第156話、遺跡調査ならぬ妹捜し
翌日。
ライオットが居住車を引き始めた頃、エレオノールも起床した。
着替え、樽の中の水で顔を洗い、ほんの少しだけ血を飲む。血はモンスターの物であり、吸血鬼の間では割とポピュラーな物だった。
オルトリンデとヴァルトラウテは、昨夜と変わらない位置にいた。
せっかくなので、エレオノールはいろいろと質問する。
「あの、オルトリンデさん、ヴァルトラウテさん。遺跡を調査するってお話ですけど、なぜですか?」
「ああ、妹を探してる。どこのナノポッドに入れられたかわかんねーから、しらみつぶしだけどな」
「はいはいお姉さま、エレオノールちゃんにはわたくしから話しますわ」
ナノポッド、の時点でエレオノールは曖昧に微笑んでいた。なので、オルトリンデの話の途中でヴァルトラウテが割り込んだのだ。
「お姉さまが言いましたが、わたくしたちは妹を探しているのです」
「妹さん、ですか?」
「ええ。レギンちゃん……詳しく説明してもわかってもらえないと思いますので省略しますが、この大陸にある遺跡のどこかに、レギンちゃんは眠っているはずなのです」
「遺跡……」
「ええ、なのでエレオノールちゃん。エレオノールちゃんの知ってる遺跡の場所を教えてくれませんか?」
「……そういうことなら、喜んで協力します!」
「ふふ、ありがとうございます」
いつの間にか、不眠ペンギンのピーちゃんはオルトリンデが寝転ぶソファへ。どうやらオルトリンデが気に入ったのか、彼女の胸に抱きついた。
「なんだお前、アタシのこと好きなのか?」
『きゅぴ!!』
ヴァルトラウテはテーブルに地図を広げ、エレオノールもソファに座る。
ピーちゃんがオルトリンデに懐いてるのを見てくすりと笑い、地図を見た。
「わたしが知ってる遺跡はそんなにないですけど……大きな遺跡なら知ってます」
エレオノールは、いくつか地図にチェックを入れる。
「まず、ヴァンピーア領土の首都、ヴァンピーア王国に大きな遺跡があります。ここはダンジョンになっていて、冒険者たちの稼ぎ場所になってるそうです」
「ダンジョン、ですか……」
「はい。わたしは入ったことないですけど、ヴァンピーア領土では有名です」
「なるほど……」
ダンジョン。
冒険者にとって稼ぎの場所である。
階層ごとに構造が異なり、モンスターやトラップが数多く存在する。
モンスターを倒すとドロップアイテムが出たり、宝箱なる物も存在するとか。
ダンジョンの存在については一説ある。
大昔に召喚された人間が持っていたチート能力によって作られたというのが最も有力な説で、その人間はこのアストロ大陸に無数のダンジョンを設置したらしい。
自分の故郷の知識を参考にして造り上げたと、文献には残っているとかなんとか。
「ハズレだ。ダンジョンはダンジョン、遺跡じゃねぇ」
「そうですわね……他には?」
「え、ええっと……あの、わたしが知ってる遺跡はダンジョンだけで」
「なら仕方ねぇな。とりあえずしらみつぶしに探していくしかねぇ」
「ええ……ありがとうございます、エレオノールちゃん」
「……はい」
少し俯いてしまったエレオノールだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数時間後、古ぼけた遺跡に到着した。
「……どうだ?」
「うーん……わたくし、レギンちゃんほど索敵能力に優れてるわけじゃないので」
「アタシだってそうだ。チッ……しゃーねぇ、足で探すしかねぇな」
「ええ。行きましょう、エレオノールちゃん」
「は、はい」
居住車から降り、ライオットと合流する。
外に出ると、申し訳程度の木々の囲まれた、崩れかけの建物があった。街道からも外れ、宝物があるようにも見えない。誰かが来るとは到底考えられない場所だった。
「ライオット、アタシらは周辺の調査をする。留守番は任せたぜ」
「うっす。お気を付けて、姐さん、お嬢、お嬢ちゃん」
どうやら、エレオノールは『お嬢ちゃん』と呼ぶことにしたらしい。
エレオノールも特に不満なく、ピーちゃんを抱きしめる。
「じゃ、行くぞ」
「ええ。エレオノールちゃん、何かあったら遠慮なく言ってくださいね」
「はい、ヴァルトラウテさん」
3人は、遺跡に向かって歩き出し……数歩で立ち止まる。
「…………いやがるな」
「ええ。この感じ、モンスターでしょうか?」
「たぶん。ええと…………10匹ほど、ですね」
遺跡内に、モンスターの反応をキャッチした。
オルトリンデとヴァルトラウテはセンサーに反応し、エレオノールは気配で感じた。伊達に5年以上冒険者をやっていない。
「しゃーねぇ、さっさと始末すっか」
オルトリンデは、巨大バズーカ砲の『乙女激砲カルヴァテイン・タスラム』を生み出すと、そのまま地面に立てた。すると、カルヴァテインの一部が分離し、大型拳銃が現れた。
「わぁ……」
「あれがお姉さまのメインウェポン、乙女激砲カルヴァテイン・タスラムですわ。あのバズーカ砲はいくつもの武器が合わさった形なので、ああやって小さな武器に分離させることも可能なのですわ」
「す、すごいです」
「うっせーぞ。いいから、さっさと終わらせるからな」
「はい、お姉さま」
「は、はい」
オルトリンデはズカズカと遺跡に近付き、ドアを蹴り破った。
いきなりのことでエレオノールはギョッとしたが、オルトリンデの行動は早かった。
「ゴブリンか」
バンバンと、銃の引き金を何度か引く。それだけで室内にいたゴブリンは、叫び声すら上げずに絶命した。
10回ほど引き金を引いただろうか……銃口から硝煙が立ち上る。
「終わり。さーて調べるぞ」
オルトリンデは、遺跡内へ踏み込む。
ヴァルトラウテとエレオノールも踏み込むと、そこは脳天を正確に打ち抜かれたゴブリンが転がっていた。
どうやら、ここを根城にしていたらしい。実にあっさりと、ゴブリンを討伐してしまった。
「ヴァルトラウテ、どうだ?」
「……どうやらここは、朽ちた家ですわね。それらしき反応は一切感知できませんわ」
「チッ……ハズレか」
エレオノールも冒険者だ。この程度のゴブリンの死体は見慣れている。
だが、オルトリンデに任せきりで何も出来なかったことは悔しかった。
「エレオノール、次に行くぞ。気になったことがあれば何でも言えよ」
「あ、は、はい」
自分は、仲間たちの役に立てるのだろうか……。
自分の力が通じない人たちの傍にいられるだけではダメだ。自分も仲間なのだから頑張らなくては。
捨てられないように、頑張らなくては……。
「オルトリンデさん、ヴァルトラウテさん!!」
「あん?」「はい?」
「わたし……がんばります!!」
「お、おう?」「え、ええ?」
エレオノールは、決意に満ちた瞳で2人を見た。
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