第157話、遺跡調査は続く

 最初の遺跡調査から7日ほど経過した。

 その間、回った遺跡は9箇所。オルトリンデ曰く『全てハズレ』らしい。


 遺跡調査の間も、様々なことがあった。

 たまたま調査した遺跡が盗賊の根城で襲われたり、巨大なイノシシが住み着いていたり、遺蹟とは名ばかりの洞窟だったり、調査は進展しなかったが、エレオノールは楽しかった。

 これでは冒険者ではないか、と。


 これだけ苦楽を共にしていると、恥ずかしがり屋のエレオノールも多少の意見はするようになる。

 10箇所目の遺跡調査に向かおうと、仲間内で地図を眺めている時だった。


「あの、そろそろお洗濯したいです。それと、血瓶が残り少ないので、町に補給しに行きたいんですけど······」

「わかった。じゃあ近くの町に行くか」

「そうですわね。ここからですと······この、迷宮都市コモリが近いですわね」

「うっす。迷宮都市っすか?」

「ええ。どうやらダンジョンがあるみたいですわね」

「ふーん。まぁどうでもいいや」

 

 興味ないのか、オルトリンデはピーちゃんを抱っこしてる。どうやらかなり気に入ってるようだ。

 まずは洗濯するため、近くの綺麗な川へ向かった。

 森の中にある小さな清流は、洗濯するのにはちょうどいい。日当たりもよく天気がいいので、休むにはうってつけの場所だ。


「今日はここで休むか」

「そうですわね。せっかくですし、ここでメンテナンスをしましょう」


 まだ午前中だ。洗濯して干せば日暮れまでには乾くだろう。

 エレオノールは、服と下着を全て出し、木と木の間をロープで結び、簡易物干しを作った。この程度なら冒険者として当たり前だ。こう見えても五年は冒険者をやっている。


「うっす!! 手伝うっすよお嬢ちゃん!!」

「け、けっこうです!! み、見ないでください!!」

「?」

「はいは〜い、ライオットさんはこっちに来てくださいね〜」

「うっす!!」


 異性の、大人の男であるライオットに、汚れた服や下着を見られるのは恥ずかしかった。オルトリンデはともかく、ヴァルトラウテは察してくれたのか、ライオットから調整を始めたようだ。

 このスキに、エレオノールは洗濯を始めた。


「ふんふんふ〜ん♪」


 植物の油を使った天然洗剤で服と下着を揉み洗いする。植物油なら、川に流れても無害だ。

 すると、ピーちゃんを抱いたオルトリンデが来た。

 

「よう、ごきげんだな」

「あ、オルトリンデさん、ピーちゃんも」

『きゅっぴ!』


 ピーちゃんはオルトリンデの腕から降りると、エレオノールに向かって甘えだした。

 エレオノールは、ピーちゃんを抱っこする。


「うん、ピーちゃんもキレイにしようね」

『きゅっぴ♪』

「懐いてるねぇ······」

「ふふ。でもこの子、オルトリンデさんのことも大好きみたいです」

「そりゃどーもっ」

『きゅぴっ!?』

 

 オルトリンデは、ピーちゃんに軽くデコピンした。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 洗濯を終え、メンテナンス作業を終え、日も暮れた。

 基本的にこのパーティーは食事の時間がない。エレオノールだけは例外だが、血瓶の中身をグラスに注ぎ、軽く飲むだけで終わる。

 後は基本的に自由時間だ。

 ライオットは外で見張り、オルトリンデはソファを占領して横になり、ヴァルトラウテは空中投影ディスプレイを呼び出し、何か作業をしていた。

 エレオノールは、自分の荷物から本を取り出し静かに読書、ピーちゃんは退屈なのか、作業中のヴァルトラウテの傍に擦り寄っていた。


「あらあら、退屈なのかしら?」

『きゅっぴー』

「ふふ、おいで」


 ヴァルトラウテは作業を止め、太ももにピーちゃんを乗せてグルーミングを始めた。

 すると、100日に1度しか眠らないと言われている、不眠ペンギンが眠ってしまった。

 これにはエレオノールも驚いた。


「わぁ……ヴァルトラウテさん、すごいですね」

「ふふふ。いい子いい子……あら?」

「……ん、なんか来たな」


 すると、居住車の窓が開き、ライオットが言った。


「姐さん、盗賊に囲まれたっす!!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 盗賊。

 こんな場所に……いや、街道から外れた森、飲料可能な川の近く。ある意味盗賊が通るには最適なルートかも知れない。

 だが、オルトリンデとヴァルトラウテは興味なさそうにライオットに言った。


「殺すな。後始末が面倒だ」


 たったそれだけ。

 それだけ言うとオルトリンデは目を閉じ、ヴァルトラウテはピーちゃんのグルーミングを再開した。

 さすがに、エレオノールは立ち上がった。


「あ、あの、ライオットさんだけじゃ……」

「大丈夫だっての。あのハゲ、センセイと闘りあった頃とはレベルが違う。人間や吸血鬼にどーこーできるワケねぇよ」


 オルトリンデは、つまらなそうに手を振る。

 だが、エレオノールは止まらなかった。


「でも……仲間です。わたし、戦います!!」


 エレオノールは、居住車の外へ出て行った。

 ヴァルトラウテはクスッと笑った。


「仲間、ですって」

「ああ……なんか眩しいぜ」

「わたくしたち、薄情者に見えます?」

「……さーな。フツーに考えたらライオットに任せんのが一番だ。でも、仲間なら……」

「助けに行く、ですわね」

「はっ……」


 オルトリンデは、ソファから起き上がった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ライオットさんっ!!」

「お嬢ちゃん?……どうかしたっすか?」

「わたしも戦います!!」

「え……は、はい?」


 盗賊は、20名ほど。

 だが、すでに10名ほど地に伏していた。どうやらライオットにぶん殴られ、数カ所骨折してるらしい。呻き声が聞こえる。

 ライオットは、なぜ出て来たのか本当に理解していなかった。


「あの、お嬢ちゃん?」

「仲間なら、一緒に戦うんです!!」

「………」


 やはり、ライオットには理解出来ない。

 エレオノールは手をかざし、周囲一帯に向けて力を解放した。


「眠れ……『おやすみなさいグッドナイト』」


 エレオノールが解放した力が、波となって周囲を包み、盗賊たちがバタバタ倒れた。

 これがS級冒険者の1人。『眠り姫ネムリヒメ』の力。

 人も魔獣も、魔術も物理も、ありとあらゆる現象を眠らせる。

 彼女が本気になれば、一国を眠らせて機能を麻痺させることもできるだろう。


「……ふぅ」

「お嬢ちゃん、スゴいっす!!」

「えへへ……その、怪我はないですか?」

「うっす!! 当然っす!!」

「よかったぁ……」


 ほっと胸をなで下ろすエレオノール。

 すると、居住車のドアによりかかる、オルトリンデとヴァルトラウテの姿があった。


「さっすがだぜ。アタシらの出番がなかったわ」

「ふふ、さすがはS級冒険者ですわね」

「あ、オルトリンデさん、ヴァルトラウテさん」

「さーて、こいつらふん縛っておくか。エレオノール、どうせ起きないんだろ?」

「は、はい。1日は起きないと思います」

「では、縛ったらここに放置しておきましょうか。ライオットさん、ロープを」

「うっす!!」


 いつの間にか、4人で作業を始めていた。

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