閑話・code02&code03、放浪の日々
およそ500年以上前、戦乙女型アンドロイドは突如として目覚めた。
偶然、必然。それは誰にもわからない。
アンドロイド軍の特殊兵器と戦い、code01が犠牲となり、code04もヴァルキリーハーツに亀裂が入る甚大な損傷を受けた。
7体の姉妹の内2体が戦線離脱。
状況は最悪。体勢を立て直すため、残る5体の戦乙女型アンドロイドも、修復用ナノポッドへ入れられ、ボディの修復と総メンテナンス作業が行われた。
それから……アンドロイド軍と人類軍の戦いの記録は、残っていない。
戦乙女型アンドロイドは修復用ナノポッドに入ったまま、長い、長い年月が過ぎた……。
アンドロイド軍は資源不足により一部のアンドロイドを除き廃棄せざるを得ない状況に追いやられ、人類軍は科学技術が衰退。アンドロイドにしか使用不可能だった『魔術』の力に目覚め、新しい時代を築き始めた……。
そしてここに、長い眠りから覚めた2体のアンドロイドの冒険が始まった……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おい、ヴァルトラウテ………おい!!」
『システム再起動………おはようございます。code02オルトリンデ……う、姉さま?」
「寝ぼけてんじゃねぇぞ。どうやら施設がやられたらしい。見ろ、ポッドが砕けてやがる」
「まぁ……」
2人は、同じ施設に収容されて修復を受けていた。そして今、目の前には砕けた修復用ナノポッドがある。よく見ると、瓦礫のような欠片が散乱している。あの瓦礫がポッドに直撃し、シャットダウンしていた意識が入ったのか。
「どうやら、修復は終わったみてぇだな。身体が軽い」
「ええ。ブリュンヒルデちゃんやシグルドリーヴァ姉さまは……」
「……シグルド姉ぇはもうダメだろう、ヴァルキリーハーツが砕けたんだ。ブリュンヒルデは……わからん」
「姉さま……うん。外の状況を調べましょう。施設が襲われたのなら、敵機がいるはず!!」
「おう。と言いてぇが…………ヴァルトラウテ、センサーに反応はあるか?」
「え…………あ、あら? 反応ゼロ。というか、施設そのものから生体反応が感じられませんわ……」
「ああ。アタシのセンサーもそう感じてやがる。なにかおかしい……気を付けろ」
「はい……」
2人は、バズーカ砲と大盾を装備し、修復用ナノポッドがある部屋から出た。
そして、驚いた。
「な………なんだ、こりゃ」
「し、施設が………」
そこにあったのは、施設では無かった。
長い年月により風化した建物はあらゆる壁が崩れ、植物の蔦にが飛び出しては絡みついている。修復用ナノポッドに入る前には職員もいたが、人気はまるで感じられない。
イヤでも気が付いた。
「ね、年数経過による倒壊、だと!? おいおい、ナノポッドに入ってから何年経過してやがるんだ!?」
「ね、姉さま……この壁、少なくても一万年以上は経過していますわ……!!」
「ば、バカな……あ、あの戦いから一万年だと!?」
姉妹は、アンドロイド軍と人類軍の戦いが終わり、新たな時代が紡がれていることを知った。
施設から外に出ると、そこはジャングルのような原生林だった。
「おいおい……こんな植物、データにねぇぞ」
「それだけじゃありません。UNKNOWN反応多数……アンドロイド、いえ……生物です」
「……まさか」
ガサガサと、近くの藪が揺れる。
2人は武器を構えると、藪から巨大なサーベルタイガーが現れた。
『カロロロロロロ………』
「なんだこいつ……ヴァルトラウテ、データ……は、あるワケねぇか」
「ええ。未知の生物ですわ……」
すると、サーベルタイガーは2人をエサと認識したのか、飛びかかるように体勢を低くする。
オルトリンデとヴァルトラウテは、サーベルタイガーを観察した。
「どうやら生態系もかなり変わったようだな」
「ええ。一万年も時間が経過すればねぇ……アンドロイド軍はどうなったのでしょうか?」
「さーな。でも、こんな原生林があるくらいだ。この辺りでドンパチは起きてないようだぜ」
「……どうします?」
「とりあえず、周囲の探索だ。今の時代の情報も手に入れるぞ」
「はい、お姉さま」
『ガルルルォォォォォォォッ!!』
サーベルタイガーが吠えると同時に、『乙女激砲カルヴァテイン・タスラム』が空気砲を放ち、サーベルタイガーは木々をなぎ倒しながら吹っ飛んだ。
「やっべ。非殺傷の空気弾だったけど……」
「お姉さま、相変わらず手加減がお下手なのですね」
「うっせ。行くぞ」
何事もなかったかのように、2人は森を歩きだした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二人の戦乙女は、町や国を見て回った。
アンドロイドのアの字も出てこない。機械文明は衰退し、アンドロイドにしか使えないはずの魔術が当たり前のように
人々の生活を支えている。
気になることもいくつかあった。
オストローデ王国。そう、始まりのアンドロイドである『
おそらく、長い年月の間でオストローデの名だけが残り、王国として残った······そう結論付けた。
それに、様々な国を見てわかったが、もしアンドロイドが生き残っていたとしても、もはやこの大地は人間が支配している。技術は衰退したが、魔術という力を宿し、チート能力を持った人間が負けるとは思わなかった。
そう、オルトリンデとヴァルトラウテの戦いも、終わった。
二人は、行く宛もなく放浪した。
数年、数百年······ロクなメンテナンスもせずに、身体の動く限りアストロ大陸を回った。
「······どーやら、アタシらアンドロイドの時代は終わったみてぇだな」
「そうですわね······ふふ、なんだか変な気分ですわ」
二人は、身体をすっぽり覆うローブを着て歩いていた。
場所はディザード領土のドルの町。ローブを着てる理由は、長い年月を過ごしたおかげで、人工皮膚の一部が捲れてしまってるのを隠すためだ。
二人は、メンテナンス不足でボロボロだった。
そして。
「っと!?」
「きゃっ」
ヴァルトラウテが、一人の男性とぶつかった。
「も、申し訳ない。大丈夫ですか?」
頭を下げて謝る。
人の良さそうな男性だった。
ヴァルトラウテは、微笑を浮かべて答えた。
「大丈夫。わたくしに怪我はありませんわ」
「そ、そうですか。よかった」
「ええ、なのでお気になさらず」
手を振って答えるが、動作不良の腕はカタカタ震えた。
「あの、怪我をされてるんじゃ……」
「え、ああ。ちょっと古傷で……」
アンドロイドとバレはしないだろうが、ヴァルトラウテは誤魔化す。すると、オルトリンデが呼んだ。
「おい、何してんだ!! さっさと行くぞ」
「あ、はい。ではごきげんよう」
こうして、男性と別れた。
この男性が、後に自分たちを修理してくれる、センセイだとも知らずに。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから、二人はディザードを出発······宛もなく彷徨った。
目的はない。たまに戦い、感謝される。だが、ボディのガタがひどく、もうまともに戦うことはできないだろう。
オルトリンデは、ヴァルトラウテに言った。
「なぁ、ヴァルトラウテ」
「······はい」
「海、見たくないか?」
「海······いいですわね」
「ああ······行くか」
言葉に出さずとも、ヴァルトラウテは理解した。
もう、自分たちのような兵器は必要ない。このまま朽ちるなら、誰もいない海の底で静かに機能停止しよう······きっと、オルトリンデはこう思ってるに違いない。
ヴァルトラウテも、同じだった。
そして。
「お姉さま、海は」
「ん?」
『が、ガガガ、がぁざ······』
「ヴァルトラ······」
オルトリンデは振り返り、ヴァルトラウテを見た。
「な······」
そこにいたのは、背中に杭が刺さったヴァルトラウテ。
そして、そのヴァルトラウテの首を掴み持ち上げる、一人のタンクトップハゲだった。
そして、オルトリンデの背後に響く声。
「こぉんにちわ······そして、おやすみなさ〜い♪」
オルトリンデの意識は、ここで途絶えた。
これが、二体の戦乙女が、セルケティヘトとライオットに捕獲された物語。
二人の、真の物語の始まりだった。
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