第150話、強化魔導兵士

「よっしゃあっ!! レベル99になったぜ!!」

 

 オストローデ王国近郊にある『死の森』。

 異世界より召喚された30人の子供たちが、自らの内に宿る能力のレベルアップを図るために戦う場所だ。

 ここには、A級レベルのモンスターがウヨウヨしている、アストロ大陸きっての危険地帯の一つだった。

 そんな危険地帯で戦う少年少女たちの一人、今野耕一郎こんのこういちろうは、自らのチート能力が上限に達した瞬間を感じた。


「お、マジで!?」「すごいじゃん!!」

「これで10人目かぁ」「あたしだってもうすぐだし!!」


 今野のパーティーメンバーは、今野を祝福した。

 どつかれ、肩を組まれ、笑い合う。

 今野は、この瞬間がとても幸せだった。


 生徒たちは、人類最強レベルの力を手に入れつつある。

 前線メンバー、サポートメンバーを混ぜてパーティーを組み、死の森で経験を積む毎日だった。

 生徒たちの平均レベルは85。もはや、一国が抱える能力者としてはオストローデ王国に適う国はない。


 生徒たちは、信じていた。

 自分たちが強くなり、このアストロ大陸を一つの王国にまとめ上げ、大陸から争いを無くすことが、平和に繋がると。


 レベルを限界まで引き上げた者は、オストローデ王国の役職に付いて仕事をしている。

 中津川将星は、新設された10代の少年たちによる騎士団の団長に、篠原朱音は同じく10代の少女たちよる魔術師団の団長に。他の7人も、似たような役職に付いている。


 今野は、自分もオストローデ王国の重要なポジションを任されると期待していた。

 団長などとは言わない。中津川の下で副団長でもいい。それかアシュクロフトの右腕や、アナスタシアの付き人······考えただけで、今野はわくわくしていた。


 そして、訓練を終えて成果報告をし······今野はアナスタシアに呼び出された。

 期待で胸を膨らませ、高鳴る心臓を抑えて。


 何が起こるか、知りもせずに。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 今野は、アナスタシアの部屋で紅茶を飲んでいた。

 ガチガチに緊張しているのは言うまでもない。


「どう? 美味しいかしら?」

「は、はは、はいっ」

「ふふふ。そう緊張しないで。能力のレベルアップ、おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

「知ってると思うけど、能力を限界レベルまで上げた子には、王国での重要な役職に付いてもらってるの」

「······はい」

「それで、コンノくんの役職だけど······」

「·········」









 __________


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「······コンノくん? 聞いてる?」

「············えっ、あ、はい。ええと? あれ?」


 今野は、体をビクッと痙攣させた。

 いつの間に眠っていたのか、頭が痛い。

 首を振り、意識を覚醒させてアナスタシアに向き合う。


「申しわけありません。その、オレの役職は」

「コンノくんには、正規騎士団の五番隊長を任せたいの。コンノくんの能力に合わせた部隊よ」

「き、騎士の、五番隊ですか!? ま、マジで!?」

「ええ。任せて平気かしら?」

「も、もちろんっす!! 頑張ります!!」


 今野は、飛び上がるように部屋から出て行った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アナスタシアの部屋にいたのは、今野だけではない。

 ソファの影に隠れるように、ボサボサヘアーにメガネを掛けた少女が、空中投影ディスプレイを操作していた。


「どう?」

「ん、感度良好。チート能力持ちの『魔導強化兵士サンプル壱号』は順調に作動ちゅー」

「ならいいわ。それにしても厄介ね。チート能力持ちに魔導強化兵士処理をすると、それ以上レベルが上がらなくなるなんて」

「ま、能力は科学じゃ解明できないからねー。だから魔導強化兵士にして、ウチらが自在に操るしかないんでしょ?」

「そう。そのための異世界召喚、そして、異世界の人間なのだから」


 ボサボサヘアーにメガネの少女、『Type-PAWNポーンアリアドネ』は、ディスプレイを弄る。


「憐れだよねぇ。あの子供たち、自分たちが強くなることが、この世界を救うことに繋がるって、本気で信じてるんだから。ウチらの都合のいい魔導強化兵士として使われるために喚ばれたってこと知らないんだもん」

「まずはコンノくんで実験。使えるようなら、限界レベルまで上げた子の魔導強化兵士処理を行うわよ」

「へいへーい」


 アリアドネは、適当に手を上げて答えた。


「ねーねー、センセイはどーすんの?」

「······ひとまず、ゴエモンに任せましょう。今は実験が大事、ゴエモンが破壊されても、電子頭脳のバックアップは取ってある」

「ゴエモンねぇ······あんなバカに負けるような人間かなぁ?」

「ああ見えてゴエモンは、私たちの誰よりも強いわ。それに、仮に負けても問題ない。戦乙女型が揃おうと、私たちの計画に狂いはないわ」

「······ふーん」

「それより、コンノくんのデータ収集をお願いね。後に関わる大事なところだから」

「ふぁ〜い」


 アリアドネは、ディスプレイに視線を向けた。

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