第148話、これからの方針

 ユグドラシル領土から脱出し、国境の町アドドを目指し進んでいた。

 追手は完全に振り切った。

 まず、安全で長時間停止してもいい場所を探し、エンタープライズ号を停車させる。

 メンツも増えたし、話しておくことが山ほどある。今日は進まずに、ここで野営をすることにしよう。 

 さっそく、エンタープライズ号内の一階リビングに全員集める。


『きゅう〜』『もきゅう』

「かぁぁぁ〜〜〜わいぃぃ〜〜〜っ!! あぁもう癒やされるぅぅ〜〜」

「アルシェ、おいアルシェ、こっち来いよ」

「待ってよぉ。この子たち可愛いんだもん」

「ったく、ほら」


 アルシェは、ごま吉とジュリエッタの虜になっていた。

 三日月も三匹のネコを抱いてるし、クトネもシリカを抱っこしてる。

 俺はジュリエッタをアルシェに渡し、ごま吉を抱いてルーシアに渡した。


「お、おいセージ」

「別にいいだろ、可愛いし」

「む······」


 というわけで、話し合い開始。

 まず、ここにいるメンバーだ。かなり多い。

 俺、クトネ、ルーシア、三日月、アルシェ、ゼドさん、ブリュンヒルデ、ジークルーネ、オルトリンデ、ヴァルトラウテ、ライオットだ。11人だぞ11人。

 

「まず、これからどうするかですけど······」

「それなら提案がある」


 ゼドさんが挙手して答えた。


「オリジンの提案だ。ワシたちはこのままラミュロス領土へ向かう」

「え……ラミュロス領土って、ラミア族が治める国で、多種族との交流を持たない閉鎖国家ですよね?」

「そうだ」


 クトネの質問に答えたゼドさん。そこまでは俺も知ってる。


「今、ラミュロス領土は荒れている。ラミア族、オーガ族、龍人族の三つ巴の戦いが始まろうとしているんだ。そこに介入する」

「はい?」


 え、ええと………この人、何を言ってるんだ?

 というか、俺の疑問。


「あの、ゼドさんの用事はオリジンとの謁見で、すでに仕事は終わってますよね。このままディザード王国に戻って、ファヌーア王に報告した方がいいんじゃ」

「アホたれ。んなモンは後だ後。それにセージ、オメーはオストローデ王国にケンカ売るんだろ? ワシもオストローデ王国には借りがあるからな、オメーの戦いに最後まで付き合うぜ。それに、ファヌーアも同じこと考えてるだろうからな」

「ぜ、ゼドさん……ありがとうございます」

「へっ」


 ゼドさん、ホントにいい人だよ。

 すると、ごま吉を優しくなでるルーシアが言う。よく見ると、気持ちいいのかごま吉はスヤスヤ眠っていた。


「それでゼド殿……ラミュロス領土の戦いに介入するというのは?」

「ああ。ラミュロス領土では、新たな『王』を決める戦いが始まろうとしている。ラミア、オーガ、龍人……この戦争に勝利した種族が、新しい『王』を名乗れるんだ」

「え、じゃあ、今の王は……」

「ええと、『猛毒女王ヴェノムクィーンエキドゥナ』ですよねー?」


 こういうとき、クトネは答えてくれる。

 シリカを抱っこするクトネを見るのは、随分と久し振りだ。


「ああ。百年前の戦いでラミア族が勝利し、今はエキドゥナが王を名乗っている。ラミュロス領土は特殊でな、定まった王がいない。ラミュロス領土に集まる種族同士が戦い、王を決める」

「なるほどな。閉鎖国家だから情報がまるでなかった。精霊王オリジンの情報網はさすがだ」

「ああ、ワシも聞いて驚いた」

「……でー、それが介入とどう繋がるので?」


 再びの俺。どうもきな臭い匂いがしてきた。


「簡単だ。三つ巴の戦いに介入して、それぞれの種族最強の戦士を倒して『王』になれ。そうすれば、ラミュロス領土の種族は王に従う。オストローデ王国に対抗する戦力をゲットっちゅうワケじゃ」

「……な、なんか乱暴ですね」

「オリジン曰く『戦乙女型に勝てる生物はこの地上におらん』だそうじゃ。ラミュロス領土への侵入経路もいくつか聞いている。国境都市アドドで補給をしたらすぐに向かうぞ」


 つ、つまり……今にも戦争が始まりそうな閉鎖国家に侵入して、ラミュロス領土最強の3種族であるラミア、オーガ、龍人族にケンカを売って勝利し、ラミュロス領土の王になるってことか……これ、かなり無理ゲーだろう。


「ぜ、ゼドさん、これはちょっと……」

「おいおい、オストローデ王国にケンカ売るんだ。戦力は多い方がいいだろう? ファヌーアもフォーヴ王国との協力体制を得るために踏ん張っちょるところだ。ワシらもラミュロス領土の協力を得れば、オストローデ王国に対抗できる戦力を得れる」

「…………」


 確かにそうだけど……なんか、話がデカい。

 まさか、戦争まで起きるとは。オストローデ王国には巨大兵器もあるみたいだし、戦乙女型だけじゃ闘えないのはわかってる。生徒たちの様子も気になるし……はぁ。

 ユグドラシル王国を出たばかりなのに、もうグロッキーだ。


「ワリーが、アタシらは行けねーぜ」


 唐突に、オルトリンデが言った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お、オルトリンデ姉さん?」

「ワリーなジークルーネ。メンテを終えたらアタシらは出発する。いいだろヴァルトラウテ」

「……仕方ありませんわね。ブリュンヒルデちゃんやジークルーネちゃんと行くのも大変魅力的ですが……」

「ヴァルトラウテ姉さままで……ど、どうしてなの? 久しぶりに姉妹が4人そろったのに!!」

「だからだよ」

「……え?」


 胡坐をかいて座っていたオルトリンデは立ち上がり、女の子座りをしていたジークルーネの頭をガシガシ撫でる。乱暴だが、どこか慈愛に満ちた手つきだった。


「起きてねぇ姉妹がまだいるだろ。code05……レギンレイブを探さねえとな」

「レギン姉ぇ………」

「この人数で動くより、手分けをして探したほうが効率がいいですわ。ジークルーネちゃんなら、わかりますわよね?」

「……うん」


 レギンレイブ。それがcode05の名前か。

 確かに、この人数で動くよりは、手分けしたほうが無難だ。

 でも、俺としては不安もある。


「2人だけで大丈夫なのか?」

「おいおいセンセイよ。アタシらは最強の戦乙女だぜ? そこらの雑魚とは作りが違うっての」

「いや、ウィルス……いえ、なんでもありません」


 はい、オルトリンデに睨まれましたー!!

 なら、俺にできることをやる。


「よしわかった。オルトリンデとヴァルトラウテ、【戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】は自由に使っていい。それと、お前たちの旅にライオットを連れていけ」

「あん? このハゲを?」

「ああ。リミッターを解除したから、以前より強力になってる。いいか、ライオット」

「うっす!! 自分、姐さんたちに付いていくっす!!」


 ライオットはオルトリンデに頭を下げる。

 するとオルトリンデは、ライオットの頭をペシペシたたいた。


「面白れぇ。気に入ったぜお前。今日からアタシの舎弟にしてやるよ」

「あざーっす!! 自分、姐さんのために戦います!!」

「あらあら」

「もちろん、お嬢のためにも命賭けまっす!!」

「あら嬉しい、ふふふ」


 ここに、オルトリンデ、ヴァルトラウテ、ライオットの、異色のパーティーメンバーが誕生した。

 戦闘力だけなら国家レベルだな……不安だけど頼もしい。


「それにしても、あと2体か……」

「え?」


 ジークルーネが、首をかしげる。


「戦乙女型だよ。全7体ってことは、残り2体で姉妹が揃うんだろ? オルトリンデ、ヴァルトラウテ、ブリュンヒルデ、ジークルーネ、アルヴィート。あとは……レギンレイブがcode05ってことは、最後の戦乙女はcode01か」

「「「「…………」」」」

「って、どうした?」


 戦乙女型が、俺を見ていた。

 

「あのね、センセイ。code01はもういないの」

「え……?」

「code01は、ヴァルキリーハーツを砕かれて……死んだよ」

「アンドロイド軍との戦いで、code01……シグルドリーヴァお姉さまは、破壊されましたわ……」

「……マジ、か」

「ああ。詳しくは覚えてねぇが間違いない……アタシらは、シグルド姉ぇのヴァルキリーハーツが砕ける瞬間を見た。正確には……」

『…………』


 オルトリンデは、ブリュンヒルデを見た。

 そして。


「シグルド姉ぇは、ブリュンヒルデを庇って死んだんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る