第147話、ソーサラー・Type-WIZARD①/いつか来る恐怖
セルケティヘトは、情けない姿で逃走を続けていた。
途中、大爆発と共にカラミティジャケットが沈んでいくのが見えた。考えられる可能性は、セージが戦乙女型を修理し、あの遺産とやらの力をcode02とcode03に与えたに違いない。
現に、得体の知れない乗り物で浮遊するcode03ヴァルトラウテを見た。
「冗談やない……!! なんや、このデータの波は……」
セルケティヘトは、自らの人格を形成するデータに、得体の知れない波形を感じていた。
あのとき、セージと対峙した瞬間に発生した……破壊やデータ消去とは違う、計算の出来ないデータの波。
それが『恐怖』という感情に、セルケティヘトは気付かなかった。
「お疲れさま、セルケティヘト」
「……アナスタシア」
森の中、進路など考えずに適当に走っていたにもかかわらず、目の前には、大きなとんがり帽子を被った黒髪の魔女がいた。
その表情は、いつもと変わらない微笑を浮かべて。
「やられたわねぇ……」
「……見誤ったわ。センセイはヤバい。あれはとんでもないバケモンや」
「そう」
「ライオットは破棄や。量産型Type-LUKEの開発は進んどるんやろ? まぁ、ライオットの記憶データにはウチらの情報は殆ど入っとらん。code06に解析されても大したことあらへんやろ。それより、ウチのボディを改造せなあかん。今回の件でわかったが、非戦闘員アンドロイドもある程度の武装は積んどくべきや」
「そう」
セルケティヘトは、得体の知れない波形を今も感じている。
詳細な調査が必要だと思い、アナスタシアに提案した。
「アナスタシア、重要な情報があるで」
「……なに?」
「センセイはすぐにでも始末した方がええ」
「そうね、でも」
「あ?」
───────────ピュン。
「………あ」
次の瞬間、セルケティヘトの視界が傾いた。
「まずは、アナタの始末が先よ」
視界が傾いたのではない。
セルケティヘトの身体が細切れにされ、首が切断されたのだ。
コロコロ……と、首が転がる。
セルケティヘトは、いつの間にか1人の男がいることに気が付いた。
『…………ゴ、エ……モン』
「同士を斬りとぉないが、勘弁しとくれ」
男は、サムライのような格好をしていた。
濃い紫の浴衣を着て草履を履き、浴衣はだいぶ緩いのか、胸元が開かれ腹にはサラシを巻いている。
腰には、立派な拵えの日本刀が2本差してあった。
セルケティヘトは、処刑されたのである。
だが、消えかけてる意識が感じていたのは、何故か安堵だった。
「本当に、やってくれたわね」
そこに、イラついたアナスタシアの声。
アナスタシアは、セルケティヘトの頭を鷲掴み、自分の顔の前に持ってくる。
「何を見つけたかと思えば、2体の戦乙女型アンドロイドとはね。上手く調整すればアルヴィートと同様に、こちら側の戦力として使えたかも知れないのに、アナタ自身ですら消せないウィルスを仕込んでオシャカにするとは……しかも、オリジナルのカラミティジャケットまで持ち出した挙げ句、センセイの力で完全復活した2体の戦乙女型アンドロイドとcode04に破壊され、新たなUNKNOWN兵器まで使われた……さすがねセルケティヘト、ここまで状況を悪化させるなんて」
『…………』
アナスタシアは、怒っていた。
ブリュンヒルデだけでも脅威なのに、さらに2体の戦乙女型アンドロイドがセンセイの元へ。それだけじゃない、UNKNOWN兵器である『戦乙女の遺産』まで確認出来た。
もう、セージはオストローデ王国最大の敵となりつつある。
しかも……。
「教えてあげる。オリジナルType-LUKEは、センセイの手に落ちた」
『………!?』
「センセイは、私たちアンドロイドにとって最強最悪の能力を得た……」
『…………ふ、ハハ、そう、やね』
「……やはり、アナタに身体を持たせるんじゃなかったわ。アナタが得たデータは全てType-PAWNアリアドネに分析させる。アナタはただのウィルス散布装置に逆戻りね」
『……く、はは、そうか、ようやっと、わかったで』
「………?」
セルケティヘトは、笑っていた。
ようやく、理解出来た。
そして、残り少ない時間で何が出来るのかも。
『アナスタシア、ウチから、最高の、贈り物、や……』
「………っ!! アナタ、何を!?」
『へ、へへ………』
セルケティヘトは、電子頭脳に蓄積された全データを削除した。
それと同時に、自らの命とも呼べる電子頭脳を、クラックさせる。つまり……アンドロイドとして、完全な死。
『ウチ、ようやっと、理解、したわ……』
「バカな、何を考えて……!?」
『アナスタシア、センセイは、とんでもないバケモンや、あれは、もう、アンドロイドじゃ、勝てない』
「……」
『ふ、ひひ……恐怖、や、恐怖せぇ』
アナスタシアは、セルケティヘトが何を言ってるのかわからなかった。
なぜ、こんな意味のない行動を取れるのか。
『光と、闇……裏と、表……全と、無……
「………セルケティヘト?」
『あんさん、きぃつけ、や……なにもしらない、きょう、ふ……かん、じ…………』
「……………」
───────────ぱん。
セルケティヘトの電子頭脳がショートした。
そして、セルケティヘトの機能は完全停止……死んだ。
こうして、ウィルス兵器『スティンガー・Type-BISHOP』は破壊された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「───────────終わったか?」
着物男が、退屈そうに聞いた。
「ええ、意味がわからないわ。でも、とりあえずおしまい。引き上げるわ」
「そぉか。じゃあ儂は行くぞ」
「………どこに?」
「決まっちょる。センセイとやらの元じゃ」
「………ダメよ。今のセンセイは危険すぎる。
オストローデ王国最強のアンドロイド・ゴエモンは、怖いくらい深い笑みを浮かべる。
「そうじゃろうな。それに、儂はまだ完全じゃない。戦らにゃならん相手が山ほどいるわ」
「………また、人間相手に戦うの?」
「当然じゃ!! このバカタレは人間を侮ったから敗北した!! 儂は違う、儂は人間こそ最強の存在だと知っちょる!! 人間の生み出した技術を携え、アンドロイドのボディを持って乗り越える!! 人機一体こそ最強の存在なんじゃ!!」
「…………」
アナスタシアは、ため息を吐く。
このゴエモン、大陸中を渡り歩き、強そうな人間を相手に修行を重ねている。このユグドラシルにいたのも偶然で、反応を感知したアナスタシアが無理矢理連れて来たのだ。
「……で、あと何人戦うの?」
「2人」
「あら、少ないわね」
「ああ、とっておきの2人じゃ。コイツらを喰ったら……次は戦乙女型じゃ!! 戦乙女型を斬って倒した瞬間、儂は最強のアンドロイドとなるのじゃ!! ガーッハッハッハッハ!!」
「…………」
アナスタシアは、再び頭を抱える。
強いのだが、イマイチ読めない思考を持ったアンドロイドだ。
「……で、標的はどなた? さっさと終わらせて欲しいのだけれど」
「くっくっく、人間の中でも最強と呼べる2人よ」
ゴエモンは、彫りの深い笑みのまま言った。
「『
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゴエモンは、高笑いしながら行ってしまった。
セルケティヘトの残骸を回収し、オストローデ王国へ戻るべく回収ポイントに向かう。
「…………表裏一体、ね」
セルケティヘトの最後の言葉。
光と闇、表と裏、全と無。そして……。
「『
最後、セルケティヘトが残した言葉。
『
───────────────────『
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