第140話、BOSS・code02&code03①/最悪な相性

 ブリュンヒルデは飛び出し、オルトリンデを狙った。

 まず潰すべきは砲撃。攻撃手段である『乙女激砲カルヴァテイン・タスラム』の破壊だ。

 だが、オルトリンデの前には『乙女絶甲アイギス・アルマティア』を構えたヴァルトラウテが立ちふさがる。


『code03』

『………』


 エクスカリヴァーンとアイギスがぶつかる。

 ヴァルトラウテの『乙女絶甲アイギス・アルマティア』は戦乙女型最強の守り。実弾からレーザーはもちろん、ありとあらゆる攻撃を弾き、吸収し、受け流す。

 それは、同じ戦乙女型の武器とて例外ではない。

 ブリュンヒルデの斬撃の衝撃は吸収され、刀身は磁石の反発のように跳ね返される。


『………』

『code02』


 エクスカリヴァーンを弾かれ、崩された体勢。

 ヴァルトラウテの背後にいたオルトリンデが構えた『乙女激砲カルヴァテイン・タスラム』が、巨大なベアリング弾を発射する。これは戦況や状況に応じて様々な弾薬を自動生成するバズーカ砲だ。

 ブリュンヒルデは、ベアリング弾をエクスカリヴァーンで受け、そのまま弾き飛ばす。

 

『………』


 かなり厄介だった。

 まず、相性が最悪だ。オルトリンデを狙えばヴァルトラウテが前に出てブリュンヒルデの攻撃を受け、そのその隙にオルトリンデの砲撃がブリュンヒルデを狙う。

 ヴァルトラウテを無効化したくても、エクスカリヴァーンではアイギスを破ることはできない。

 そして、ブリュンヒルデは2体の異常に気が付いた。


『損傷甚大……』


 2体は、ボロボロだった。

 この2体はセルケティヘトと行動を共にしていた。不当な暴力を受けたのだろうか。そう考えたが、損傷の具合から年数経過による部品劣化が多く目立った。

 人工皮膚がめくれ内部が露出している部分にはテーピングが巻かれ、戦乙女の鎧には亀裂や腐食もある。

 ブリュンヒルデのアイセンサーで確認しただけでも、数十箇所の外部損傷が発見された。そして、純正部品ではない劣化部品で損傷を修復した形跡もあった。

 ブリュンヒルデは気が付く。

 このまま攻撃を続ければ、遠からず2体は自壊する。

 

『………』


 ブリュンヒルデは、1つの答えに行き着く。

 この2体は、自分やジークルーネが目覚める以前から、何らかの理由で起動し、数年数十年数百年の間、活動をしていたのではないのか。この部品の損傷具合から見て間違いない。

 ブリュンヒルデは、ヴァルトラウテの自壊を狙った。

 全力で攻撃を当て続ければ、ヴァルトラウテのボディはまず保たない。


『特殊兵装【乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト】着装形態へ移行。【乙女剣エクスカリバー】・【女神剣カリヴァーン】展開』


 ブリュンヒルデは、エクスカリヴァーンを分離させて鎧へ装着、双剣形態へ。

 すると、オルトリンデとヴァルトラウテにも動きがあった。


『特殊へい、zo、【乙女激砲カルヴァテイン・タスラム】着装形態、ザザ。【激高砲カルヴァイン】・【震砲ヴァルテイン】てん、ザザザ』

『【乙女絶甲アイギス・アルマティア】ちゃくそ、ザザザ・【装甲盾アイギス二対】展か、ザザ』


 2体の声は、雑音まみれだった。

 ビキビキと亀裂が入るような音が響く。まるで着装形態にボディが悲鳴を挙げているようだった。

 間違いなく、2体の身体は限界が近い。


『……早く、終わらせます』

『こここ、こード、0よん、は壊、ザガガガ』

『ぶりゅ、ひひひるで。破かいしまままま』


 ガクガクと、2体が痙攣する。

 オルトリンデの巨大バズーカは分離し、両手に装着された左右で四門のガトリング砲、そして両肩に装着された二門のプラズマ収束ビーム砲に変形し、ヴァルトラウテの大盾は2つに分かれ、両手持ちの盾に

変形した。


『制圧開始』


 ブリュンヒルデのブースターが、火を吹いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ジークルーネは、オルトリンデとヴァルトラウテが年数経過による劣化が激しいと初見で看破。原因は不明だが、自分やブリュンヒルデより遥か以前に起動したと推測した。

 ナノマシン散布によるデータ収集を試みたが、微弱放電によりナノマシンが全て破壊されてしまい、詳細なデータ入手は不可能。ジークルーネのナノマシンは耐電処理をしてあるが、一定数の電圧で簡単に破壊されることを相手は知っているようだ。

 なので、推測と状況からデータ算出をする。


「年数経過による劣化。躯体損傷部分・視覚データから分析。推測稼働年数3845年……これじゃ体内ナノマシンの稼働率は2割以下……こんな状態で今まで……」


 ブリュンヒルデとの戦いで、オルトリンデたちの躯体は限界を迎える。

 間違いなく、Type-BISHOPはオルトリンデたちを使い捨てる気だ。

 敵の目的はセンセイの殺害。ここでブリュンヒルデを足止めし、ライオットというアンドロイドに始末させるのが目的だ。

 だったら、オルトリンデたちを止めれば勝機はある。

 Type-BISHOPは、人間を侮っている。

 こうして姿をさらしたのも、クトネやルーシア、三日月には負けないという根拠のない自信によるもの。

 なら、チャンスはある。


『ワクチンデータ収得。『乙女凛花ディアンケヒト・ユリウス』2輪修復開始。ワクチンデータ収得完了。これよりデータ改変を行う。所要時間2分』


 ジークルーネは、過去に開発されたType-BISHOP用のワクチンデータ収得する。それを、自身にインストールされているありとあらゆるコンピュータウィルス用ワクチンプログラムと合成・調整を行い、『スティンガー・Type-BISHOP』用にカスタマイズする。

 恐らく、Type-BISHOPのウイルスは自己進化をする凶悪なウイルスだ。


 戦乙女型アンドロイドには、ナノマシンによる自動ワクチン精製プログラムがインストールされている。それが起動しないほどナノマシンが摩耗しているのか、それとも戦乙女型アンドロイドの対ウイルスプログラムに勝る性能なのかはわからない。

 恐らく……効果は数秒。

 だが、数秒あればいける。

 Type-BISHOPですら知らない、戦乙女型に搭載された機能の1つ。


 それは、『強制停止シャットダウン


 全機能を強制停止させる、ジークルーネにしか使えないスイッチ。

 強制停止させればウイルスプログラムは止まる。そして、電力供給が停止したウイルスは自壊する。

 そのために、まずはブリュンヒルデに、オルトリンデたちを止めてもらう。

 センセイがいれば、躯体の損傷は修復出来る。


「お姉ちゃん、オルトリンデ姉さんたちを止めて!!」

『わかりました』


 決着の時は、近い。

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