第139話、BOSS・Type-LUKE③/大いなる機神の歯車

「·········あ、れ?」 

  

 目が覚めると、見覚えのある場所だった。

 教室よりも広く、生徒がの机よりも広いデスク、椅子は安っぽいが肘掛けがあり、デスクの上には飲みかけのコーヒーカップが置いてある。

  

「ここは·········職員室?」

  

 教師にとって、教室よりも馴染み深い場所。

 同僚教師の机が並び、学年主任の机や休憩スペース、冷蔵庫なども置いてある。

 

「あれ、服······スーツだ」


 俺は、ワイシャツにネクタイ、スラックスの姿だった。

 冒険者の服じゃない。というか、服の感触も感じてる。これって夢じゃないのか?

 

「確か、電撃をモロに喰らって······」


 そう、俺は死んだ······はず。

 モーガンを使った不意打ちも効かず、本領を発揮したタンクトップハゲに殺られたんだ。

 それなのに、どうして職員室にある自分のデスクに突っ伏して寝てるんだ?


『それは、キミが仮死状態だからだよ』

「ああそっか……って、だれ?」


 俺のデスクの向かい側に、誰かが座っていた。

 50代前半ほどで、白髪交じりの無造作ヘア、白衣を着たどことなく疲れた初老男性だ。

 男性は、くたびれたような笑みを浮かべる。


『はじめましてかな、相沢誠二……いや、センセイ』

「……ど、どうも。こんにちは」


 男性は、両手を組んでデスクに載せたまま、安っぽい肘掛けイスにもたれかかる。

 不思議と、そんな動作が似合っていた。


『私はオーディン。キミが受け継いだ『|機神の御手(ゴッドハンド)』の前所有者であり、アンドロイドの父と呼ばれた……まぁ、今はただの思念態だ」

「………はぁ」


 うーん、夢にしてはリアルだ。

 というか、なんだよこのおじさん。

 オーディン·········あれ、どこかで聞いたような?


『興味深い。どうやらチート能力とは、巡り廻るような物らしい。所有者が命を終えると、能力は輪廻を巡り、新たな所有者に宿る······ふふ、本当に面白い』

「あ、あの······ここは?」

『恐らく、『|機神の御手(ゴッドハンド)』の世界······いや、センセイの精神世界、いや、生と死の狭間······ふふふ、思考するのは実に楽しい』

 

 答えになってねぇ。

 でも、ようやく思い出してきた。

 俺は、アンドロイドと戦って······死んだ。


『まだ死んでないよ』

「へ?」

『キミはまだ生きている。どうやら、キミは随分と娘に好かれているようだ』

「······は?」


 意味わからん。

 というか、こんなことしてる場合じゃない。


「あ、あの! 俺、行かなきゃ!」

『ふむ。ではそちらのドアから行きたまえ。ドアを開ければ意識は覚醒するだろう』

「どうも!」

『だが、その前に······』

「うぉっ!?」


 椅子から立ち上がり、職員室ドアへ向かう。すると反対側にいたはずのオーディンが目の前に現れた。


『このまま目覚めても、すぐに殺されてしまうだろう』

「え······」

『見たまえ』


 オーディンは、休憩スペースにあるテレビのリモコンを取り、テレビを付ける。するとどういうわけか、外の様子が映し出された。

 転がる俺、黒いアンドロイド、倒れるエルフとゼドさん。

 黒いアンドロイドは再び全身を帯電させている。


『王国。消去』


 そして、俺を吹き飛ばした技でエレベーターホールの壁を吹き飛ばした。

 壁が無くなり、外の景色が丸見えになってる。


『やれやれ。Type-LUKEにこんな攻撃性はなかったはず。どうやら電子頭脳を改造したようだ。こんなことができるのは、Type-PAWNポーンか、あるいはType-BSHOPビショップか』

「なんてこった······くそ、ブリュンヒルデたちも心配だってのに」

『ブリュンヒルデ?······ふむ、code04のことか?』

「他に誰がいるんだよ!」

『·········まぁいい。どの道、私には何も出来ないからな』


 意味深な言葉を吐くオーディン。

 もういい、こんなオッサンに構ってる場合じゃない。


『1つ、アドバイスをしよう。センセイ、お前は戦う力を持っているはずだ。それを使えば、やつを退けることができる』

「はぁ? 戦う力って、そんなもんあったら苦労……」


 ピーンと来た。

 そっか、その手があったわ。おいおい、完全に忘れてた。

 俺はオーディンが笑ってるのを見た。この野郎、馬鹿にしてんのか。


『それと、キミにこれを渡しておこう』

「ん、なんだこれ?·········歯車か?」


 オーディンから受け取ったのは、銀色の歯車だった。

 手のひらですっぽり覆えるような、大時計に組み込まれていそうな歯車だ。


「あの、これは?」

『それはキミの固有武器だ。いつか必ず必要になる。それまで、大事に持っているんだ』

「こ、固有武器⁉ こ、これが⁉ ただの歯車じゃん!!」


 俺の固有武器は歯車!

 いや別に期待してなかった。かっこいい剣とか、この世界にはない銃とか、期待してなかったと言えば嘘になる。

 しかもこれ、武器っていうか部品じゃん。

 すると、歯車は俺の手に吸収されて消えた。


『さぁ、キミの世界へ帰るんだ。そして、娘たちをよろしく頼むよ』

「·········はい」


 けっこうヘコみつつ、職員室のドアを開けた。

 ドアの先は廊下ではなく、真っ白な光に包まれている。

 俺は、その先へ踏み出した。


『ふふふ。『大いなる機神の歯車ハイヴォルテージ・インフィニティ・ギア』······キミに機神の加護があらんことを』


 そんな声が、背後から聞こえた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 目が覚めると、傷が消えていた。 

 胸と腹の傷が淡く発光している······そうか、これって。


「ジークルーネが仕込んでたのか······」


 これは、ジークルーネのナノマシンだ。

 いつの間にか、俺の体内に仕込んでたらしい。あの子はあの子なりに、俺のためにできることをしてくれた。

 きっと、俺の命が危険に晒された時に発動するように、あらかじめデータをインプットしていたんだろう。

 全て終わったら、ジークルーネの頭をなでてやるか。


「·········センセイ。死亡確認。何故」


 黒いアンドロイドが振り返る。

 俺が死んでないのが不思議みたいだな。

 不思議と、もう怖くない。


「決まってんだろ······俺は不死身だからだよ!」

「理解不能」

「へっ、借りを返してやる!!」


 真面目に理解不能とか言われると恥ずかしい。

 俺はキルストレガの柄を拾いリペアを発動させる。すると砕けた刀身や機械部品が修復された。

 でも、俺の武器は剣だけじゃない。


「エネルギーチャージ。エレクトリックバズーカ・スタンバイ」


 黒いアンドロイドは両腕を前に突出す。すると腕の機械部分が合体し、巨大な砲身に変形した。

 でも、もう怖くない。だって俺は1人じゃないから。


「エレクトリックバズーカ・発射!!」

「来い、モーガン・ムインファウル!!」


 紫電の砲撃と同時に、俺の正面に黒い水牛が現れる。

 ブリュンヒルデが来れなくても、こいつらは呼べる。なぜなら【戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】の正式登録者は俺だからな!!

 自分で戦うことばかり考えてて、こいつらの存在を忘れてた!! 笑うなら笑え、ちくしょう!!


「モーガン、あいつを弾き飛ばせ!!」


 紫電の巨大レーザーがモーガンに正面から直撃する。だが、モーガンの頑丈すぎるボディにダメージはない。

 モーガンは俺の指示で黒いアンドロイドに向けて走り出す!!

 巨大レーザーをものともせず、モーガンは黒いアンドロイドに体当たりした!!


「ダメージ小。驚異度修正。驚異度極大!!」

「ヴィングスコルニル!! モーガン!! あいつを外に弾き飛ばせぇぇぇぇーーーっ!!」


 再びモーガンの突進。そしてヴィングスコルニルの援護射撃。

 ヴィングスコルニルの集中砲火を浴びた黒いアンドロイドは動きを止め、モーガンの突進をモロに食らう。


 そして、自らが開けた横穴から外へ吹っ飛んだ。

 吹っ飛んだのを確認した俺は、その場に崩れ落ちた。


「や、やったぁ……はは、やった、俺1人で……やった」


 倒したわけじゃないが、乗り切った。

 でも、この高さから落ちたらタダじゃ済まない。今のうちにブリュンヒルデたちと合流するべきだろう。


「ゼドさん!!」


 俺は、未だにのびてるゼドさんの元へ向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「落下中。衝突時損傷甚大」


「対象殺害未完了。任務続行」


「申請。申請。申請」


「特殊兵装『カラミティジャケット』使用申請」


「申請許可。特殊兵装展開」


「任務続行」

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