第138話BOSS・Type-BISHOP②/アンドロイドと人間

 向かい合う、4体の戦乙女型アンドロイド。

 ブリュンヒルデはエクスカリヴァーンを構え、ジークルーネを守るように前に出る。

 ジークルーネは、クトネたちを見た。


「·········」


 状況は、非常に悪い。

 クトネは硬直して動けず、ルーシアは木に叩き付けられて呻き、三日月はセルケティヘトの尾に捕まっている。

 だが、アルシェは違った。


「······事情はわかんない。でも、ルーシアを傷付けたアイツは敵だね」

「あ、アルシェさん?」

「射抜け、ピナカの矢」


  ───────────ピィュイ。


 口笛が響き渡る。

 アルシェの手の中にあった矢が、エメラルドグリーンの輝きを纏いながら飛んだ。

 狙いはセルケティヘトの顔面。


「ん」


 たが、ピナカの矢はあっさりと、首を軽く捻っただけで躱される。

 

  ───────────ピィュイ。


 そして、セルケティヘトの背後に飛んだ矢は軌道を変えた。

 狙いはセルケティヘト……ではなく、三日月を拘束している尾。狙い通りの場所に着弾したが、セルケティヘトの尾に傷を付けることは出来ない。

 だが、拘束している尾の関節部分に食い込んだピナカの矢は、三日月の拘束をわずかに緩めた。


「にゃぁぁっ!!」

「おお、しもたわ」


 三日月は、絡みつく尾から脱出した。

 そして、セルケティヘトから距離を取る。

 同時に、アルシェはピナカの矢を回収した。


「ルーシアさん、ルーシアさん!!」

「ぐ……だ、大丈夫だ、クトネ」

「どうしましょう……あいつ、かなり手強いです」

「ああ。アンドロイドとの戦いは初めてだが、やるしかない」


 ルーシアは息を整え、改めて剣を構える。

 クトネも杖を握り直した。


「シオン、アルシェ、クトネ……やれるか」

「やる。あいつむかつく」

「アタシも同じよ。ここはアタシの庭、好き勝手させない」

「あ、あたしだって!!」

「ふ……では、やろうか」


 セルケティヘトは、妖しく笑う。


「いいでしょ。ウチの強さ、見せてやりましょか」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ジークルーネは、空中投影ディスプレイを展開した。

 当たり前のように使っているが、自らの周囲にナノマシンを散布し、無数のナノマシンの電波情報を視覚化することで可能になる、ジークルーネだからこそできる技だ。

 固有武器である華は散ってしまい、セージに直してもらうかジークルーネの体内で生成されるナノマシンで修復するしかない。だが、それよりも優先すべきことがあった。


「お姉ちゃん、オルトリンデ姉さんとヴァルトラウテお姉さまと戦って」

『……敵機と認めるのですね』

「違う!!」


 ジークルーネは、自分にしか出来ない戦いに身を投じる。

 ヒントは、いくつかあった。


「あのアンドロイド、言ってたよね……Type-BISHOPって」

『はい』

「わたしのデータベースにある。Type-BISHOP、正式名称『スティンガー・Type-BISHOP』……これは、アンドロイド軍が造りだした、ウィルス兵器」


 かつて、人類軍のコンピュータに侵入してデータを喰い漁ったウィルス兵器。

 アンドロイドの設計図や機密情報を盗み出し、大きな損害を与えた。人類軍がこれに対抗するのに、ワクチンプログラムを投入したが、そのデータすら己のモノにして自己進化を続けた恐るべき兵器だ。

 最終的にどうなったのか、ジークルーネのデータバンクには記録されていない。だが、ヒト型のボディを与えられ、当時最新鋭だった戦乙女型アンドロイドを操るまでになっている。

 

「ワクチンプログラムのデータなら残ってる。わたしが再構築して姉さんたちにインストールすれば」

『ですが。当時のワクチンプログラムでは『スティンガー・Type-BISHOP』を死滅させることは不可能でした』

「わかってる。だけど、少しだけでも機能不全を起こせれば……」

『わかりました。では、私がcode02とcode03の動きを封じます。ジークルーネの作戦にお任せします』

「お姉ちゃん……ありがとう!!」


 ジークルーネは、三日月たちを見た。

 セルケティヘトと向かい合い、闘志を滾らせている。

 ジークルーネは、仲間を信じることにした。


「Type-BISHOPをお願いします!! こちらは、わたしたちにお任せを!!」


 そう叫ぶと、三日月たちが笑って頷いた。

 

「なんやぁ……ウチのウィルスをどうにかする気かいな? 人類軍ですらお手上げで、今の今まで改良を重ねたウチのウィルスを、旧式の戦乙女型がなんとかするって? こりゃ傑作や」

「バカにしないで。ふふ、知らないなら教えてあげる。わたしたち戦乙女型に搭載された『ある』機能。それを使えばどうにかなるのよ!!」

「………………ほぉ」

「やっぱり知らないのね。アルちゃんの身体を調べたなら知ってるはず……つまり、あなたたちアンドロイドは、戦乙女型のブラックボックスまでは解明できていない!!」

「………………」


 ジークルーネと、戦乙女型の制作者であるオーディン博士しか知らない秘密。

 もちろん、その内容を教えるつもりはない。


「code02、code03……その2体を破壊しろ。だがcode06の電子頭脳だけは破壊するな」


 オルトリンデと、ヴァルトラウテのアイカメラ……真紅の瞳が燃えるように点滅した。

 ブリュンヒルデはエクスカリヴァーンを構える。

 そして、セルケティヘトは小さく舌打ちした。


「チ、ブラックボックスとは……っと」


 セルケティヘトの顔面を狙い、ピナカの矢が飛んできた。


「余所見してると、キレーな顔に穴が空いちゃうかもよ?」

「悪いが、任された以上、貴様をここで破壊する」

「ぶっこわす」

「ま、守りは任せてください!!」


 セルケティヘトは、一瞬で思考する。

 ブラックボックスの存在は知っていたが、解明出来ていないのは事実。もしジークルーネの言う機能が、全システムの初期化だったら……。

 ライオットがセージを始末して戻る時間。オルトリンデとヴァルトラウテがブリュンヒルデを破壊し、戦闘能力のないジークルーネを破壊する時間。この目の前にいる人間とエルフを始末する時間。

 全ての要素を踏まえ再計算。

 

「…………いいでしょ。まずは、あんたら全員ツブしますわ」


 答え。

 迅足に、ケリを付ける。

 いざという時の備えはある。ライオットの切り札を使えば、たとえオルトリンデとヴァルトラウテが停止しても切り抜けられる。

 セルケティヘトは、戦いを選択した。


 さて、その計算の結果は果たして?

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