第137話BOSS・Type-BISHOP①/2体の戦乙女

 目の前の光景が信じられなかった。

 三日月、クトネ、ルーシア。そしてアルシェは、目の前にいる3人の敵に困惑していた。

 まず、事情を知らないアルシェ。


「ね、ねぇ……なんかあの2人、ブリュンヒルデとジークルーネに似てない?」

「に、似てるなんてモンじゃないです。あれって、まさか……」

「クトネ、気を引き締めろ……恐らくあれはブリュンヒルデと同格の存在だ!!」

「ふぅぅぅぅ~~~~~ッ!!」 

 

 敵とブリュンヒルデを交互に見るアルシェ、困惑するクトネ、警戒を緩めないルーシア、ネコのように唸る三日月。

 そして、ブリュンヒルデとジークルーネ。


「うそ、うそ。なんで……どうしてオルトリンデ姉さんとヴァルトラウテお姉さまが」

『………敵機を確認』

「違うよ!! あれは姉さんたちだよ!! お姉ちゃんだってわかるでしょ!!」

『はい。あれはcode02オルトリンデ。code03ヴァルトラウテです。理由は不明ですがオストローデ側に協力してる模様。戦闘は避けられません』

「そんな……」


 ジークルーネは崩れ落ちる寸前だった。

 それを見て、ニヤニヤと卑しく笑うセルケティヘト。


「くひひ……混乱しとるなぁ。なぁcode06、た~~~っぷり悩んでええんやで? そのぶん、あんたらの大事なセンセイの命が危機に晒される」

『……ッ!!』


 ブリュンヒルデは、エクスカリヴァーンを構えてセルケティヘトへ突っ込んだ。

 センセイを守る。それがブリュンヒルデの最優先事項。

 だが、セルケティヘトを守るように長いウェーブヘアの少女が割り込んだ。

 そして、身体がスッポリ隠れてしまう大盾で、エクスカリヴァーンを受け止める。


『code03ヴァルトラウテ。敵機Type-BISHOPに協力する理由を説明せよ』

『·········』


 戦乙女型最強の防御力を持つcode03。

 正式名称、広域守護型戦乙女code03ヴァルトラウテ。直接的な戦闘よりも、守護に長けた戦乙女型アンドロイド。

 右手に装備した大盾『乙女絶甲アイギス・アルマティア』の防御力は、あらゆる攻撃を吸収する。

 そして、敵機はヴァルトラウテだけではない。


「お姉ちゃんっ!!」

『っ!!』


 セルケティヘトの背後から、巨大バズーカ砲を構える銀髪ポニーテールの少女がいた。

 正式名称、集中砲撃型戦乙女オルトリンデ。中遠距離砲撃に特化した高火力の変形砲、『乙女激砲カルヴァテイン・タスラム』をブリュンヒルデに向ける。

 放たれるのは、物理攻撃に特化した巨大ベアリング弾。

 最初に放ったレーザー弾の効果が薄かったので、物理弾に変更しての射撃だ。


「させないっ!!」


 ブリュンヒルデを守るように、ジークルーネの『乙女癒掌ディアンケヒト・ユリウス』の華がベアリング弾の盾になる。だが、ナノマシン散布装置である華に防御機能はない。

 ジークルーネの華は、ベアリング弾に粉砕された。だが、ブリュンヒルデがヴァルトラウテから離れるきっかけにはなった。


「お姉ちゃん、大丈夫!?」

『ありがとうございます。ですがジークルーネ。このままでは』

「······」


 強敵だった。

 何より、相性が抜群だ。

 防御に特化したヴァルトラウテが守り、オルトリンデが撃つ。ブリュンヒルデのエクスカリヴァーンと最悪の相性だ。

 この様子を見ていたセルケティヘトは、高笑いした。


「あーっはっはっは!! こりゃ面白いわぁ、戦乙女型の破壊合戦!! こんなおもろいモンが見れるとは」


 セルケティヘトは笑う。

 そして、気が付いた。


「んん?」

「しゃぁぁーッ!!」


 真上から、三日月しおんが襲ってきたことに。

  

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 『猫王』と『キャットウォーク』の併用による身体強化は、並の人間や獣人を大きく上回る。

 ネコのように身軽で、ネコのように静かに歩き、ネコののように気配を消し、ネコのように木に登る。

 ブリュンヒルデがセルケティヘトに向かったと同時に、三日月も動いた。しかも、すぐ隣にいたクトネたちにも気付かれずに。


 敵は、アンドロイド。

 事情はよくわからないが、ブリュンヒルデとジークルーネの姉妹機で間違いない。

 三日月は、あの2体の戦乙女型が、操られていると思った。

 漫画やアニメでは、操られてる人や機械は、大元を叩けば洗脳が解ける。つまり、セルケティヘトを破壊すれば、オルトリンデやヴァルトラウテも元に戻ると考えた。

 ブリュンヒルデに気を取られた今、セルケティヘトを破壊するチャンス。

 だが。


「甘々や」


 サソリの尻尾が、三日月を絡め取る。


「あーええ、そっち任せるで」

「ぐっ、ぅぅ」


 オルトリンデとヴァルトラウテが三日月に向かおうとするが、セルケティヘトが手で制する。


「ん? 自分どこかで·········あぁ、行方不明の勇者やないか。なんでこないなところへ?」

「うぅぅっ!! 離せっっ!!」

「やれやれ。どうも勘違いしとるようやから教えとくわ」


 対象一名を拘束するルーシアの『影牢』が、セルケティヘトの影を縫い止める。


「シオンを離せッッ!!」


 ルーシアは、セルケティヘトの尾を切断しようと接近する。たが、セルケティヘトはニヤリと笑った。


「甘々やねぇ」


 セルケティヘトの着物の内側から、2本目の尾・・・・・が現れ、ルーシアを薙ぎ払う。その衝撃でルーシアは近くの木に叩き付けられた。

 

「ぐっがぁっ!?」

「ルーシアさんっ!!」

「ルーシアっ!!」


 クトネとアルシェの心配に、ルーシアは答えられない。

 それより、気になることがあったのだ。


「な、ぜ······私の、影牢を」


 ルーシアの影牢は、対象一名を完全拘束する。

 チート能力に相応しい技であり、正々堂々な戦いを好むルーシアはあまり使うことはない。だが、その効果は知っていた。

 そんな影牢が、セルケティヘトには通じなかった。


「面白いこと教えますわ·········ウチらアンドロイドに、肉体に作用する能力は通用せぇへん」

「な······」

「まだまだ研究は進んでおらへんけど、確認した事実や」


 驚愕するルーシア。

 そして、未だに囚われてる三日月。


「それと、ウチをナメないほうがええで。戦闘こそ戦乙女型に任せとるが、たかが数匹の人間を相手にできへんほど弱かない。戦乙女型は戦乙女型に任せて、ウチと遊ぼうか」


 戦いの火蓋は、切って落とされた。

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