第135話BOSS・Type-LUKE①/ワン・オン・ワン

 敵襲。

 え、マジで? このユグドラシルに?

 唖然としていると、オリジンが別のディスプレイを俺の前に開いてくれた。

 そこには、タンクトップハゲが映ってる。しかも体型がヤバい、プロレスラーみたいだ。

 何人ものエルフがタンクトップハゲを包囲し、槍を突き立てている。

 

『かかれーーーっ‼』

『『『おぉぉぉぉーーーッ!』』』


 槍を構えたエルフがタンクトップハゲに突進する。だが、タンクトップハゲは避けようともせず、真正面から槍を受けた。

 が、槍はタンクトップハゲに貫通することなく砕け散る。


『な、なんだこいつは! ええい、魔術部隊、放て!!』

 

 後方で詠唱していた魔術部隊が、何発ものファイアーボールを放つ。だが、ファイアーボールはタンクトップハゲのタンクトップすら燃やせなかった。

 そして、タンクトップハゲは首をコキコキ鳴らす。


『邪魔。死』

 

 タンクトップハゲは、両腕を突出す。

 すると、二の腕がバカっと開き、捻じくれた銀の棒が左右で8本現れた。

 そして、右腕に4本、左腕に4本の鉄の棒がバチバチと紫電を帯びる。


「まさか······おい、逃げろ!!」


 タンクトップハゲの両腕から、とんでもない熱量の電撃が放たれた。

 指揮官エルフ、槍エルフ、魔術エルフは、一瞬にして消し炭となる。

 周囲の壁や店、逃げ惑うエルフも巻き込み、メチャクチャな破壊を起こしていた。

 間違いない。敵はアンドロイドだ。

 ディスプレイをボーゼンと眺めていた俺に、オリジンが言う。


《チ······分析の結果、あれはType-LUKEルークと判明した。拠点防衛と迎撃に特化した戦闘用アンドロイドじゃの。しかも、姿が以前と違う。あんな人間みたいな姿をしてるとは、これもまた進化かのぅ》

「そんなこと言ってる場合か!! なんか兵器はないのかよ!?」

《アホぅ。こんな姿のわらわに戦闘能力があるはずなかろう。戦いや防衛に関してはアシュマーに任せておる》

「くそ。じゃあブリュンヒルデを呼ぶ!」


 俺はバンドに内蔵されたでジークルーネを呼び出し······あれ? ジークルーネに繋がらない。ブリュンヒルデにも、ルーシアにも。あれ!?


「おいおい、どうなってんだ······あ!?」


 映像に、ゼドさんが映った。

 手にはティザード王国でも見た大斧が握られてる。でも、なにか様子がおかしい······どうも、アシュマーさんと揉めてるようだ。


『あれは貴様の差金か、このドワーフめ!!』

『ンなわけあるか!! それよりさっさと住人の避難をさせるなり、迎撃の指揮を取るなりしろ!!』

『くそ、だから他種族を招くのは反対だったのだ。この聖なる大樹ユグドラシルにエルフ以外の者を入れるなど······』

『このボケエルフ!! いいから早く動け、死にてぇのか!!』

『黙れこのドワーフが!!』


 なんかめっっっちゃ喧嘩してます。

 俺はオリジンを見る。


《すまぬな·········わらわの存在を秘匿するため、徹底的な排他社会を作り上げたのじゃが、それがねじ曲がったエルフ主義として根付いてしまっておる。こればかりはもうどうにもならん》

「察するよ······とにかく、あのアンドロイドを止めないと!!」

《じゃが、どうするのじゃ? あれほどの高電圧、人間が食らえば消し炭になるぞ》

「······なぁ、あれって魔術か?」

《む······そうじゃが》

「なら、手はある」


 俺の腰には、魔を吸収する剣がある。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺は恐怖を押し殺し、ゼドさんの元へ向かった。

 あのタンクトップハゲがいるのは中層。エレベーターホールがある広い場所だ。

 こうなったら、エルフと協力してあいつを追い返すしかない(倒すという発想はない模様)

 あいつは、オストローデオストローデ王国の刺客で間違いないだろう。敵さんも本腰入れて来たってことだ。

 俺はエレベーターに乗り、中層へ向かう。


「······いた!!」


 ゴンドラがゆっくり下降し、エルフとゼドさんがタンクトップハゲと戦っている。

 よーし、このまま背後からビームフェイズガンを喰らわせてやる。


「こんのバカエルフ、さっさといけ!!」

「うるさい!! ドワーフが命令するなっ!!」

「ンなこと言ってる場合じゃねえとなんべんも······」

「黙れ!! この······」

「雑魚。消去」


 言い争いはますますヒートアップ。

 敵を目の前にして、敵から目を離すとどうなるか。


「「あ」」


 電撃が、ゼドさんとアシュマーさん、そして一緒にいた兵隊エルフたちをふっ飛ばした。

 消し炭にこそならなかったが、壁に叩き付けられた二人は意識を失っている。

 

「え」


 そして、俺を乗せたゴンドラが到着した。


「センセイ。発見」

「·········うそでしょ?」


 こうして、俺とType-LUKEルークのタイマンが始まった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺とタンクトップハゲは、タイマンで向かい合った。

 待て待て、アンドロイドと戦うのはブリュンヒルデの専売特許だろ。なんで俺が。


「センセイ。消滅」

「ちょ」


 タンクトップハゲは、両腕の『巨大電極』に雷を集中させ、全身を帯電させる。どうやらこいつは雷を使って暴れる戦闘タイプ。いやいや、完全に人外の敵じゃねーか!?


「ってンなこと考えてる場合じゃねぇぇぇぇーーーーーっ!!」

「センセイ。消去」

「どわっふぇぇぇぇーーーーーっ!?」


 よくわからない叫びを上げながら、部屋の中をグルグル走る。

 ここはエレベーターホール。半円形のドーム状の広場で、それなりの広さがある。ゲームで言う中ボス部屋みたいな場所だ。

 タンクトップハゲは部屋の中央に陣取り、俺目掛けて雷を放つ。


「死ぬぅっ!!」


 俺は壁沿いに走り、雷の的にならないようにする。

 手にはキルストレガ、そしてビームフェイズガン。

 ああもう、ロープレならこの位置で周りながら遠距離射撃でライフを削るんだが、走ってると照準なんて合わせられないし、自動ロックオン機能は俺に搭載されていない。つくずくゲームとは違う。


「センセイ。消去」

「ちょ、待ったストップ、ストッーーーーーっぷ!!」

「了解。停止」

「え」


 なんと、タンクトップハゲはあっさり止まった。

 もしかして話せばわかるヤツなのか?

 両手を俺に向けたまま、微動だにしない。


「ええと、お前はType-LUKEルークだな。オストローデ王国の刺客か!?」

「肯定。我。センセイ。消去任務。行動中」

「えーと、センセイって……俺だよな?」

「肯定」

「つまり、俺を殺すためにオストローデから来たと?」

「肯定」

「あー………1人で来たのか?」

「否定。Type-BISHOPビショップ同行」

「タイプビショップ……アンドロイドか」

「肯定。現在。戦乙女型。戦闘中」

「え……じゃあ、ブリュンヒルデたちと戦ってるのか!?」

「肯定」

「そっか……どうりで連絡付かないわけだ」

「…………」

「あー……………」

「…………」

「…………」

 

 や、やばい。会話が途切れた。

 ええと、質問には答えてくれる……なんとか時間稼ぎを。


「行動再開。センセイ。消去」

「そう甘くないよなぁぁぁぁぁぁっ!?」


 再び、俺は走り出した。

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