第134話迫る恐怖

 白く、淡く発光した長い通路。

 急ぐ理由もないので歩いて進むと、最奥にドアがあった。

 俺はドアに手を触れ、『接続アクセス』を発動させる。するとドアは静かに開いた。

  

「おぉ·········やっぱり」    


 そこは、何もない白い空間。

 モーガンやヴィングスコルニルと同じだ。ドアの起動と合わせ、白い床に切れ込みが入り、まるでゲートのように開いていく。

 そして、開いた床はさらなる地下に繋がり、何かがせり上がってきた。


「う、ぉぉ······これが、新しい【戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】か」


 なるほど、形状から察するに······。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 新しい遺産を手に入れた。

 俺は転送装置でオリジンの部屋へ戻ってきた。

 すると、空中投影ディスプレイに写ったオリジンが出迎えてくれる。


《戻ったようじゃの。満足したか?》

「ああ。大満足だよ。面白い物が見つかった」

《ほぅ·········って、まさか奥に進めたのか⁉》

「ああ。あのドアは俺にしか開けられない、特殊なドアなんだ」

《むむむ、わらわが時間をかけて解明しようと思ってたのに······なんて奴じゃ、そなたは》

「悪い悪い。それより、あそこに眠っていた物なんだけど」


 とりあえず、遺産は個人情報登録だけして置いてきた。

 ユグドラシル王国の物だし、オリジンの許可は必要だろう。個人情報登録して言うセリフじゃないけど、触ったら勝手に登録されたから仕方ない。


《長年、開けることの出来なかった扉を開けたのはそなたじゃ。データだけもらえればあとは好きにして構わん》

「ありがとう。ちなみに、中身はとんでもない兵器だからな」

《兵器?》

「ああ。アンドロイド······戦乙女型専用の、オーディン博士とやらが造った兵器だ」

《·········戦乙女型》


 そういえば、オリジンは戦乙女型のこと知ってるのかな。

 

《そうか、やはり完成していたのか······》

「え?」

《戦乙女型。オーディン博士の最高傑作にして最後の作品。彼が娘と呼び愛した戦いの乙女。code00の暴走事故・・・・・・・・・・・で封印されたと思ったのだが、完成していたとはな》

「·········は?」


 今、なんて言った? 

 code00? おい、戦乙女型は七体じゃなかったのか?

 アルヴィートはcode07、つまり00から07なら、八体の戦乙女型が存在することになる。


「お、おい、code00ってなんだよ?」

《詳しいデータは既に消失してるから詳細は不明じゃ。だが、オーディン博士が設計し開発した戦乙女型試作code00が暴走したという記録は残っておる。多大な被害を受けたが破壊され、精神中枢は初期化されたらしい。その暴走したデータを解析し、再設計して創られたのが、7体の戦乙女型じゃ》

「·········」


 なんだ、この予感は。

 俺は何を思いついた。頭の中に単語が並ぶ。

 暴走したcode00。始まりの戦乙女型。初期化された精神中枢。

 戦乙女型ってことは。いやいや。


「馬鹿な。いやいやあり得ない。というか、考えすぎだ」


 なぜだろう、イヤな予感がした。


「·········ジークルーネは、知ってたのか?」

《なんじゃさっきからブツブツと·········っ!!》

「······ん、どうした?」


 突如、室内に警報が鳴り響く。

 いきなりで驚き、思考が中断された。


《これは·········敵襲じゃ‼》


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ユグドラシル王国下層。木の根ストリート。

 繁華街として栄え、狩を終えたエルフやひと仕事終えたエルフが食事や酒を楽しむ場所である。

 そんなエルフで賑わう場所に、一人の男がいた。


「貴様、何者だ‼」

「どうやってここへ······まさか、あの人間とドワーフの仲間か!!」


 何人ものエルフが、侵入者である男を取り囲む。

 男は、タンクトップに迷彩柄のズボン、鉄板入りブーツを履いた、プロレスラーのような男だった。

 スキンヘッドで眉もなく、その眼光はギラギラとしている。

 

「·········」


 男の名はライオット。オストローデ王国所属の戦闘用アンドロイドだ。

 開発コードネームは『Type-LUKEルーク』。

 重要拠点防衛・迎撃兵器として造られたアンドロイドである。

 今や、知性を与えられ、オストローデ王国の命令に従う純粋な戦闘マシン。今のライオットに与えられた命令は。


「センセイ。何処。我。殺害」

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 最初に気付いたのは、アルシェだった。

 ブリュンヒルデ、ジークルーネと一緒に、スタリオンとスプマドールにエサをあげている時だ。


「······っ‼」

「どうしたんですか、アルシェさん?」


 アルシェは、森の一点をバッと見つめた。質問をしたジークルーネも気が付き、ブリュンヒルデも気が付いた。

 アルシェの索敵能力は、アンドロイドである二人を上回る。ジークルーネは素直に関心した。


「誰かいる。人数は······1人」

「え······1人、ですか?」

「うん、こっちに来る。迷子······ではなさそう」


 ジークルーネは、ルーシアの通信機に連絡を入れる。するとエンタープライズ号に乗っていた三人が下りてきた。

 ブリュンヒルデは、一点を見つめて動かなかった。

 そして、のんびりゆったりと、1人の女が現れる。


「いやはや、あの距離で気付かれるとは······大したモンやね」


 一瞬で理解した。この女は敵だと。

 十二単のような着物を纏い、端正な顔立ちをしているが目はキツネのように細い。そして何より、十二単の背後から、サソリのような尻尾が伸びていた。

 ルーシアは剣に手をかけ、クトネは杖を握り、三日月はネコ耳・尻尾・猫爪を出していた。

 キツネ目の女、セルケティヘトは薄く笑う。


「初めまして······ウチはセルケティヘト。オストローデ王国から来た刺客ですわ」


 ブリュンヒルデはエクスカリヴァーンを展開する。

 全員が武器を構え、アルシェも事情を察したのか『矢』を出した。

 だが、セルケティヘトは手を前に出して制する。


「まぁまぁ〜、野蛮人みたいな連中やなぁ。少しくらい話してもええんとちゃいます?」

「では質問に答えろ」


 ルーシアが、殺気を込めた目で睨む。

 彼女にはどうしても聞きたいことがあった。


「マジカライズ王国は······ナハティガル理事長はどうなった」

「もちろん、元気ですわ。今も変わらず国王として、国を率いてもろうてます。まぁ、オストローデ王国のために、ですが」

「そうか······」


 ゾワゾワと、ルーシアの『影』が形を変える。まるで、ルーシアの怒りに能力が呼応しているようだった。

 

「おぉ、怖い怖い。まさかチート能力者とは······さて、こちらも確認させてもらいます。センセイは······ユグドラシル王国で間違いないですかな?」

『答える義務はありません』

「ほぉ······ふふふふ、code04、そりゃ答えとるようなモンやで? まぁ想定内やけど」

『········』

「まさか······あなたの狙いは、せんせなの⁉」

「もちろんや。機械を修理する能力。放っておいたらウチらが不利やからなぁ。オストローデもようやく本腰上げて、センセイの始末に乗り出したんや」

「センセイ·········っ、まさか⁉」


 ジークルーネは、自分の周りにディスプレイを展開する。その行為を見たセルケティヘトはケラケラ笑った。


「あーっはっはっは‼ もう遅いでcode06、ユグドラシルにはライオットが向かった。いくら強力なチートがあろうと、人間であるセンセイがアンドロイドに適うワケあらへん‼」

「うそ······まずいよ‼ ユグドラシル王国でアンドロイドが暴れてる‼」


 ジークルーネの叫びに、全員が目を見開いた。

 ずっとここに、ユグドラシル王国の入口にいたのに、敵の侵入に全く気が付かなかった。

 ブリュンヒルデは、もう動き出した。


『あなたを破壊してセンセイを救出します』


 エクスカリヴァーンを構え、セルケティヘトに向けて飛びかかる。


「アホ。なぜウチがここに来たのか、考えればわかるやろ?」


 微動だにしないセルケティヘト。

 振り下ろされるエクスカリヴァーン。

 そして、爆音が響く。


『·········ッ!!』

「ほぉら、見たことか」


 ブリュンヒルデの振り下ろしたエクスカリヴァーンは、六角形の強靭な『盾』に弾かれ、セルケティヘトの背後から飛来した『何か』がボディに直撃。そのままジークルーネの近くまで吹き飛ばされた。


「お姉ちゃんっ‼」


 ジークルーネはブリュンヒルデを抱き起こす。

 損傷は軽微。何かが当たる直前で、エクスカリヴァーンを盾にしたようだ。

 

「ウチの役目は、戦乙女型と雑魚の相手」


 セルケティヘトの背後から、何かが来る。


「改めて名乗ります。ウチの名はセルケティヘト」


 ブリュンヒルデも、ジークルーネも声を失う。

 ルーシアたちは、愕然としていた。


「開発コードネームは······『Type-BISHOPビショップ』」


 それは、少女のような姿をしていた。

 人数は二人、1人は長い銀髪をポニーテールにし、巨大なバズーカ砲を抱えた少女。

 もう1人は、銀色のロングウェーブヘアで、巨大な六角形の盾を持った少女。


「あんたらの相手は、この戦乙女型や」

 

 それは、どう見ても戦乙女型アンドロイドだった。

 しかも2体。光を失った瞳でブリュンヒルデたちを見据える。

 ジークルーネは、無意識のうちに呟いた。


「オルトリンデ姉さん······ヴァルトラウテお姉さま」


 オストローデ王国所属アンドロイド、セルケティヘト。



 またの名を、ウィルス兵器=スティンガー・Type-BISHOPビショップ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る