第133話ブリュンヒルデたちの現在
「じゃ、やるよ」
「は、はい」
「シオン、がんば!!」
エンタープライズ号車内、ごま吉・ジュリエッタ・ネコたちの部屋。
室内には三日月、クトネ、アルシェの3人が寝そべっていた。
三日月の手には固有武器である『ススキノテ』が握られ、その穂先はごま吉とジュリエッタへ向けられている。
三日月は、ごま吉に向かって穂先をフリフリした。
『きゅう?』
「ごま吉、ほーれほーれ」
『もきゅう』
「ぺしぺーし」
『もきゅうー』
ごま吉は穂先がくすぐったいのか、うつぶせから仰向けになり、コロコロとカーペットを転がる。ジュリエッタは眠いのか、目を閉じてスヤスヤ眠っていた。
三日月は諦めず、ススキノテをフリフリする。
『きゅうきゅう、もきゅう』
「お、来ましたね!!」
ごま吉は仰向けのまま、ススキノテをヒレでペシペシ叩く。
まるで穂先にじゃれついてるようだ。そして。
「ごま吉、ごま吉、わたしの声がわかる?」
「ごま吉、アタシの声が聞こえたら返事して!!」
三日月とアルシェがごま吉のお腹をワシワシなでながら話しかけた。
すると、くすぐったいのか、ごま吉は。
『きゅうう~』
気持ちよさそうに鳴いた。
三日月たち3人は、同時にため息を吐く。
「やっぱりだめ。ネコにしか効かないよ」
「シオンさんの固有武器なら、ごま吉とおしゃべりできると思ったんですけどねー」
「ざーんねん。アタシも話してみたいなー。ねーごま吉」
『もきゅー』
アルシェは、仰向けのままのごま吉を抱き寄せた。
フカフカモチモチのごま吉は抱き心地がとてもいい。
アルシェは、すっかり馴染んでいた。
「はぁ~………アタシ、みんなと一緒に行こうかなぁ……なんて」
アルシェは、迷っていた。
チート能力持ちの忌み子としてユグドラシル王国から捨てられ、行く当てがないので森番として暮らしていた。
元王族のエルフであり、アシュマーの実の妹。
だが、生まれて50年ほどでチート能力に覚醒。国から追放され、こうして森番をして、狩りをしながら暮らす毎日。
このユグドラシル王国は、多種族の入国と侵入を許さない。
アルシェの戦闘能力だけは買っていたアシュマーが、アルシェを森から追い出さなかったのは、侵入者を排除してくれるからであった。
アルシェ自身、ユグドラシル王国に未練はない。
父も母も、この数百年でアルシェに興味を失ったいた。アルシェがこの森にいるのは、行く当てがないからである。
箱入りだったので、外の世界に対する知識が殆どない。ユグドラシル王国外のエルフはアルシェの出生を知っているため、近付こうとしない。
こうして、同じチート能力を持ち、友人のように接してくれる人間は、アルシェにとって初めての経験であった。
さりげなく呟いた、自分を勧誘して欲しいという言葉。
この言葉を出すのに、それなりの勇気が必要だった。
「お、いいですね!! いやぁ、実はウチには中距離系の戦闘員がいなかったんですよー」
「確かに。わたし、ルーシア、ブリュンヒルデ、ゼドさんは前衛。クトネは魔術支援。せんせは…………前衛、いや後衛?」
「セージさんは万能型ですね。近中遠とバランスが取れてます。でも、アルシェさんみたいな中距離系は欲しいですね」
「そだね。ねぇアルシェ、アルシェは冒険………どうしたの?」
クトネと三日月が、当たり前のように受け入れてくれる。
それがアルシェには眩しく、同時に嬉しかった。
思わず、2人をジッと見つめてしまうほど。
「え、その……いい、の?」
「ええ。むしろ歓迎しますよー」
「うん。こっちからお願いしたい」
「あ……」
すると、飲み物を持ったルーシアが来た。
「あ、ルーシア。ちょうどよかった、あのね、アルシェを勧誘したの」
「落ち着けシオン、どうしたんだ?」
「あのね、うちのパーティにアルシェを入れたいの。いい?」
「……ふむ」
「あ、あの」
ルーシアは、アルシェを見て考える。
だが、すぐに笑顔で頷いた。
「願ってもないな。アルシェの矢による支援はとても頼りになる。仲間になってくれるなら心強い」
「ですよねー。いやー、あたしの魔術だけじゃサポートしづらい時がありますからね。しかもアルシェさんはチート能力持ち!! いやー、クラン戦乙女はとんでもないクランですね!!」
「うん。ユグドラシル王国を出たら、久しぶりに依頼を受けようね」
「そうだな。アルシェの実力も見てみたいし、冒険者登録もしなくては……」
アルシェは、すでに受け入れられていた。
三日月たちは、アルシェを加えたあとのチーム編成について話し合っている。
『もきゅう』
「ん……あはは、なんかうれしいや」
アルシェは、ごま吉をギュッと抱きしめた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ブリュンヒルデとジークルーネは、アルシェの家であるツリーハウスの真下で、スタリオンとスプマドールの世話をしていた。
馬の世話は大事な仕事。
2頭は重い居住車を牽引してもらうのだ。マッサージや蹄の手入れは毎日欠かさず行う仕事だ。
ジークルーネは、スプマドールのブラッシングをしながら、スタリオンのブラッシングをしてるブリュンヒルデに言った。
「センセイ、早く戻ってくるといいね」
『はい、そうですね』
無駄な会話はしない。する必要がない。
だが、ジークルーネはブリュンヒルデに話かける。
「お姉ちゃん、楽しいね」
『はい』
「えーと、スタリオンって可愛いよね」
『はい』
「ええと……あのね」
『はい』
「ああもう!! お姉ちゃんもなにか喋ってよー」
『何を話せばよろしいのですか?』
「それを考えるのがお姉ちゃんの仕事!! 思考はヴァルキリーハーツにとっていい刺激になるんだから、ちゃんと考えないとダメ!!」
『わかりました。では、馬の健康状態について話ましょう』
「うー、なんか違う………」
ジークルーネは肩を落とす。
でも、最近のブリュンヒルデは明るくなった。少なくとも、ヴァルキリーハーツに『人格』というプログラムが刻まれているのは確かだ。
ボディこそ『ブリュンヒルデ』だが、意志は本来のブリュンヒルデではない。予備のヴァルキリーハーツを搭載したので、誰でもない、新しいブリュンヒルデなのだ。
入れ物こそ『ブリュンヒルデ』だが、精神は一番幼い。
この場合、妹はどちらなのか?
「うーん………難しいね」
『何がでしょう?』
「ううん、こっちの話。わたしのヴァルキリーハーツにもいい影響かも。思考っていいね」
『理解不能です』
「うふふ、まぁいっか」
ジークルーネは、ブラッシングを再開した。
首を傾げるブリュンヒルデを眺めながら、スプマドールの筋肉をほぐしていく。
よく晴れた日差しが、2体と2頭を優しく包み込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「………………みぃーつけた♪」
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