第131話あり得ない光景

 誰かこの状況を説明してくれ。

 なぜ俺は一人なんだ? ゼドさんと一緒にエルフの王であるオリジンに謁見してたのに、なぜか一人で精霊王オリジンの本体が安置されている場所に向かっている。

 半円形のドームからさらに先に進むと、再び分厚そうな扉が現れた。 

 エルフ王族ですら入ることができない扉。

 なんで俺みたいな一般人が中に入れるんだろう。それに、精霊王オリジンが見せてくれたこの鉄球は何なんだよ? 

 

「······この中か」  


 振り返っても誰もいない。

 通路手前まではアシュマーさんも着いて来たが、そこから先は俺一人だった。

 ヤバいな、なんか帰りたくなってきた。

 でもここで帰ることは出来ない。行くしかないな。


「し、失礼しまーす······」


 俺はゆっくりと扉を開いた。

 精霊王オリジンの本体。あの半透明が生霊みたいな物なら、本体はちゃんとしたエルフなのだろうか。姿は若い女性エルフだけど、本体はスゴいお婆ちゃんだとか。

 まさか、いきなり生気を吸われたりとか······わからん。

 扉の先はまた通路で、さらに扉が見える。

 扉を開け、通路を進み、扉を開け、通路を進む。

 いくつかの通路と扉を開けて進み、ようやく終わりが見えてきた。


「あれが最後の扉かな······」


 多分、あれが最後の扉だ。なぜなら、扉の装飾が今までと違う、かなり豪華な装飾だ。

 念の為、用心して行こう。

 腰にあるビームフェイズガンの具合を確かめ、扉をノックした。


「失礼します!」


 扉をゆっくりと押し開ける。

 さて、精霊王オリジンの本体とご対面だ······え?


「·········な、なんだ、これ」


 精霊王オリジン。

 エルフの始祖。始まりのエルフ。

 そんなエルフの本体とやらが眠る、大樹ユグドラシルで最も重要な部屋。




 部屋の中は、一面が機械で埋め尽くされていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「············」


 思考がフリーズしていた。

 だって、いかにも自然を愛してますみたいな種族のエルフだぞ? まさかユグドラシル王国で最も重要な部屋が機械で埋め尽くされていたなんておかしい。俺は夢を見てるのか?

 すると、俺の目の前で空中投影ディスプレイが展開した。


《来たか。ふふふ、驚いているようじゃな》

「いや、その、これ······どういう」


 何を話せばいいのかわからない。

 というか、声が出てこない。


《奥へ来い。そこで話そうか》

「は、はい」


 言われるがまま奥へ。ディスプレイも着いて来た。

 よくわからないコードがいくつも伸び、大きなサーバーに接続されている。サーバーからは冷却するためのファンみたいな音も聞こえてきた。

 壁にはいくつものモニターがあり、よくわからないデータが表示されている。マジでどういうことなんだ。

 そして、部屋の一番奥にあった物。


「な、これ······」

《そう、これがわらわの本体じゃ》


 それは、漫画やアニメで見るような、生体ポッド。

 ポッドの中は緑の薬液で満たされ、中には美しい裸の女性が眠っていた。

 ポッドからは無数のコードが伸び、身体の至るところにパッチが貼られている。

 マジでどういうことだよ。もうパンク寸前だ。

 ディスプレイは俺の正面に移動し、話しかける。


《この部屋の全ての機械はわらわの命を支える物。つまりわらわの臓腑のような物じゃな。ドワーフに修理を依頼した物は、わらわの代理心臓の一つじゃ》

「代理心臓? じゃあこれ、機械なんですか?」

《そうじゃ。その代理心臓のストックが残り一つしかなくてな······このままだと、わらわの生命維持装置が停止してしまう。だからやむを得ず、今の時代で最も優れた技術を持つドワーフに依頼したのじゃよ》

「·········なるほど」


 そう言うことなら簡単だ。

 俺はレベル3リペアを使い、預かった代理心臓とやらを修理してみた。


「と、こんな感じでどうです?」

《なに?······な、これはまさか、摩耗したパーツが新品になっておる⁉》

「俺の能力です。他に直せるところがあったら教えて下さい」

《·········なんと、まさか。よ、よし、頼む》


 よし、話の前にいろいろ直してやるか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 さて、久しぶりに『|修理(リペア)』の出番だ。

 俺の周りをフヨフヨ飛ぶディスプレイに聞く。


「さて、どこを直そうか?」

《おお、では摩耗した代理心臓を全て直してほしい。全部で20個ほどあるが問題ないかの?》

「20個か·····たぶん大丈夫」

《ふふふ。ではこっちじゃ》


 ディスプレイに付いて部屋の隅へ。そこにはケースに収められた鉄球が20個あった。

 レベル3リペアはあと2回しか使えない。だが、鉄球同士を全て触れ合わせれば、一回で20個の鉄球を修理できる。

 俺は鉄球をケースから出す。


《何をするつもりじゃ?》

「ん、さっきの修理はあと2回しか使えないから、鉄球を全て触れ合わせて、一つの機械として修理するんだ。そうすれば一回で済む」


 鉄球を並べ重ねてタワーを作る。

 まるでピラミッドだ。昔、こういう遊びしたよなー。

 おっと、これは精霊王の心臓なんだ。あんまり遊んじゃダメダメ。

 鉄球を全て積み、レベル3リペアを発動させる。


「······よーし、これで直った」

《おぉぉぉっ!! まさか、使い切った代理心臓が蘇るとは!!》

「ははは。さーて次は?」

《では、生体ユニットの電波ケーブルを修理してくれ。どうも最近調子悪ぅてのう》

「了解」


 いつの間にかタメ語だが、何も言われなかった。

 俺は本体が浸かっている生体ユニットへ。

 今更だが、中には全裸の女性がいる。胸も大事なトコも全部丸見えだよ。眼福眼福。


《やれやれ。乙女の柔肌を凝視するでない》

「うぐっ······ご、ごめん」

《ふふ。では頼むぞ》


 詫びも込めて、全身全霊で修理する。

 俺はポッドに触れ、残り一回のリペアに全てを込めた。

 特に光ったりするような演出はなかったが、生体ユニットはケーブルで各機械と繋がっているため、部屋にある機械全てにリペアが作用した。

 おかげで、俺のレベルが上がった。


********************

【名前】 相沢誠二 

【職業】 教師(ティーチャー)

【冒険者等級】 E級

【所属クラン】『戦乙女(ヴァルキュリア)』 G級

【チート】 

『修理(リペア)』 レベル5

 ○壊れた物を修理することが可能

 ○欠けたパーツの修復が可能

 ○失ったパーツを再生させる(回数5)


『錆取(ルストクリーン)』 レベル3

 ○錆びを取り除く

 ○触れた金属を腐食させる(回数4)


『接続(アクセス)』 レベル2

 ○電子回路に接続、命令可能(回数3)

 ○プログラム書換(回数1)


『除去(イレイザー)』 レベル1

 ○ウィルス除去(回数3)


《近接戦闘型・戦乙女アンドロイドcode04『ブリュンヒルデ』》

《後方支援型・戦乙女アンドロイドcode06『ジークルーネ』》

*******************


 ついに手に入れたウィルス除去。

 これがあれば、転送装置で変な場所に飛ばされずに済む。やれやれ、ここまで長かった······ずいぶんと遠くまで来たもんだ。

 そして、『接続(アクセス)』の新項目プログラム書換。命令はできたが、プログラムそのものを書き換えることはできない。つまり、機械そのものの行動原理を変えることができるようだ。

 とにかく、いろいろ試せそうだ。

 すると、ディスプレイが俺の周りをグルグル飛ぶ。


《すごい、すごいぞ! まるで全ての設備が新品になったかのような······まさか、こんな能力を持つ人間がいたとはな!》

「いやいや、そりゃどうも」

《その腕に付けている通信バンドや、腰に携帯しておるフェイズガンを見て、おぬしが機械工学に詳しい人間と踏んだが、大当たりだったようじゃの。ふふふ、礼は期待しておけ》

「どうも。それより、聞きたいことが山ほどあるんですけど」

《構わん。なんでも答えてやるぞ!》


 さーて、お待ちかねの質問タイムだ!

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