第130話精霊王オリジン
エルフ族の城は、お寺みたいな形だった。
城門が開き、長い通路が現れる。なんというか風格のある通路だ。
ここからは、アシュマーさん・ゼドさん・俺の3人で進む。
「ほぉ……大したモンだな」
「ええ、なんというか落ち着きます」
日本人だから、こういう神社みたいな建物は落ち着く。
神や仏様を信仰してるわけじゃないが、この木の香りは懐かしい。
そして、最奥へ到着した。
「ここへ入れるのは王族のみ。何度も言いますが、あなた方は特例です。どうか失礼のないように」
「おう」
「は、はは、はいぃ」
ヤバい、声が裏返った。
こういうところが俺の小市民的なところだ。でもしょうがない、だってこれから会うのはエルフの王だぞ。どう考えても俺が会えるような立場じゃない。
最奥の大きな扉が、静かに開かれる。
「セージ、油断するな」
ゼドさんは、ポツリと呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
扉の奥は、半円形の空間になっていた。
木製のドームと言えばいいのか、扉から左右は開かれ、外の景色が丸見えだ。
そして、部屋の中央には10人ほどのエルフが集まっていた。王族のみしか入れない部屋にいるエルフってことは、この人たちは王族なんだろうな。全員、チャラチャラした装飾品や服を身につけた美男美女だ。エルフはマジでイケメン美女揃い。
それにしても、部屋に違和感がある。
ゼドさんも感じたのか、アシュマーさんに質問した。
「………ここは精霊王オリジンに謁見する場所だよな?」
「ええ、その通りです」
「玉座はねぇのか?」
そう、玉座がない。
椅子どころか、部屋の中には人工物が全くない。自然のまま、あるがままと言えばいいのだろうか。
すると、アシュマーさんは微笑んだ。
「玉座など必要ありません。すぐにわかりますよ」
「……?」
俺は首を傾げる。
そして、アシュマーさんは王族が集まる場所へ向かい、俺とゼドさんは王族エルフたちと向かい合うような位置に立った。
そして、アシュマーさんたち王族エルフは、一斉に頭を垂れた。
「精霊王オリジンよ、我らの祈りに応えたまえ!」
「「「「「精霊王オリジンよ、いまここに!!」」」」」
またもやエルフの大合唱かよ……と、あれ?
「ぜ、ゼドさん…………あ、あれ、なんですか?」
「知らん。黙って見てろ」
部屋の中央、天井付近……なんか、揺らめいてる。
なんだろう、薄いビニールシートみたいな透明な……。
《よくぞ参られた、始祖の系譜エルダードワーフよ》
「え、えぇぇぇぇぇッ!? ゆゆ、幽霊ぇぇぇぇぇっ!?」
俺は思わず全力で叫んだ。
だって、目の前にいるのは、どう見ても幽霊だ。
半透明の身体は凝った装飾のローブを着て、顔立ちは超絶美女。この半透明の幽霊が精霊王オリジンらしい。まさかエルフの王が実体のない幽霊だとは思わなかった。
というか、話を遮ったおかげでアシュマーさんたちにメッチャ睨まれてる。
俺は頭を下げた。
《幽霊か、ははは。わらわの本体はちゃんとある。このような姿でいるのにはわけがあるのじゃよ》
「もも、申し訳ありません!」
意外にもフレンドリーだった。
《わらわは精霊王オリジン。全てのエルフの祖、始まりのエルフじゃ。エルダードワーフのゼド、そして人間よ、歓迎しよう》
「ありがとうございます」
「あ、ああ、ありがとうございましゅ」
やばい、また噛んでしまった。
精霊王オリジンは半透明のままプカプカ浮き、柔らかい微笑みを浮かべている。
《ゼドよ。そちの贈り物は素晴らしかった。感謝するぞ》
「勿体ないお言葉。ありがとうございます」
《うむ。あの弓はエルフ最強の戦士ファウドに進呈しよう。アシュマー、ゼドに対価を支払うのじゃ》
「はい、精霊王」
アシュマーさんは、お盆に金色の丸い玉を載せてゼドさんに渡す。
それを受け取ったゼドさんは、目を見開いて驚いていた。
「こいつは……まさか、ユグドラシルの果実!?」
《知っておるか。その通り、それはこのユグドラシルに実った果実じゃ。そなたに進呈しよう》
「ま、まさか……生きて見れるとは!!」
「へぇ、美味しそうですね」
「バカタレ!! これは2000年に一度実ると言われているユグドラシルの果実だ!! 食べれば寿命が1000年延び、絞れば万病に効く薬となり、ユグドラシルの果実で作った酒は至高の一品と呼ばれる幻の酒になる!! まさかこんな……」
「す、すみません」
ゼドさん、こんなに怒鳴るの初めてだ。
まさかこの果実がそんなにすごいとは。売ればいくらするんだろうか。
そして、精霊王オリジンの視線は俺へ。
《そなたは、ゼドの従者か》
「え、あ、はぁ……まぁそんなところです」
《ほう、人間にしては不思議な……ん?》
「……あれ?」
精霊王オリジンの身体が、少しブレた……あれ?
なんだろう、この違和感。
《……さっそくだが、依頼の話をしよう。まず、ディザード王国最高の技師であるゼドに、直して欲しい物がある》
「はい、できることなら」
《うむ……アシュマーよ、アレを持て》
「は。畏まりました」
アシュマーさんが持って来たのは、金属の球体だった。
切れ込みのようなラインがいくつか走り、大きさは砲丸の玉くらいある。
機械というか、装飾品みたいな感じがする。
《これは、ユグドラシル王国の遺跡から発見された遺物。我が国の技術者が調べても全くわからなかった。これを調べてほしい》
「………ふむ」
ゼドさんは、金属の球体を手に取り調べる。
そして、俺を見て言う。
「セージ、どう思う?」
「うーん、見た目はただの鉄球ですけど……なんというか、今までとは毛色が違いますね」
「確かに。少し調べないとな……」
《ゼドよ、可能だろうか》
「調べてみねぇとわからんな。少し時間をもらうぞ」
《いや、この場で見解をもらう。可能か否か》
「おいおい、触って1分も経ってねぇんだ。すぐにわかるかよ」
ゼドさんの喋りが、いつもの砕けた感じになった。
職人としてのゼドさんは、目上だろうとこういう喋り方をする。
「あの、これを借りることってできますか?」
《……ならん。それはここから持ち出せない、ここで調べるのじゃ》
「どうするつもりだ?」
「いや、ジークルーネにスキャンしてもらおうかと。でも持ち出せないんじゃなぁ……聞くだけ聞いてみるか。あの、ちょっと電話していいですか?」
《でんわ?》
「ええ。ちょっとだけ」
俺は右手の操作バンドを起動し、ジークルーネに繋ごうとした。
すると、精霊王オリジンが叫んだ。
《待て!! 人間、お前……それは一体!?》
「え……?」
操作バンドを見た精霊王オリジンが、本気で驚いていた。
機械をしってるのかな。そう言えばこの人、何千年も生きるエルフの始祖なんだよな。もしかしたら何か知ってるかも。
《……まさか人間、お前は……そうか、そういうことか》
「あ、あの?」
《なるほどな……人間、名を名乗れ》
「え、あの……セージ、です」
《セージか………くくく、面白い。これも宿命か。アシュマーよ》
「は、ははっ!!」
《セージを、『精霊王神体の間』へ案内せよ》
「………なっ」
アシュマーさんだけじゃなく、王族エルフたちは驚愕していた。
というか……毎回のことながら、俺って影薄いよな。
アシュマーさんは、本気で驚いていた。
「ば、バカな!! 精霊王オリジンの本体が安置されている神体の間へ人間を入れるおつもりですか!? 我々エルフ王族ですら入室したことがない、ユグドラシル王国で最も神聖な場所に、昨夜入国したばかりの人間を!?」
わかりやすい説明ありがとうございます。
つまり、この国にとって最もヤバい場所に連れて行かれそうってことか。
いやいや、なによそれ。
《構わん。わらわの考えが正しければ、此奴は問題ない》
「で、ですが……」
《アシュマー、何度も言わせるな》
「く………わかり、ました」
《ゼドよ、鉄球をセージに》
「……おう」
ゼドさんから鉄球を受け取る。
待て待て、なんだよこれ。いきなりすぎてワケ分からんぞ。
「……奥の扉を開け、通路を進んだ先にある扉を開けて進め。そこが神体の間だ」
アシュマーさんは、ぶっきらぼうに言う。
なにこれ、マジで行くのか?
入ってきた扉の向かいにある扉をアシュマーさんが開けた。どうやら行くのは俺だけらしい。
「セージ、行ってこい」
「え、マジなんですよね……」
「どうやら、精霊王オリジンの目当てはワシからオメーに変わったようじゃな」
「ははは……来てよかった。わーい」
「声が死んどるぞ」
こうして、俺は精霊王オリジンの本体が安置されてる部屋へ向かった。
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