第129話謁見前夜
弱い酒でも、いっぱい飲めば酔う。
ゼドさんは平気そうだったが、俺はだいぶ酔ってしまった。気が付くと部屋は暗く、ゼドさんの部屋のソファで眠ってしまった。しかも毛布が掛けてある……ゼドさん、優しい。
当のゼドさんは、ベッドでイビキを掻いて寝ていた。
寝てるゼドさんに頭を下げ、音を立てないように部屋を出て自室へ。
「あ、戻って来たのか」
ベッドの上には、俺の服が畳んで置いてあった。
どうやら洗濯が終わったらしい。
俺はシャワーを浴びる。ちなみにシャワーの水は大樹ユグドラシルが吸い上げた水らしい。どうやって水を引いてるのかは知らんけどね。
シャワーを浴びてさっぱりしたが、眠気も引いてしまった。
「えーと……今は夜の9時くらいか。ルーシアたちはもう寝たかな」
そういえば、ホルアクティの操作バンドに通信機能があった。
空中投影ディスプレイを呼び出すと、電話マークが追加されている。
電話マークをタッチすると、通信可能な相手の一覧が表示される。
「えーと、ブリュンヒルデとジークルーネ、あとルーシアか」
アンドロイド2人は当然として、ルーシアは通信機を持ってる。ディザード王国で渡したのがあったな。
クトネたちは寝てるかも知れないが、ブリュンヒルデとジークルーネは起きてるだろう。
「……よし。ちょっと連絡してみるか」
そうだな……ルーシアは寝てるかもしれないし、ブリュンヒルデは……うーん、ここはジークルーネで。
ジークルーネの項目をタッチすると、すぐに繋がった。
『こんばんわセンセイ、どうかしましたか?』
ディスプレイには、ジークルーネの姿が映った。
背景が暗いので外にいるのかもしれない。
「いや、そっちの様子が気になってな。何か変わったことは? みんなはもう寝たか?」
『変わったことは特にないですね。みなさんならもう寝ちゃいました。わたしとお姉ちゃんは外でメンテナンス作業をしてます』
「あ、そうか。邪魔して悪かった。通信機能を使うの初めてだし、様子見がてら試してみたんだが……感度良好、よく聞こえます! なーんてな」
『あはは。わたしも、センセイの顔と声がよく見えて聞こえます。こちらは心配ないので、センセイも頑張ってくださいね』
「ああ、ありがとう。そっちも気を付けろよ」
『はい、センセイ』
「ブリュンヒルデにもよろしく伝えておいてくれ。じゃあおやすみ」
通信を切る。
どうやら、あっちは平和に過ごしているようだな。
「さて、寝るか……」
俺はベッドに潜り込み、目を閉じる。
酒が入っているおかげか、すぐに睡魔がやって来た。
明日は、精霊王オリジンとの謁見だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
着替えをしてゼドさんの部屋へ行くと、ゼドさんも起きて着替えを済ませていた。
運ばれてきたエルフ料理を食べ(やっぱり昆虫料理。俺は食べられるのだけ食べた)、宿を出ると、アシュマーさんと数名の護衛が待っていた。
「おはようございます。ではこれより精霊王オリジンの元へ案内します。失礼のないように」
いきなりだな……朝っぱらから真面目すぎる。
とはいえ、ここに来た理由はオリジンの依頼だ。さっさと終わらせてしまいたい。
なので、軽く会釈してアシュマーさんたちと歩き出した。
現在の位置は中層。これから上層、そして最上層へと移動する。
中層のエレベーターに乗り上層へ。
「ゼド様。オリジン様はドワーフの技師としての貴方様に期待しておられます」
「そうらしいな。なぁアシュマーよ、オリジン王はワシに何をさせるつもりなんじゃ?」
「それはわかりません。ですが、オリジン様の願いは『ドワーフの技師をここに連れて来るように』とのことです。我々はその命令を実行するだけでございます」
「ふん……まぁいい。だが、ワシにもできねぇことはある。それだけは理解しておけ」
「はい。ですが、それもオリジン様が判断すること」
「……ったく、精霊王オリジンってのはどれだけ偉いんだよ」
まるでアンドロイドみたいに忠実だ。
まさか、エルフはアンドロイドだった……なんて言わないよな。
「間もなく最上層です。この階層はエルフの王族のみ立ち入りを許可されています」
最上層へ到着すると、護衛はエレベーターから降りず、アシュマーさんだけ降りた。
エレベーターを降りてすぐのドアを開けると……そこは。
「な……なんじゃこりゃ!?」
「ほぉ、なるほどな」
驚く俺、納得するゼドさん。
エレベーターホールから出ると、そこは『枝』の上だった。
そして、枝の先にはデカい城が建っている。まるで鳥小屋のような、でも形は城だ。
枝と言っても、横幅の広さはハンパない。まるで高層ビルを横倒しにしたような長さと太さの枝だ。
周囲は青空、見上げると緑の葉っぱが太陽の光を遮ってる。マジでここはユグドラシルの枝の上だ。
枝もさることながら葉っぱもデカい。1枚1枚が小型船のように大きい。ホントに規格外の樹木だよ。
「この先が『精霊城』です。エルフ王族の住居であり、精霊王オリジンの間に続く道」
すると、前から完全武装したエルフがやって来た。
いまさらだが、エルフはみんなイケメン美女揃いだ。ここまでテンプレもないだろうよ。
そして、完全武装エルフは右手を胸に当てる。
「精霊王と共に!!」
「「「「「精霊王と共に!!」」」」」
「うおっ」
やべ、声が出ちまった。
だっていきなりだし……って、誰も俺のことを見ていない。
本当に、ここに来てから相手にされてない気がする。
「では、これより精霊王オリジンに謁見します」
完全武装エルフが左右に分かれ、俺とゼドさんのガードを固める。
アシュマーさんが先頭で、その後ろが俺とゼドさん、左右と後ろを完全武装エルフが歩くというスタイルだ。やっぱりこれ護送だろ。
でも、緊張してきた。
城の前まで歩くと、初めてアシュマーさんに話しかけられた。
「武器はこちらで預かります」
「あ、はい」
俺はキルストレガ、籠手、レーザーナイフを預ける。
ビームフェイズガンはガンベルトに入れたままにしてみたら、案の定なにも言われなかった。いざという時の用心として銃だけでも携帯しておきたい。銃の存在がない世界だから、これが武器だとわからないのは当然だ。ちなみにゼドさんも背負っていた大斧を預けた。
そして、城門が開く。
「セージ、気合い入れろよ」
「はい……」
ついに、精霊王オリジンとの謁見だ。
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