第128話ユグドラシル王国

 ユグドラシル王国。

 そういえば、北欧神話でユグドラシルって大樹があったな。

 

「………ゆ、ユグドラシル」 

「ほう、知ってんのか?」  

「いえ……なんとなく、そんな気がしました」


 そう、結界を越えた先にあったのは、とんでもなく巨大な大樹だった。

 いや、大樹なんてモンじゃない。スカイツリーよりも巨大で、日本にあったら世界遺産間違いなしの超大樹だ。大きさを測るのも馬鹿らしい。樹齢一億年と言われても信じてしまいそうだ。

 地を這う根だってアホ太い。根の1本で村を2~3個飲み込んじまいそうなくらい……ああもう、とにかくハンパねぇ。

 すると、アシュマーさんが言う。


「あれこそ我々エルフ族の象徴であり聖樹。偉大なる精霊王オリジンが植えたとされる『神聖大樹ユグドラシル』です。聖樹そのものが我らの国であり、エルフの象徴」

「す、すんげぇ……スマホあれば写真撮りまくってるぞ」

「確かにな。技術じゃマネできねぇ、年月が成せる至高の技だ」


 俺とゼドさんの感動っぷりが嬉しいのか、アシュマーさんは饒舌だ。


「ユグドラシル王国は、大樹の内側をくりぬいて出来た王国です。住人はもちろんエルフ。それ以外に狩猟、農業も盛んで、この国でしか採れない薬草は人間世界では貴重品と言われてますね」

「へぇ……知らなかった」

「ワシもだ。この国に入るドワーフはワシが初だから知らないのもムリはないだろうがのう」


 アシュマーさんの説明を聞きながら、ユグドラシルの根元まで来た。

 根は穴が開けられ、ドアのような物が取り付けられている。

 ドアの前にはエルフの門番がちゃんと立っていた。

 アシュマーさんが門番に話すと、門が開く。


「まずは、宿を手配しましたので、身を清めていただきたい」

「………ワシらが汚ねぇとでも言うのか?」

「そうではありません。精霊王オリジンに会う最低限の礼儀です。もちろん、我々も同様に身を清めます」

「……チ。仕方ねぇ、案内しな」

「はい。ではどうぞ」


 こうして、俺とゼドさんは、ユグドラシルへ入国した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 木の根ストリートと呼べばいいのか、根の中は飲食店街になっており、食事はもちろん宿もあるようだ。

 住人は当然エルフ。つまり、俺とゼドさんはめっちゃ注目されていた。


「チ、生ぬるい視線を感じやがる」

「で、ですね······俺もちょっとこの視線は」


 アシュマーさん率いる護衛集団に囲まれてる俺とゼドさん。なんか連行されてるようにも見える。

 そして、ストリートを抜けると広い空間へ出た。


「ここから幹へ向かいます」


 幹って、幹だよね?

 ここは根っこ、そして上層部の幹へ向かう。

 うーん、マジで樹木の中を進んでるんだなぁ。ファンタジーすぎる。

 ここはゴンドラ乗り場らしく、木を削ったゴンドラと、ユグドラシルの木から取れた蔦をロープ代わりにした、エレベーターに乗りこんだ。そして、魔術を使ってゴンドラを動かし、上層部とやらに到着する。

 

「それでは、簡単にご説明しましょう」


 アシュマーさんが、このユグドラシルについて説明する。

 この大樹ユグドラシルは、ユグドラシル王国そのものであり、木の内部を削った空間が王国なのだそうだ。

 住人は全員がエルフで、ユグドラシル王国に住むエルフは数十万人。上層部に行くほど位の高いエルフが住み、最上層にはエルフ王族が住んでいる。

 最上層のさらに上の『精霊王の間』に、エルフ王にして始まりのエルフと呼ばれる『|精霊王(アニマスピリッツ)オリジン』がいる。

 今回、俺とゼドさんが向かうのは、最上層のさらに上である精霊王の間だ。


「我々王族ですら気安く精霊王の間には行けません。精霊王オリジンはエルフ族にとって至高の存在であり神に匹敵する存在」

「は、はぁ······」


 な、なんかアシュマーさんが熱い。

 両手を組んで祈るような姿で、瞳を潤ませている。

 そして、上層部にある一軒の家の前に俺たちを案内した。


「本日はこちらでお寛ぎ下さい。部屋に着替えを用意してありますのでそちらに着替え、現在着ている服は宿へお預け下さい。明日までに洗浄してお返しします」

「ケッ、まるでバイキン扱いじゃな。気に食わねぇ」

「まぁまぁゼドさん、仕方ないですよ」


 宿は、俺とゼドさんの貸し切りだった。

 案内された部屋には白いシャツとステテコみたいなのが置いてあり、それに着替えると宿の職員が服を持っていってしまった。まぁ洗ってくれるなら任せよう。

 ゼドさんの部屋へ向かう。するとゼドさんも同じ服に着替えていたが、上半身は裸だった。

 いつの間にかワインとツマミをテーブルに並べ、一杯やっていた。


「ったく、エルフの酒も不味くはねぇが、ちと薄い。おうセージ、オメーも付き合えよ」

「では、ご相伴に預からせてもらいます」


 ワイングラスを受け取ると、ゼドさんがルビーのような赤さのワインを注いでくれる。


「じゃ、乾杯」

「オウ」


 グラスを合わせ、軽く飲む。

 少し甘めのワインだ。ジュースに近いかもしれない。確かに、これじゃゼドさんは満足しないだろうな。

 おつまみはやっぱり昆虫だった。カナブンのカリカリ揚げ、芋虫の串焼き、幼虫の踊り食い······く、だめだ。ミミズの香草炒めは平気だったのに。これは平気じゃなくて兵器だわ。

 

「にしても、こうもバイキン扱いとはな。本来、このユグドラシル王国は他種族を受け入れねぇ。やはり、ワシとセージが初かもな」

「そりゃ光栄······なんでしょうかね」

「さぁな。それに、入口にいた娘を見ると、どうも闇が深そうだ」

「入口にいた娘って······アルシェですか?」

「ああ。ありゃ間違いなく特殊な出生······王族関係のエルフだ」

「ええっ⁉」

「考えてみろ。あの嬢ちゃんはエルフとしてはかなり若手だ、恐らく500〜600歳くらいだろう。そんな娘が一人で王国沿いの森で暮らしとるなんて、事情があるに決まっちょる。それに、あの娘······恐らく『能力持ち』だ」

「え? でも、『|可能性の指輪(アビリティリング)』はしてなかったような?」

「この森から出たことねぇんだろ。ありゃチート能力を視覚化する魔道具だ、無くても問題ねぇ」

「はぁ······」

「ワシの知る限り、エルフ族にチート能力が宿ったとは聞いたことねぇ。チート能力は人間だけが持つ異能だからな」


 確かに、あんな森に一人で住むのは不思議だ。すぐ近くにこんな国があるのに。

 エルフの闇は深そうだ。さっさとやることやって出たい。

 まぁ、こんな変わった王国を、みんなで観光してみたい気持ちはある。でも無理だろうな、エルフ以外の人間はいないみたいだし。


 とにかく、明日はエルフの王オリジンと謁見だ。

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