第119話エンタープライズ号の旅路②

 さて、ここで我々の新たな仲間『エンタープライズ号』の内装を説明する。

 まず、外観はスタイリッシュな銀色の金属箱で、羽のような飾りがついている。

 ドアは2つで、スライド式のサイドドアに、大きな物を入れられるバックドア。簡単に言うと、オシャレな銀色の軍用装甲車みたいなモンだな。 

 タイヤは左右合計8輪で、馬車で使われる木輪ではなく、強い弾力性のあるゴムタイヤだ。どうやらこれもゼドさんがガラクタの山で見つけた物らしく、空気の代わりにジェルのような物が入っているため、パンクは絶対にしない未来技術だそうだ。

 そして、御者席も横長に広くなり、背もたれや座布団を敷いてあるのでケツが痛くなることはない。しかも、ゼドさんがドリンクホルダーまで付けてくれたのでありがたい。

 スタリオンとスプマドールに牽引してもらったが、2頭とも特に問題なく引いている。


 お次は室内だ。

 まず1階。ここは教室ほどの広さを誇る、我々のリビングだ。

 家具もたくさん入れた。しかもドワーフの町で買ったのでどれもしっかりした高級品。

 大人数で座れるソファやテーブル。ネコたちのキャットタワーとごま吉の寝床のクッション。大きな本棚にはクトネが持参した本が入れてあり、これから買った本はここに入れるようだ。

 それとルーシアが希望して部屋の隅に設置したミニバー。ここにはゼドさんが持参した酒と、俺やルーシアが買ったワインなど、棚にたくさんの酒が置かれ、カウンターやオシャレな椅子も置いてある。

 かなり快適だが、万能空間というわけではない。

 まず、当然だが水道はない。風呂もトイレもない。いくら異空間で広くても水関係まではどうにもならない。なので、室内には水瓶がある。

 キッチンはあるけど火は起こせない。キッチンというか、まな板を置く台があるだけだ。ミニバー設置に伴いカウンターと一緒になった。なので、調理は外で行うのが基本スタイルだ。かまど用の石と着火用の薪も積んである。 

 1階は共有スペースなのでこんな感じだ。


 次は2階。

 2階があるというのも驚きだが、あるなら利用する。

 2階は1階よりも広く、多目的ホールとでも呼べばいいのか、何もない横長の空間が広がっていた。というか空間歪曲パネェ。

 そこで一人四畳ほどの空間を作り、仕切りを入れた。

 部屋の真ん中を通路にし、左右で合計12部屋できた。個室の完成にみんな喜び、さっそく自室を作った。

 ベッドは全ての部屋に入れ、一人用の机と椅子も入れた。まるで安いビジネスホテルみたいな感じ。

 クトネは、部屋に本棚を置き、1階の本棚には入れてない秘蔵の本を入れてカバーで隠していた。どんな本かは聞くまい。  

 ルーシアも、一人でチビチビ飲む用のワインセラーを入れた。まぁ一人で飲みたいときもあるだろう。  

 三日月は、ネコと一緒に寝るためのクッションをたくさん用意して、ベッドの上に置いていた。ホントに猫好きだよな。

 ゼドさんは、ディザードから持ってきた工具などを置き、やはり秘蔵のウイスキーなどを棚に入れていた。1階にもかなりの酒があるのに、どんだけ持ってきたんだこの人は。

 俺はというと特に何もない。ベッドがあるだけ。まぁ無趣味とかいうな、これから何が増えるかわからん。

 ブリュンヒルデとジークルーネにも部屋を与えたが、二人は眠らないので拒否された。ジークルーネだけはボディ調整とガラクタいじりの部屋として使うと言っていた。なんか発明家みたいだな。

 これで6部屋埋まった。あと6部屋か、パーティ増えたら使えばいいか。


 と、これが居住車の現状かな。乗り始めだしもっと変化するだろう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 旅も、順調に進んでいた。

 目指すのはディザード王国・エルフの王国・ラミアの王国の中心点である『国境都市アドド』だ。そこで準備をして、エルフの住む『大樹王国ユグドラシル』へ向かう。砂漠ともおさらばだぜ。

 エンタープライズ号のおかげで、クソ暑い砂漠でも快適に進む。室内は適温で気持ちいい。三日月も子猫モードでネコやごま吉と一緒に遊ぶ日々が続いた。

 そのぶん、頑張ってるスタリオンやスプマドール、交代で御者を務めてくれたブリュンヒルデとジークルーネにはとても感謝してる。嫌な顔一つせず御者をしてくれるからな。


 日中、車内で好きな時間を過ごしている。

 俺はごま吉やネコと戯れ、時間になると食事の支度をする。朝昼晩の食事は俺の担当だ。

 夕食は基本的に夕方で、完全に暗くなる前に準備をして食べる。食べ終わり片付けを終わらせてもまだ明るいので、完全に暗くなる前に訓練をするのが日課だ。

 ルーシアとの剣・弓術訓練、クトネとの魔術訓練、そして最近はビームフェイズガンの射撃訓練も行うようになった。

 手頃な岩を的にして、最小出力にしてひたすら撃ちまくる。映画みたいに片手打ちなんて無理、ちゃんと両手で構えないと的には当たらない。

 剣術は、多少マシになったと思う。

 少なくとも、素人レベルは脱したとルーシアが言った。もちろん、ルーシアに当てることはまだ出来ないが。

 弓術も、そこそこ使えるようになったと思う。

 

 そして、訓練が終わると風呂の時間だ。

 まぁ身体を拭くだけだ。三日月もルーシアと同じくお湯を出せたので、女性陣は外でシャワーを浴びるのが日課となった。三日月がお湯を器用に噴射し、シャワーのように降らせているからである。

 ま、俺は桶一杯のお湯で身体を拭くだけだけどね。

 あとは、個人の時間となり就寝する。


 翌朝、日が昇ると同時に全員起きる。

 顔を洗い、朝食の前に洗濯をする。三日月に頼んでタライにぬるま湯を貯めてもらい、自分の服は自分で洗うのがルールだ。

 実は以前、みんなの洗濯は俺がやっていたが、クトネのパンツを揉み洗いしてるのをクトネに見られ、杖で思い切り頭を殴られた。俺は気にしてないのに、どうも俺はデリカシーがないらしい。ルーシアの下着も洗濯したと言ったら、マジで殺されかけた。

 その日から、洗濯は自分でやることになった。つーか今まで俺が洗濯してたの気付いてなかったのかよ? 

 砂漠なので、日が昇ればすぐに洗濯物は乾く。

 

 そして朝食を食べ、出発の準備をする。

 ブリュンヒルデとジークルーネはスタリオンたちの健康診断をし、ゼドさんはエンタープライズ号のチェックをする。

 全ての準備が終わり、国境都市へ向けて出発する。


 これが、新しい俺達のライフスタイルだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ゼドさんは、すぐにみんなと馴染んだ。

 中でも、一番喜んだのは間違いなく俺だ。だって男のパーティメンバーだぜ? 今まで男1人で肩身が狭かったけど、こんなに頼りになる男が来てくれた。これから先、頼りにさせてもらいます。

 それから数日砂漠を走り、ようやく砂の地面に終わりが見えた。

 砂から土の地面に変わり、緑の木々や平原が俺たちを迎えてくれる。

 いまさらだが、ディザード領土の6割が砂漠らしい。砂漠を囲うように平地や森がある。

 俺たちの目的地はエルフの国。

 ファヌーア王から書状ももらってるし、国王命令でエルフの王国に向かっている。前金は白金貨10枚、依頼完了で白金貨30枚の大仕事だ。くふふ、かなり所持金が増えたぜ。まぁ、家具やいろいろ買ったお陰で、金貨500枚ほど吹っ飛んだが。


 砂漠から出て平地を進むこと数日。ついに国境都市アドドが見えて来た。

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