第七章・【戦乙女型アンドロイドcode02・03 オルトリンデ、ヴァルトラウテ】
第118話エンタープライズ号の旅路①
新たな仲間、ドワーフのゼドさん。
パーティ内のポジションは『整備士』に当たる。ごま吉の魔力で守護されているとはいえ、居住車は馬車とは違う。機械とまではいかないが、整備点検が必要な乗り物なのだ。
ディザード王国を出発して最初の野営。
エンタープライズ号車内にキッチンはないので、基本的に調理は外で行う。
砂漠にあったデカい岩陰にエンタープライズ号を停車させ、各々の仕事を行う。
「ワシは居住車の整備をする」
「はい、よろしくお願いします」
「おう」
足回りや各部点検は毎日行うらしい。
ゼドさんの手がけた居住車がたった1日でどうにかなるワケがないが、旅の足である居住車のメンテナンスは万全にしておきたい。なので、居住車関係の仕事は全てゼドさんにお任せした。
俺たちは別の仕事を行う。
「よし、ブリュンヒルデとジークルーネは馬の世話、クトネと三日月はネコとごま吉の世話、ルーシアはかまどの準備と火起こしを頼む」
『はい、センセイ』「はーい、センセイ」
「シオンさん、ごま吉はあたしに任せて下さい!」
「わかった。ごま吉をよろしく」
「火起こしなら任せろ。調理は手伝えないが……」
ちなみに、野営の時はこの割り当てで仕事をする。
俺の仕事は食材の仕込みだ。簡易テーブルを準備して、その上で食材のカットをする。
ゼドさんが加入して初日の野営だし、肉でも焼くか。
かまどを組み立て火を起こしたルーシアが言う。
「セージ、今日のメニューは?」
「ゼドさんが加入して最初の野営だし、ステーキを焼こう。ルーシア、ブランデーを出してくれるか? それと、クトネたちに焼き方を聞いてくれ」
「わかった。ちなみに私はレアで頼むぞ」
「はいはい」
ちなみに、ルーシア以外全員ウェルダンだった。
俺もレアはちょい苦手。よく焼いた方が美味しい、もちろん個人差はあるが。
ルーシアは赤ワインを準備し、ゼドさんは大量に持ち込んだウィスキーのボトルとグラスを準備する。
三日月とクトネもエサをやり終えて戻って来た。ネコは外が寒いのか出てこず、ごま吉だけが出て来た。三日月がしっかりと抱えてる。
俺は急いでステーキを焼き、肉汁に魚醤や酒を加えた簡単ソースを作った。
ジュワッと肉の香りとソースの香りが混ざり、とんでもなくいい香りがする。
「せ、セージさんセージさん、飯テロですよ!」
「すぐ食べれるから待ってろって……」
ブリュンヒルデとジークルーネも席に着いたので、みんなの皿にステーキを盛る。
ルーシアが赤ワインを注ぎ、ゼドさんのウィスキーのボトルを掴む。
「ゼド殿、どうぞ」
「おお、すまんな」
「あ、ちょっと待って」
ゼドさんのロックグラスにウィスキーを注ごうとしたルーシアを三日月が止める。
三日月はブツブツと小声で詠唱し、ゼドさんのグラスに丸い氷をコトンと落とした。
「うちのお父さん、そうやって飲んでた」
「ほぉ、こんな砂漠のど真ん中で氷たぁな。ありがとよ嬢ちゃん」
「嬢ちゃんじゃない。しおん」
「かっかっか! ありがとよシオン」
「ふふ、ではゼド殿、どうぞ」
「おお、ありがとよ嬢ちゃ……ルーシア」
うーん、なんかいいね。仲間って気がする。
クトネも腕を組んでウンウン頷いてるし、意味分かってるのかね?
ゼドさんのグラスに、上質な琥珀色の液体が注がれた。
「じゃ、ゼドさん、せっかくだし挨拶を」
「あぁ!? な、なんだそりゃ」
「いや、これから一緒に旅をするんだし、改めて自己紹介を」
「…………」
全員がゼドさんをジッと見つめ、大きくため息を吐いた。
「ドワーフのゼドだ、このパーティの乗る居住車の整備は任せろ……おいセージ、もういいだろ?」
「ぷっ……は、はい。肉も冷めちゃいますし、食べましょう」
照れて恥ずかしがるゼドさんは、なんか新鮮だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ステーキは絶品だった。さすが俺。
アルコール度数の高いゼドさん秘蔵のお酒のおかげで、寒い夜の砂漠も温かい。というか熱い。
食事も終わり、ここからは大人の時間。子供たちは室内へ。
クトネはごま吉を抱いて暖を取り、三日月は子猫モードになりキャットタワーで遊んでいた。
酔っていい気分だ。ゼドさんも饒舌だし。
「あの、ゼドさんの得意分野ってなんです? 建築? 鍛冶?」
「ふん、んなもん全部に決まっちょる。ファヌーアも言ってただろう、ドワーフ最高の職人だとよ」
「なるほど。ゼド殿、これからは私の剣を見てもらってもいいだろうか? 形状が特殊なので普通の武器屋に見せても、ろくな手入れが出来ないだろうしな」
「いいぜ。それにしても蛇腹剣とはな、ワシも見るのは200年くらい前だ」
「えっ·········ぜ、ゼドさんっていくつなんですか?」
「あん? あー······たぶん600ちょいくれぇだな。数えるの途中でやめちまった」
後から知ったことだが、ドワーフは1000年以上生きる種族らしい。エルフは万年、吸血鬼はほぼ不死、獣人は500年ほどだとか。そのぶん、人間ほど繁殖力が高くないらしく、長い生涯でも子供が生まれない場合もあるとか。
いろいろ話したが、ゼドさんはすごかった。
「聖王剣ブルトガング、知ってるか?」
この質問に真っ先に反応したのはルーシアだった。
ルーシアのテンションは酒のせいか高い。
「と、当然です! 魔界最強の騎士ディミトリが使用した最強の聖剣! 騎士を志す者は誰もが憧れる最強の騎士! 吸血鬼の王国出身でありながら、種族に囚われず全ての王国に貢献したと言われている伝説の騎士!」
「る、ルーシア落ち着けよ、テンションおかしいぞ」
「す、すまん······実はファンなのだ」
「かっかっか、そうかそうか」
ゼドさんは、ウイスキーのグラスをクイッと煽る。
「ディミトリの聖剣ブルトガングは、ワシが打ったんじゃ」
「ブーッ!?」
「ちょ!? ルーシア汚ぇっ!?」
ルーシアが赤ワインを俺に吹きかけた。
まさかお上品なルーシアがギャグ漫画みたいに粗相するとは思わなかった。
「え、え、え? ディ、ディミトリ様の聖剣を、ゼド殿が?」
「ああ。当時はまだガキだったディミトリがワシんとこ訪ねて来てなぁ、いろいろあって気に入っちまったんだよ。それであいつのために打った剣が聖剣ブルトガングってわけだ。まぁ······そのディミトリも、死んじまったようだけどな」
「······その、聖剣はどこに?」
「知らん。ディミトリの墓の中にでもあるんじゃねーか?」
ゼドさんは、とてもすごいドワーフだ。
俺はよく知らんが、この世界ではとんでもなく有名な騎士の剣を打った人らしい。このエンタープライズ号にしてもそうだし、腕っぷしも強い。
「せ、聖剣の製作者がゼド殿だとは······聖剣ブルトガングの製作者は一切不明で、ディミトリ様も製作者について頑なに喋ろうとしなかったそうです······」
「かっかっか、ワシとの約束じゃよ。ワシに有名になられると気兼ねなく遊びに来にくくなるから、剣の製作者については絶対に喋らんと、ディミトリが一方的に言ったんじゃ。実に生意気なガキだった」
「はぁぁ······そ、そんな秘話があったなんて」
「······おいルーシア、飲み過ぎじゃね?」
この日は、これでお開きとなった。
ゼドさんと聖剣のお話、実に面白かった。
まさか、あんな形で聖剣と再会するとは、この時は思わなかった。
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