第117話生徒たちの会話

「でさ、あのハイドラってやつマジで最悪なのよ、奇声は上げるわ、ミミズの体液まみれで帰って来るわ、あたしをバカにするわ……」


 山田志乃は、オストローデ王城にあるカフェで、ひたすら愚痴っていた。

 相手は、綾野はなと御影(みかげ)ネネ、そして羽山銀子の3人だ。

 4人はテーブルを囲み、食事をしていた。

 正確には、任務を終えた綾野と山田から話を聞こうと、御影と羽山がお茶に誘ったのだ。

 任務の話は数分で終わり、今はハイドラへの愚痴がメインになっている。

 さすがに飽きてきたのか、御影が話題を変えた。


「そーいえばさ、みんなレベルいくつよ?」


 それに答えたのは、目をキラキラさせた羽山。


「はいはい! わたしレベル93! もうすぐ限界レベルまでいきます!」

「はいはい、あんたはいいよ。『五本ノ指(ごほんのゆび)』なんて呼ばれてる、あたしたち30人の中で最強の5人の1人さん」

「あのね、その四天王ポジションみたいな名称で呼ばないでよ。騎士団の人が勝手にそう呼んでるだけだって。わたしは自分のレベルが上がって嬉しいだけだもん」

「まぁまぁ、ネネちゃんも銀子ちゃんも抑えて。志乃ちゃん、ケーキ食べる?」

「いやいいよ……はな、相変わらずオカンみたいね」


 山田は、自分の紅茶を飲みながら羽山に聞いた。


「そういえばさ、アレってどうなった、銀子」

「アレ?」

「そうそう、アシュクロフト先生が言ってたアレ、ええとなんだっけ……」


 羽山と御影が首を傾げ、綾野がクスクス笑った。

 そして、ニコニコしながら山田の代わりに答える。


「もう、【チート覚醒】でしょ? 志乃ちゃん」

「そう、それそれ! チート能力の究極型、中津川くんが覚醒したアレよアレ! あんたも使えるの?」

「ああ……いやいや、ムリムリ。あれはとんでもないわ。わたしがなれると思えないよ……」

「なんで?」


 キョトンとする御影に対し、羽山は椅子にもたれ掛かる。


「だってさ、覚醒するのって『死』を覚悟しないとダメなんだよ? 命が危機に瀕したとき、自分の中にあるチート能力が覚醒する……なんて、ウソかホントかわからないような事をするなんて、怖くてムリムリ。中津川くんが覚醒したのだって偶然だって言ってたし……覚醒の情報に根拠がないから、怖くてできないよ」


 テーブルの上にあったクッキーに手を伸ばし、羽山はポリポリかじる。

 この4人だけじゃない。生徒たち個人の強さはもうS級冒険者を凌駕してる者もいる。もし30人が一致団結すれば、この世界を征服するのも可能かも知れない。


 少女達は、和やかにお茶会を楽しんだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 山田たちのいるカフェとは別の場所。

 カフェというより酒場に近い食堂の一角に、4人の男が集まっていた。


「……ってなわけで、ドワーフパネェと思った」

「ドワーフねぇ……テンプレだよな、どんな姿だ?」

「なぁなぁ、ドワーフもいいけどエルフはいないのかよ!」

「オメーらうるせぇぞ!! ドワーフやエルフじゃなくて獣人だろうが!!」

「お、おちつけよ3人とも……」


 ドワーフを力説した葉山太一、ドワーフが気になった芝陽太(しばようた)、エルフ好きの大林蓮司(おおばやしれんじ)、そしてクラス最強の『五本ノ指(ごほんのゆび)』でありケモナーの熊澤真之介たちは、エールを飲みながら談笑していた。

 こちらも、任務から帰った葉山を捕まえて、話を聞くために食堂に連れ出したのである。


「で、葉山。そのハイドラとかいうのは?」

「さぁ? ディザード王国に残ったみたいだから、後は知らない」


 芝の質問に答えた葉山だが、まさかハイドラがディザード王国を襲い、セージ一行に討伐されたなど夢にも思わないだろう。

 葉山にいろいろ聞きながら、これからの話をする。

 話を切り出したのは、エルフ好きの大林蓮司だった。


「なぁ、レベルいくつよ? 熊澤」

「あん? あー……91だ。オメーは?」

「オレは78。芝は?」

「オレ、75だわ。さっすがだな熊澤、『蠅男(ザ・フライ)』はいくつよ?」

「………………79。次言ったらお前の部屋いっぱいに蠅送るからな」

「わ、悪かった悪かった、勘弁してくれ!」

「ちくしょう、オレだって……蠅じゃなくて三日月みたいなネコとか動物がよかったよ……」


 蠅使いである葉山は、影でザ・フライと呼ばれてることを気にしていた。もちろんバカにするような意味ではなく、蠅を使った情報収集能力の高さを買われてのことだ。クラスでも城内でも、葉山をバカにする者は1人もいない。

 空気がやや重くなったので、大林は話題を変える。


「ええと、みんなけっこうレベル上がったよな。この分だと、全員がレベル99まで上がるのも近いな。なぁ芝」

「お、おう。オレらがレベル上限まで行くのが今の目標だからな。中津川とかヤベぇよな、熊澤」

「そうだな。中津川のヤロォ……強さもだけどモテすぎなんだよ」


 その話題に、芝は苦笑する。


「あー……あいつ、部屋に篠原を連れ込んでんだろ? アルヴィートちゃんがみんなにバラして真っ赤になってたよな。なぁ葉山」

「……そうだね。でもみんなだって町に出かけてるんだろ? 大林だって昨日出かけたって言ってたじゃん」

「まぁな。娼館とかあるし……騎士団の人にオススメ聞いたからな」


 くだらない話で盛り上がる。

 これが、男子たちの日常会話だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 中津川将星の部屋。

 現在、篠原朱音の部屋でもある。

 アルヴィートがクラスのみんなの前で色々とぶっちゃけたので、篠原は逆に開き直っていた。クラス公認の同棲状態である。

 そんな同棲部屋に、最近はもう1人入り浸っていた。

 

「ねぇねぇアカネ、今日の晩ご飯どうしよっか?」

「そうね……昨日はお肉だったから、お魚にしましょうか」

「ねぇねぇショウセイ、ごはん食べたらまたオセロやろ!」

「い、いいよ」


 アルヴィートだった。

 中津川のベッドをぐちゃぐちゃにしながら、楽しそうに2人に話しかけてる。

 アルヴィートは、とにかく2人について回った。

 任務や訓練はもちろん、買い物や食事、挙げ句の果てには入浴も一緒だ。

 中津川が部屋でシャワーを浴びていたら、裸のアルヴィートが乱入してくることは珍しくない。そのたびに篠原が言い聞かせている。

 最初こそ困惑したが、アルヴィートは良い子だった。

 まるで、2人共通の妹みたいな。


「ショウセイ、また一緒に訓練しよ!」

「もちろん。アルヴィートも強くなったからね、オレも負けてられないな」

「えっへへ、わたし一度負けちゃったからね。ショウセイやみんなといっぱい訓練して、たくさんたくさん勉強しないと!」

「ふふ。アルヴィートは頑張り屋さんね」

「そうかな? アカネだっていっぱいお勉強してるよ!」

「そうかしら?」

「ん……」


 篠原はベッドサイドに座り、アルヴィートの頭をなでる。

 サラサラの銀髪は触り心地がとてもいい。アルヴィートもネコみたいに目を細め、篠原の太股に頭を乗せる。

 中津川も、全く似ていない姉妹のように2人を見ていた。

 

「あ、ねぇねぇアカネ、ショウセイ」

「なぁに?」

「どうした?」


 アルヴィートは、篠原の太股を枕にしながら言う。

 とても無邪気に、楽しそうに。


「今日はえっちするの? わたしいない方がいい?」


 中津川と篠原は、真っ赤になってアルヴィートを押さえた。

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