第120話国境都市アドド

 やってきました、国境都市アドド。

 この都市は、ドワーフの『ディザード領土』と、エルフの『ユグドラシル領土』と、ラミアの『ラミュロス領土』の中心にある国境都市で、それぞれの国に繋がっている。

 だが、町から行けるのはユグドラシル領土だけだ。その理由は、ゼドさんが教えてくれた。


「ラミュロス領土のラミア族は、他の国と一切の交流を持たねぇ閉鎖国家だ。このアドドにラミア族が来る事はねぇ」


 エンタープライズ号の1階リビングのソファで、御者を務めるジークルーネ以外のみんなに説明してくれた。ちなみにジークルーネは、町が見えたと同時にホルアクティを飛ばし、町の情報収集を行っている。


「セージ、ワシらの目的はユグドラシル王国の『|精霊王(アニマスピリッツ)オリジン』の依頼ということだが、イチ国王相手に手ぶらで行くワケにも行かねぇ……ドワーフらしい土産を用意してぇ、ちと行きてぇ場所がある」

「いいですけど、どこですか?」

「まずは冒険者ギルドへ向かえ。クラン専用居住車なら、無料で停車できる場所がある」

「そうなんですか? へぇ~……便利ですね」

「セージさんセージさん、お忘れかもしれないですけど、看板を掲げた冒険者クランの居住車は、そのままクランの事務所になるんですからねー? 直接依頼をしに依頼人が来ることだってあるんですから、冒険者ギルドで依頼書をもらっておかないと」

「そ、そうか……うん、そうだな」


 クトネにツッコまれて取り乱す俺。

 するとルーシアがクスクス笑った。


「ふふ、こんな事を言うのもアレだが、F級クランに直接依頼をするようなことはあまりない。だが、留守番は必要だろうな」

「あ、じゃああたしが留守番してますー。ディザード王国でもらった古文書を読みたいですし」

『私もスタリオンとスプマドールの蹄の手入れをします。センセイ、許可を』

「いいぞ。じゃあ留守番はクトネとブリュンヒルデ、あとジークルーネもだな」

『はい、センセイ』

「はいはーい。じゃあごま吉、一緒に読書しましょう!」

『もきゅ~♪』


 残りはゼドさんと一緒に、と思ったが三日月が言う。


「せんせ、わたしはこの町のネコにお願いして、オストローデ王国やエルフの王国の情報を集めるね」

「……三日月」

「せんせ、わたし……できることをしっかりやる」

「……ああ、頼む」

「なら、私も付き合おう。シオンの強さは知っているが、女の子1人で動くのは危ないからな。先に冒険者ギルドで用事を済ませるから、一緒に行こう」

「うん、ありがとうルーシア。お礼にいっぱいネコに触らせてあげる」

「う、うむ……」


 なんとも羨ましいお礼だ。

 というかルーシア、可愛い物好きだったのかね。


 というわけで、またもやパーティ別行動となった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ギルドの居住車専用スペースに停車させる。

 意外とクラン居住車は多いな。でも、デザインはウチが断然いい。

 クトネとブリュンヒルデとジークルーネに留守番を任せ、三日月とルーシアはギルドへ、俺とゼドさんは町を歩く。

 町は人間と獣人が多い。それとドワーフが少し。

 そして……長い耳にエメラルドグリーンの髪、整った容姿。もしかして。


「え、エルフですね……」

「そうだな。ここにゃあエルフの冒険者も来るだろうよ」

「おお……」


 人生初エルフ。

 うーん、やはりエルフだ。ラノベとかに出てくる容姿そのままだ。

 おっと、感動してる場合じゃない。


「あの、ゼドさん。どこに行くんですか?」

「知り合いの鍛冶屋だ。ドワーフ土産といったら武器防具じゃろう?」

「え、じゃあ武器防具を作るんですか?」

「おおよ。エルフは弓の達人だからな、いい弓を土産に持って行けば歓迎されるじゃろう」

「なるほど……って、ゼドさんが作るんですか?」

「当たり前だろうが」


 いやいや、伝説の聖剣を作ったゼドさんが武器を作るのかよ。国宝レベルの物ができあがってエルフたちは恐縮するんじゃないか?


「何を考えちょるか知らんが、お前の腰に下げてる剣に比べたら、ワシの剣なぞナマクラもいいとこだわい」

「え、これですか?」


 腰の剣とは、もちろんキルストレガだろう。


「魔力を吸収する剣なぞこの世に存在せん。それに吸収した魔力をぶっ放したり、ガラスや水よりも透き通った極薄の刃……ワシの作ったブルトガングがオモチャに見えるレベルじゃ。いいかセージ、ドワーフだけじゃなく武器屋や鍛治師にその剣を見せるなよ。最悪、奪われる可能性もあるぞ」

「え……そ、そんなにヤバいんですか、これ」

「当たり前じゃ。ワシだって欲しいからな」


 今まで深く考えてなかったけど、この剣ってかなりヤバい代物だよな。

 だが、『|夜笠(よがさ)』さんにもらった剣だから手放すつもりはない。

 しばらく町を歩くと、1軒の工房の前に来た。

 なかなか立派な煉瓦作りの建物で、古さはあるがキチンと手入れされた家だ。


「ここじゃな。行くぞ」

「は、はい」

 

 ゼドさんは、ノックもせずにドアを開ける。

 すると、ドアの向こうはすぐに作業場になっていて、1人のドワーフが火床に座り込んでいた。

 そして、振り返りもせずに言う。


「忙しい、帰んな」

「ほう、ワシに帰れとは、オメーもずいぶんと偉くなったじゃねぇか、マディガン」

「ああ?……って、ゼファールドじゃねぇか!?」


 ドワーフの男性は振り返りゼドさんを見ると、髭もじゃの顔を驚かせ、すぐに笑顔になった。


「んだよテメェ、100年ぶりじゃねぇか! ったく、久し振りじゃねぇか」

「おう、積もる話はあるが、まずは1杯付き合え」

「バカ野郎、1杯で足りるワケねぇ。オレの秘蔵の酒を出してやるよ」

「いいな、ワシも負けてられん」


 ゼドさんはカバンから高そうなウィスキーボトルを出し、マディガンとかいうドワーフも棚から高そうなウィスキーのボトルを取り出した。ドワーフってウィスキー好きなんだな。

 

「おいゼファールド、こっちの兄ちゃんは?」

「ああ、仲間のセージだ。わけあって一緒に旅してる」

「ほ! 偏屈のお前が仲間ねぇ……」

「やかましい。ツマミも用意してきた、さっさとグラスを出せ」

「ははは、こっちだ」


 マディガンさんは、俺たちを隣の部屋に案内した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 生活してる部屋なのか、ベッドにキッチンにテーブルがある部屋だ。

 チーズやナッツを皿に盛り、グラスにそれぞれウィスキーを注ぐ。俺のグラスにはゼドさんのウィスキーが注がれた。


「懐かしい再会に」

「再会に」

「さ、再開に」


 マディガンさんが掲げたグラスを合わせ、ウィスキーを口に含む。


「……っ!? ~~~~~っ!!」

「はっはっは、セージにゃキツかったか?」

「がはは、ゼファールドの仕込む酒は火が付くからなぁ」


 クッッッッソキツい酒だった。

 喉が焼けるように熱い。マジで化学薬品、工業用アルコールみたいな酒だ。

 出された水を一気飲みし、腹の中で水割りにする。


「っっっっぷはぁぁっ!! の、喉が焼けるぅぅ……ッ!!」

「がははははっ、兄ちゃんにはジュースだな。ほれ」

「うぅぅぅぅ………」


 出されたのは、果実を搾ったジュースだった。

 遠慮無くがぶ飲みし、チーズを齧る。

 マディガンさんのウィスキーを飲む気にはなれなかった。


「んでゼファールド、何しにここへ? まさか昔なじみの顔を100年ぶりに見に来たってワケじゃねぇだろ?」

「ああ。実はユグドラシル王国に用事があってな、手土産を作るために、オメーの工房を貸して欲しい。もちろん、使用料は払うし材料も自分で調達する」

「………エルフだぁ? おいおい、なんでまた」

「ファヌーアも少しは考えるようになった……つぅことだ」

「……事情があるんだろうな。まぁオレには関係ねぇから話さなくていい。工房も貸してやってもいいが、何を作る気だ?」

「バカ、エルフつったら弓だろうが。なぁマディガンよ、いい材料になりそうなモンスターはいねぇか?」

「そうだな……確か、冒険者ギルドに『ダイノカリブー』討伐の依頼が出てたな。ヤツのツノを加工すれば、いい弓が作れそうだぜ」

「ダイノカリブーか。確かB級の獲物だったな……」

「おうよ。弦は『ワイルドプラント』の蔦を加工すりゃいいのができそうだぜ」

「ワイルドプラントもB級の獲物か……くくく、面白い狩りになりそうだ」


 うーん、頭がボンヤリしてよく聞こえん。


「ま、そんなとこだな。オメーならもっと大物狙いでもいいと思うぜ?」

「いや、それでいい。土産としては十分じゃろ。仲間に報告してギルドへ向かうかの」

「うぅ~ん……」

「ほれ、起きんかセージ、行くぞ」

「は、はぃ……」

「準備ができたら来な。待ってるぜゼファールド」

「おう、またなマディガン」


 千鳥足になりながら、なんとか工房の外に出た。

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