第115話あとしまつ

 戦闘後の街は悲惨だった。   

 建物は破壊され、機能停止したサイドワインダーの残骸があちこちに散らばってる。怪我人や死人も少なからず出たようだ。

 俺たちは、急ぎ居住車の元へ。

 するとそこには、ぐったりとしたクトネたちがいた。

  

「おーい、大丈夫かー?」

「セージさぁん······ふぁぁ、疲れましたぁ〜」

「こちらはなんとか凌いだぞ······やれやれ、今までで一番キツい戦いだった」

「せんせ、いっぱい倒したよ!」

「みんなお疲れさん、こっちも終わったぞ」


 ブリュンヒルデとジークルーネは、さっそくスタリオンたちの元へ。

 俺はエンタープライズ号を見たが、どうやら損傷らしい損傷はなかった。これも守護獣のおかげなのだろうか。

 っと、守護獣で思い出した。


「なぁ、中は確認したのか?」

「いや、まだだ。さすがに疲れてな······足が重い」

「そうか、とにかく確認してみよう。ネコたちは大丈夫か······」


 ルーシアたちも立ち上がり、俺の後ろに続いてエンタープライズ号の中へ。

 すると······いた。


『もきゅ〜』『にゃあご』『な〜ん』『ごろごろ』

「·········」


 仰向けのごま吉の周りにネコが集まり、おもちゃのようにして遊んでいた。クッションか何かと勘違いしたのか、みけことくろこが身体を擦り付け、はだおはごま吉に寄り添って眠っていた。

 なんとまぁ······癒やされるわ。


「なんか、ここだけ違う世界みたいですねー」

「あ、ああ·········その、可愛いな」

「わたしも混ざる!」


 三日月がごま吉の元へ行くと、みけこたちが三日月にじゃれつく。そして三日月はごま吉を枕にして横になると、そのままネコと一緒にスヤスヤ眠り始めた。

 すると、ブリュンヒルデとジークルーネが戻ってきた。

 

『センセイ、スタリオン・スプマドール共に健康です』

「居住車も動かせるよ! どうする?」

「とりあえず、ファヌーア王のところへ行こう」


 エンタープライズ号は、ゆっくり走り出した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 城へ戻った俺たちは、メインホールに集まっていた負傷者の数に驚いた。

 野戦病院みたいだ。

 医者らしき白衣の人が怒号を飛ばしながら治療に当たってる。だが、どう見ても手が足りてない。

 冒険者やドワーフだけじゃない、獣人たちも町を守るために戦ったんだ。


「ジークルーネ、メインウェポンの使用を許可。ここにいる人たちを治せるか?」

「もちろんです。ナノ治療なら傷跡も残りませんよ!」

「じゃあ頼む。まぁ、チート能力ってことにすれば大丈夫だろ」

「はーい」


 ジークルーネは12輪の花を出し、メインホールの天井付近で旋回させる。すると、花から花粉······ではなく、ナノマシンが散布され、怪我人の傷口を修復し始めた。

 ホールの人たちは、この現象がジークルーネによるものだと理解した。


「うーん、怪我は治るけど、病気の人も何人かいるみたい。センセイ、少し時間がかかるから先に行ってて」

「わかった。頼んだぞ」


 ドヨドヨと騒ぎになりそうだったので、ジークルーネに任せて謁見の間へ向かう。本来なら手続きが必要だが、それどころではないのか、護衛も誰もいなかった。


「怪我人の皆さん、治ったら他の人たちを連れて来てくださーい。病気の方もいいですよー」


 負傷者はたくさんいる。こりゃ忙しくなりそうだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 謁見の間は、酷い惨状だった。  

 床は陥没し、天井は崩れ、壁は倒壊し、玉座なんてただの木片となってる。

 だが、そんなのはお構いなしに怒号が響いていた。


「動けるヤツはとにかく住人の救助をしろ! 町を襲った『鉄の蛇』を街中からかき集めてここへ持ってこい! 城だぁ? んなもん後回しだ、会議なんぞ立ったままでも出来る! 食料と水の手配も忘れるな!」


 ファヌーア王だ。

 動けるドワーフに片っぱしから指示を出している。

 謁見の間で瓦礫拾いをしているゼドさんを見つけた。


「ゼドさん!」

「おおセージ、終わったようじゃの」

「はい。なんとか······」

「ったく、何から聞きゃいいのか。あの鉄の水牛、あのバケモノ蛇を消し去った黄金の光、この鉄の棒きれの蛇······まぁ、まずは片付けをしねぇとな。手ぇ貸してくれや」

「はい! よしみんな、手伝おう!」

「よーし! あたしにできることなら!」

「任せろ、こう見えて力仕事は得意だ」

「せんせ、町のネコたちも助ける!」

『はい、センセイ』


 さて、町の復旧を手伝いますか!


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 それから数日。

 俺たちは、町の復興作業を手伝った。

 壊れた家屋などの修理を優先したが、建築関係のドワーフたちが異常なまでに張り切って仕事をした。

 理由は、この街は遺跡で、新しい建築などで建物を増やすことを禁じている。なので建築と言っても居住車制作が主な仕事で、家を建てたり直したりする仕事は滅多にないのだとか。町が悲惨な状況だってのに楽しそうに仕事をしてるんだって。


 怪我人は、ジークルーネが治療した。

 今回の災害で怪我をした人は当然だが、鍛冶の事故で失明したドワーフや、屋根の修理で二階から落ちて半身不随になったドワーフ、不治の病で余命半年の少女とかも普通に治していたので、ジークルーネは『癒やしの聖女』と呼ばれ崇拝されていた。いやまぁ、怪我や病気が治るのはいいことだけどね。


 クトネは、城の本棚の整理整頓を手伝っていた。

 ドワーフらしいというか、書庫は本が山ほど積み重なり、本棚はスカスカなのに床には大量の本が置かれホコリまみれになっていた。

 これを見たクトネはゼドさんに頼み、楽しそうに本棚の整理を始める。まぁ楽しそうだし任せよう。


 ルーシアとブリュンヒルデは、兵隊ドワーフと協力して、食料確保のため町の外でモンスター狩りをしていた果物や木のみを採取したり、大型モンスターを狩り町に運ぶ。

 その肉は、炊き出しで使われた。


 俺はというと、ゼドさんとファヌーア王の尋問······いや、城に保管してあったけど放置してあった機械の修理をさせられていた。どうやら、地下の宝物庫とは別に、ドワーフの宝が眠ってる宝物庫があり、そこにいくつか機械が置いてあった。

 まぁ、使えそうな物はなかった。でも、俺のチートレベルが1つ上がり、新しい能力こそ得なかったが、レベル3リペアの回数が1回から3回に上がった。これだけでも嬉しかった。 


 そんなこんなで、ようやくファヌーア王とまともな話ができたのは、ハイドラ襲来から10日後だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 復興が軌道に乗り始め、ようやく俺らの出番が無くなった。

 俺たちは全員、2日で修復された謁見の間に集まってる。

 ファヌーア王が新しい玉座に座り、見下ろすような形で俺たちクラン、ゼドさんを見てる。

 ファヌーア王は、ぶっきらぼうに言った。


「オメーら、復興支援感謝するぜ。おかげで助かった」

「いえ、当然のことです」

「おう。それと、オメーの報告書を読んだ。あの鉄の蛇はオストローデ王国の差金っつーのはマジなんだな」

「······はい。間違いありません」

「そうか」


 報告書……ああ、今回の件で知ってることをまとめたんだ。書類とか読まなそうだけど、ちゃんと読んでくれたみたいだ。

 ファヌーア王は、鼻を鳴らして言った。


「わかった。今後一切、ディザード王国はオストローデ王国との取引をしねぇ。何が目的か知らねぇが、ここまでコケにされて付き合いを続けるほど間抜けじゃねえ。オストローデには抗議と取引停止の文書を送る」

「懸命だな。ったく、決断が遅えんだよバカ」

「やかましい! それと同時に、フォーヴ王国に書状を送る」

「フォーヴ王国だぁ?」

「おう。実はよ、『|超野獣王(ビースト・オブ・ビースト)』と呼ばれたアルアサド王とはサシで飲んでみたかったんだ。オストローデの代わりってワケじゃねーが、協力関係を結べねぇかと考えてる」


 おお、すげぇ。それが実現すればなんと頼もしいことか。ドワーフの技術で造られた武器防具を装備した獣人の戦士。こりゃかなりの戦力になるだろうぜ。

 というか、いつの間にかゼドさんとファヌーア王の会話になってる。


「そんで、問題が1つ······コイツだ」


 ファヌーア王は、一通の手紙を取り出した。

 なんとなく高級感ある便箋だ。ドワーフらしくないというかなんというか。

 ファヌーア王の視線は俺に向いてたので、俺が聞く。


「その便箋がどうしたんですか?」

「·········ああ、実はよ、これはエルフからの協力要請の手紙なんだ」

「んだと? エルフだぁ?」


 またもやゼドさんが割り込んで来た。

 なんだかんだで兄弟仲はいいのかね。


「兄貴が来る少し前に届いた手紙でな、無視しても良かったんだが······今は無視する気になれん」

「······内容は?」

「ああ。要約するとエルフ王国内の遺跡調査、そして『精霊王(アニマスピリッツ)オリジン』がドワーフの技師を呼んでいる、ということだ」

「·········わけわからんぞ」

「だから、遺跡調査と腕利きのドワーフ技師を呼んでるんだよ!!」


 恥ずかしいのか、ファヌーア王の顔は少し赤い。

 そして、今度は俺を見て言った。


「そこでクラン『|戦乙女(ヴァルキュリア)』よ、オメーらに依頼を出す。エルフ族の大樹王国にある遺跡調査をしてくれ。これは国王としての正式な依頼だ。報酬は前金で白金貨10枚、成功で白金貨30枚出そう」

「ブッ」


 俺は吹き出した。

 つまり、金貨4000枚の仕事だ。

 そしてさらに驚くことを言った。


「ドワーフの技師としてそこのゼドを連れて行け。ワシの知る限り、ワシを除いたドワーフの中で最も腕のいい男だ。もちろん、足手まといにならん強さも含めてな」

「ファヌーア、てめぇ!」

「頼むぞ兄貴、ワシの分までしっかり遺跡を調べてこい。そんで、ぜーんぶ終わったら話を聞かせてくれや」

「·········チッ」


 ファヌーア王は立ち上がり、壁に控えていた兵士に命じて1本の銀の斧を持ってこさせた。

 そして、自分は玉座に立てかけてあった金の斧を持ち、兵士から銀の斧を受け取り、ゼドさんの前に来る。

 ファヌーア王は、銀の斧をゼドさんに突き出した。


「餞別だ」

「·········」


 ゼドさんは、斧を受け取る。

 二人は、それぞれ斧を持ったままピクリとも動かなくなる。

 まるで、今にも殺し合いでも始めるのかと思った。

 が、違った。


「ふんっ!!」「だらぁっ!!」

「ちょ!?」


 なんと、二人はお互いの顔面をぶん殴った。

 拳が交差し、お互いの顔面に突き刺さる。

 俺も、ルーシアもクトネも、三日月もジークルーネも、ブリュンヒルデも動かなかった。  

 そして、拳がゆっくり離れ、ゼドさんが言う。


「今までの分はこれでチャラにしてやる。帰ったら、美味い酒を用意しとけ」

「おう。朝まで飲み明かそうぜ」

「······ふん」

「それと·········持ってけ、バカ兄貴」


 ファヌーア王は、金の斧をゼドさんに差し出した。

 ゼドさんは金の斧を受け取り、自分の銀の斧と合体させる。

 片刃斧は大戦斧となり、ゼドさんが担いでいた。

 ゼドさんは何も言わず、振り返る。


「行くぞ」

「·········」


 それは、俺に向けられた言葉だった。

 金銀の大戦斧を背負ったドワーフは、とんでもなくカッコよかった。

 俺は、思わず呟いた。


「か、かっけぇ······」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ゼドさんの家に戻り、旅支度を終えたゼドさん。ファヌーア王の使いがエルフ王国への手紙やら何やらを持って来てくれた。

 ゼドさんは、工具などが入った箱と、デカい大戦斧、そして日用品の入ったカバンを持っていた。


「つーわけで、よろしく頼むぜ」

「は、はい。ちょっといきなり過ぎて何も言えなかったですけど」

「まぁいいじゃねぇか。大金貰って鉄の水牛も貰ったんだろ? エルフの森に仕事しに行くと思えばいいだろうが」


 確かにそうだけど。

 すると、あまり気乗りしてなさそうなルーシアたち。


「どうした?」

「あ、いえ······その、エルフの人たちって、チート能力持ちを嫌うんですよ。あたしたちは4人も能力持ちですし······」

「そうだな······だが、生まれ持った能力だ。私たちにはどうしようもない」

「わたし、ずっとネコに変身してようかな······」


 エルフねぇ。

 エルフといえば、長耳にベジタリアン、武器は弓を使うってイメージだけど。

 するとゼドさん。

 

「エルフは、ワシらドワーフとはあまり仲が良くない。エルフ王が手紙を出すということはよほどのことだろう。王の依頼で来たワシらを邪険にすることはないはずだ」

「だといいんですけどねー······」


 みんな乗り気じゃないのかね。

 俺は少し楽しみだけどな。だってエルフだぜ?  

 おとぎ話やラノベのテンプレナンバーワン種族。


「とにかく行くぞ。目指すのは3カ国境の町だ」


 向かうのは、ディザード王国、エルフの大樹王国、ラミア族の森林王国の中心にある国境の町。

 新しい仲間、ドワーフのゼドさんを加え、居住車エンタープライズ号に乗って次の王国へ向かう。


「よし、次はエルフの国だ。行くぞ!」


 ドワーフの国に別れを告げ、エンタープライズ号は出発した。

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