第114話BOSS・Type―HYDER⑤/メルカヴァー

 のっしのっしとメカ黒水牛が町を歩く。 

 その気になればもっとスピードを出せるが、戦ってるドワーフの兵隊や冒険者がそこら中にいるので派手な移動は出来ない。もし接触すれば大型トラックに轢かれるのと大差ないからな。

 それに、メカ黒水牛の背で俺は銃を連射していた。

 狙いはもちろん、メカ黒水牛の足下で必死に攻撃してるサイドワインダー。

 メカ黒水牛は、サイドワインダーを踏みつぶしながら進んでいた。 

  

「すげぇ……こいつ、めちゃくちゃ硬いな」

「はい。センセイのキルストレガでも斬れない硬度です」

「ほぉ……」


 もちろん、試すなんてしない。

 メカ黒水牛……モーガン・ムインファイルだっけ? こいつの背中は機械らしくゴツゴツしていて、立つこともできるが俺は落ちないように座りながら銃を撃っていた。

 ジークルーネは女の子座りで空中投影ディスプレイを表示し、モーガンの操作と町の様子、そして戦闘中のブリュンヒルデの様子を同時中継している。

 そして、ジークルーネが言った。


「センセイ、近くにルーシアさんたちの反応を確認! どうやら全員無事です!」

「マジか!? よし、行くぞ!」


 モーガンで移動すると、疲れ切ってるクトネ、新しい剣でサイドワインダーを斬るルーシア、獣人モードで暴れる三日月がいた。

 もちろん、俺たちを見て仰天していた。


「な………せ、セージか?」

「大丈夫か!? ルーシア、クトネは」

「し、心配するな。魔力切れを起こしただけだ。その、何から聞けば良いのか」

「せんせ、なにこれ……?」

「説明は後だ。この黒水牛は味方で、これからこいつで大元を叩く。このままエンタープライズ号を守れるか!?」

「……大丈夫だ。耐えてみせるさ」

「わたし、がんばる!」

「よし、すぐに終わらせるから、頑張ってくれ!!」


 サイドワインダーを相手にするルーシアたち。

 町の出口までもう少し。ここは任せて先に進む。

 

 こんな戦い、早く終わらせないと。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ブリュンヒルデは、ヴィングスコルニルに騎乗して空を駆け回っていた。

 近接戦闘型でありながら、今のハイドラに接近は難しいと判断。ヴィングスコルニルで翻弄し、隙を作る作戦に打って出た。


「おほほ、はやいはやーい。でもねでもね~……ボクちんのことわかってない」

『………』


 すると、ウロボロスの頭が鞭のようにしなり始めた。

 そして、上空に口を向けて、変形前の鉄の棒であるサイドワインダーを、ガトリングのように発射した。

 目を見開くブリュンヒルデだが、ヴィングスコルニルの足で回避し、回避しきれない棒はシールドを使って防御した。

 そして、発射された棒に指蛇鞭を絡め、ブリュンヒルデの目と鼻の先に現れたハイドラ。


「おっしゃげっとぉぉぉぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」

『ッ!!』

「かーらーのーぉぉぉぉぉぉぉっ!! しゅーーーーーーっ!!」


 指蛇鞭がヴィングスコルニルごと全身に絡みつき、そのまま思い切りウロボロスへ向けてぶん投げられた。

 ハイドラのパワーは並ではない。アルヴィートのデータで躯体性能は大きく向上してる。そんなハイドラの遠心力を使った投擲に逆らえず、錐もみ回転しながら吹っ飛ばされた。


『く······っ、体勢修正』


 ブリュンヒルデは見た。

 ウロボロスが再び鉄の棒を吐き出し、空中で変形しサイドワインダーとなる。口を開けたサイドワインダーは、ブリュンヒルデを噛み砕こうと殺到する。


『フィールド展か』

「させねーよ」


 ハイドラの指蛇鞭が、ヴィングスコルニルに絡みつく。

 すると、ヴィングスコルニルの能力の1つである防御フィールドがキャンセルされた。

 これには、さすがのブリュンヒルデも表情を変えた。


「くくふふ、さっき蹴られたときに、ウィルス仕込んだんだよね〜、でもプロテクトが強すぎて1回こっきりの裏ワザだけど〜」

『·······っ!!』

「じゃ、おいしいエサになってね〜」


 ブリュンヒルデは、ハイドラに蹴り飛ばされる。

 背後にはブリュンヒルデに殺到するサイドワインダーの群れ、前方にはヴィングスコルニルを拘束して勝ち誇るハイドラ。

 ブリュンヒルデは、ここからどうするか思考する。

 

『··········』


 だが、間に合わなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ようやく、町を出た。

 途中で何人かの冒険者やドワーフを援護しながら進んだので遅くなった。

 でも、これで遠慮なく行ける。


「ジークルーネ、モーガンのスピードアップ! このままウロボロスのところまで走らせて、全力体当たりだ!」


 作戦はシンプル。

 ウロボロスはゆっくりと這いずり回りながら、町に向かってサイドワインダーを吐き続けてる。それを止めるために、胴体部分にモーガンを体当たりさせて止める。

 仮にモーガンが壊れても、俺が直せばいい。少し申し訳ない気もするが、他に手はない。

 そして、モーガンの速度は時速40キロほどに。


「こ、こぇぇぇっ!!」

「センセイ、あれ!!」


 うつ伏せになりしがみつく俺に、ジークルーネが言う。

 外周を這いずり回るウロボロスが見えてきた。

 そして、ブリュンヒルデも。


「な······っ」


 俺は見た。

 ヴィングスコルニルを指蛇鞭で拘束し、イカれ男がブリュンヒルデを蹴り飛ばす瞬間を。

 そして、蹴り飛ばされたブリュンヒルデの背後から、サイドワインダーが口を開けて迫っている瞬間を。

 

「ブリュンヒルデ······」


 俺は悟った。

 間に合わない。

 ブリュンヒルデが、サイドワインダーに食い千切られる。

 どうする。

 武器。

 ビームフェイズガン。射程外。

 ジークルーネ。無理だ。魔術。無理だ。

 モーガン。

 コイツに何ができる? 

 武器。ブリュンヒルデを助ける。

 

 ブリュンヒルデを死なせてたまるか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 モーガンに触れた右手が熱くなる。


「え、うそ」


 ジークルーネが驚くが俺は無視。

 モーガンの頭が上にスライドし、首の断面から砲身のような物が現れた。

 考えてる暇はない。というか、考える必要がない。

 頭に浮かんだこの言葉を口に出せ。


「空間掘削消滅砲【メルカヴァー】発射!」


 見えない何かが発射された。

 それは、サイドワインダーの群れの中心に着弾。俺の脳ミソでは理解できない力場が一瞬で広がり、空間そのものを喰らい尽くす。空間が削り取られる。サイドワインダーも、空間も、空気も、何もかも、【メルカヴァー】は喰らい尽くした。

 サイドワインダーの群れだけじゃない。ウロボロスの頭部も飲み込まれて消滅した。

 

「············································は?」

『···········っ?』


 イカれ男も、ブリュンヒルデも仰天していた。

 電子頭脳で処理できない現象なのか、フリーズしてる。

 俺は全力で叫んだ。


「ブリュンヒルデ、今だァァァーーーーーッ!!」

『っ!! 第一着装形態へ移行!!』


 ブリュンヒルデは一瞬で双剣スタイルに変形し、ブースターを全力で噴射。

 未だ呆然としてる無防備なハイドラへ向けて飛び出す。


「あ、やべ♪」

『終わりです』


 指蛇鞭はヴィングスコルニルに絡みついてるので反撃できない。 

 一瞬で四肢と首を切断されたイカれ男は、そのまま頭を失ったウロボロスの首の断面に落下した。

 ヴィングスコルニルを取り戻したブリュンヒルデは騎乗し、俺とジークルーネのもとへ。


『援護感謝します、センセイ』

「あ、ああ·········その、俺にもよくわからんけど」

「空間掘削消滅砲·········まさか、そんなのが搭載されてるなんて」


 モーガンの砲身は引っ込み、頭の位置も戻った。

 そして、ブリュンヒルデはヴィングスコルニルから降りると、エクスカリヴァーンを大剣モードにして天に掲げる。


「ブリュンヒルデ、なにを······」

『センセイ、ウロボロスはこの世界に不必要な存在。完全に消滅させます』

「······よし、やっちまえ」

『はい、センセイ』


 なるほど。フォーヴ王国で使った【|乙女神技(ヴァルキリー・フィニッシュ)】を使う気だな。まぁ俺は見てないけど、地形を変える威力があるらしい。


『code04ブリュンヒルデ・【乙女神技(ヴァルキリー・フィニッシュ)】を使用します』


 ブリュンヒルデが剣を掲げると、エクスカリヴァーンが黄金に発光。刀身が分解し、黄金のオーラは天に登る。

 乾いた砂漠の大地から伸びる黄金のオーラは、とても美しく輝いていた。


「す········すげぇ」

「センセイ、この技を使うとお姉ちゃんのボディにかなりのダメージがあると思うから、直してあげてね」

「あ、ああ」


 黄金のオーラ剣は、ウロボロスより遥かに大きく伸びた。これなら、ウロボロスを完全に消滅させることができるだろう。


『広域殲滅剣【戦乙女の理想郷(アーヴァロン)】発動します』


 黄金の大剣が振り下ろされた。

 それは破壊ではなく、完全な消滅だった。

 黄金の光が地面を焼き尽くし、恐るべき轟音と爆音が砂漠を飲み込んでいく。

 ウロボロスが黄金に包まれ、完全に消滅した。

 イカれ男・ハイドラも間違いなく消滅しただろう。

 

『殲滅完了······』


 プシューっとブリュンヒルデから蒸気が吹き出した。

 俺は慌ててブリュンヒルデを修理する。すると、ジークルーネが言った。


「見てセンセイ、サイドワインダーが停止してるよ!」

「お、ホントだ。ってことは、町の方も」

「どれどれ·········うん、完全に停止してる」

「そうか、よかったぁ〜·······」

『·········』


 ブリュンヒルデは、メカ黒水牛のモーガンをジッと見つめている。そういえば紹介がまだだったな。


「そういえば、これどうすっかな······」

「とりあえず、わたしのサブウェポンとして登録しておくね。そうすればいつでも呼び出せるしね」

「ああ······って、ちょっと待て、一応これドワーフの宝物庫にあったやつだし、ファヌーア王に許可取らないと」

  

 言ったそばからジークルーネはモーガンを収納した。

 ヴィングスコルニルと同じく、モザイクのような光に包まれてあっさり消えてしまった。よく考えたら、コイツに乗らないで移動し、ここで出してもらった方が楽だったかも。


「······まぁいい。ルーシアたちと合流して、城へ向かおう」


 こうして、戦いは終了した。

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