第113話BOSS・Type―HYDER④/皇牛モーガン・ムインファウル

 ブリュンヒルデは、エクスカリヴァーン第一着装形態で空を飛んでいた。正確には飛ぶのではなく噴射による跳躍だが。

 ブリュンヒルデは、上空から街を見下ろした。


『被害状況甚大······ルーシア、クトネ、シオンを確認。スタリオン、スプマドールの無事を確認』

 

 ブリュンヒルデは、安堵した。

 表情こそ変化しなかったが、大事に世話をしてきた馬が無事であることに喜びを感じ、居住車と一緒に守り戦う仲間を見た。

 あそこは、心配しなくても大丈夫だろう。

 なら自分は、持てる全ての能力を使い、センセイの指示を完遂する。

 ブリュンヒルデの視線の先には、ジャンボジェット機の胴体よりも巨大で柔軟に動く機械の蛇。拠点制圧兵器ウロボロスが、子機サイドワインダーを吐き出していた。

 そして、ウロボロスの頭部には。


「こっちこっち〜♪ code04ちゃぁ〜ん♪ オイラと触手デ〜トし〜ま〜しょぉぉ〜〜っ♪」


 両手の指から蛇のような鞭。センセイ曰く『指蛇鞭』をニョロニョロさせたアンドロイド・ハイドラがいた。

 ブリュンヒルデは、『右手剣エクスカリバー』と『左手剣カリヴァーン』を展開し、背中のブースターを噴射させる。

 全身全霊で、目の前にいるアンドロイドへ向けて。


『排除します』


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺とジークルーネの前に現れたのは。


「で、でけぇ······なにこれ、水牛(バッファロー)か?」


 それは、戦隊ヒーローのブラックが乗り込み、巨大ロボットの足部分にでも変形しそうな『黒いバッファロー』だった。

 デカいな。メカの牛とでも言えばいいのか、メタルブラックのボディに反り返った巨大な角、真紅の眼光。大型トラックほどの大きさで、どう見ても兵器だった。

 ジークルーネは、メカ水牛に近づいて触れる。


『マニュアルインストール完了。【戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)No.2、皇牛(おうぎゅう)モーガン・ムインファウル】確認。code06ジークルーネ使用不可······く』


 ジークルーネは、メカ黒水牛から手を離した。


「·········やっぱりダメ、わたしには使えない。これは完全な戦闘兵器。新しい着装形態のデータもあるけど、ブリュンヒルデお姉ちゃんの乙女神剣にも対応してない。これを使えるのは······」

「ジークルーネ、動かせないのか?」

「······歩行くらいなら。でも、武装は使えないよ」

「···········」


 俺は少し考え、メカ黒水牛に手を触れた。


『システムチェック完了。全システムオールグリーン。《ヴァルキリーハーツ》書き換え完了。これより相沢誠二を所有者とし、全機能権限を委ねます』


 そう、ヴィングスコルニルの時と同じ。

 全機能権限を委ねるってことは、俺でも使えるってことだ。

 もしかしたら、コックピットでもあるのかな。


「センセイ、これは戦乙女型専用の武装だよ。人間が使用する考慮なんてしてないからダメだよ」

「いや、少しでも可能性があるなら。ブリュンヒルデが負けるとは思わないけど、あのイカれた男相手にするのはキツいだろ? 援護くらいはできる」


 すると、ジークルーネはメカ黒水牛の近くにあったコンソールを操作し、外の映像を呼び出した。

 そこには、街を見下ろすように存在する巨大な蛇がいた。


「な、なんだこれ······っ!?」

「これが『拠点制圧兵器UROBOROS(ウロボロス)』の本体。これだけの巨大、お姉ちゃん一人じゃ確かにキツい。【乙女神技(ヴァルキリー・フィニッシュ)】でも使わない限り、完全に倒すのは無理かも」

「なら、どうする?」

「······せっかく目の前に『力』があるのに、使わない手はないよね」

「ああ。それに、歩かせることはできるんだろ? 立派なツノも付いてるし、あのデカ蛇に突進して弾き飛ばしてやろう」

「あはは、そうだね。じゃあセンセイ、行ってみる?」

「ああ、行くぞ」


 乗る場所がないので、苦労して背中によじ登る。

 なんとなく嫌な予感はしたが、命じてみた。


「あの〜、外に出れるか?」

『了解』


 すると、部屋の天井がスライドし、先程までいた部屋の屋根が見えた。

 そして、リフトのように床がせり上がる。

 部屋の床なんてなんのその。リフトは床をぶち破って謁見の間で停止した。

 とんでもなく仰天するゼドさんとファヌーア王。


「な、なんじゃこりゃあ!?」

「おいファヌーア、城の地下にこんなもんあったのかよ!?」

「ワシが知るか!! おいオメー、こりゃなんじゃ!!」

「せ、説明は後で! それより、俺とジークルーネは、この騒ぎの元凶を叩きに行ってきます! あと、床やドアを壊しちゃいますけど、勘弁してください!」

「よーし、モーガン・ムインファウルはっしーんっ!!」


 ずずん、ずずんと、メカ黒水牛は歩きだす。

 謁見の間から出てそのまま壁に向かって直進。壁をぶち破って外へ出た。

 外は何人ものドワーフや冒険者が戦っていたが、メカ黒水牛を見て全員が仰天していた。そりゃそうだよな。

 俺は黒水牛の背中からビームフェイズガンを構え、進む先にいるサイドワインダーに向かって撃ちまくる。


「くそ、もっと早く行きたいけど······」

「ダメだよセンセイ、こう街が入り組んでると、建物を破壊しちゃう」

 

 城なら遠慮しなくてもいいが、街を破壊するのは違う。

 建物を破壊しないように進み、戦ってる冒険者やドワーフの邪魔にならないように進む。

 

「ウロボロス······くそ、遠い」


 ブリュンヒルデは、もう戦ってるはずだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「およよよよよよ〜っ! code04ちゃんは触手が大好きぃぃ〜〜っ!?」

『······っ!!』


 厄介だった。

 近接戦闘型のブリュンヒルデは、接近してこそ真価を発揮する。

 だが、ハイドラの10の『指蛇鞭』は、ブリュンヒルデの接近を許さない。それだけじゃない、鞭の先端部が蛇の頭のような形をしており、それが独自の思考で動く。つまり、10の鞭全てに人工知能が搭載されていた。

 1つ1つがブリュンヒルデの動きを観察し連携を取り、ブリュンヒルデの動きを封じようと動く。

 唯一の救いは、射程距離。

 15メートルほど距離を取れば、ハイドラの攻撃はブリュンヒルデに当たらない。

 だが、それはブリュンヒルデも同じ。

 自身に搭載されている唯一の中距離砲である【ペンドラゴン】があるが、この距離だと簡単に躱されてしまう。

 

「ねぇねぇいいのいいの? ちまちまちまちまちまちまヤルのもいいけど、あんまり時間かけるとみ〜〜〜〜んな疲れて食べられちゃうよん? ぼくちんを殺さないとサイドワインダーは無限に吐かれちゃう! そ・れ・に〜? キミの攻撃力じゃこのウロボロスちゃんを完全に破壊するのはムリムリ〜だしね?」

『·········』


 ウロボロスは、町の外周をゆっくりと這っていた。

 まるで本物の蛇のように、大口を開けて、鉄の棒をまんべんなく雨のように街へ降らしながら。

 時間は掛けられない。

 ルーシアたちの体力も限界が近いだろう。

 まず、このウロボロスを機能停止させる必要がある。


「まず、このウロボロスを機能停止させる必要がある」

『·········』

「おほ? 当たり当たり? ねぇねぇ当たり?」

『·········』

「くっふふふふふ、わかりやすいねぇcode04ちゃん。可愛いから教えてあげる。あのね、このウロボロスは2999のナノエンジンと9999個のナノマシン修理ユニットが搭載されてるの。破損や異常があればお医者ナノマシンちゃんが一瞬で修復しちゃうー! つまり〜、code04ちゃんがウロボロスを止める方法は1つ! ウロボロスを統括してるボクちんの電子頭脳を破壊するしかなーいっ! おわかり?」

『·········』


 ブリュンヒルデは、エクスカリバーとカリヴァーンを構えた。


「ぷふふふふっ、ほんっとにわかりやすぅぅい! ではではゲームの続きと行きまっしょい! 町が更地になるのが先か、ボクちんの電子頭脳が壊されちゃうのが先か!」

『答えは決まっています』

「おほ?」


 空から、銀色の光が落ちてきた。

 それはブリュンヒルデの真横に落ちる。


『あなたを破壊して町を守ります。それがセンセイとの約束です』


 銀色の光は、鉄の馬。

 ブリュンヒルデは、『天馬ヴィングスコルニル』に騎乗する。

 そして、第二着装形態【神槍ロンドミニアゴ】を展開した。

 槍をクルクル廻し、ハイドラに突き付ける。


『戦闘を再開します』

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