第112話BOSS・Type―HYDER③/ルーシアの本音

 ルーシアたちは奮闘していた。

 ごま吉の守護はかなりのもので、何本か鉄の棒が居住車に直撃したが、全くのノーダメージだった。

 なので、クトネはスタリオンとスプマドールの守護に全神経を集中させる。


「あたしのとっておき、『三種同時行使(トリニティ・マーブル)』でいきますかね!!」


 クトネは自らの属性である『火・土・風』属性を同時に発動させる。

 数十発の火の玉、地面を砕いた岩、風の刃がサイドワインダーを吹き飛ばす。ダメージこそあまり与えられないが、サイドワインダーを馬に近付かせないだけなら十分だ。

 そして、三日月しおん。


「にゃあーーーーーっ!!」


 全ての攻撃を躱し、サイドワインダーの頭部と胴体を切断していた。

 三日月にとって、ここはスフィンクスの『はだお』の故郷である。どんな理由だろうと襲うなんて許せない。

 三日月の視線は、この国を見下ろすように鉄の棒を吐き出している『拠点制圧兵器|UROBOROS(ウロボロス)』へ向けられ、怒りを込めた眼をしながらルーシアたちに言う。


「ルーシア、クトネ……あのでっかいの壊せば、この棒きれ止まるかな?」

「ダメだ。今はここで居住車を守ることだけ考えろ!」

「でも……」

「シオンさん、あたしも同じ気持ちですけど、今は耐えてください!」

「ああ、それに……」


 ルーシアの視線が上空へ向くと、ルーシアは微笑んだ。

 三日月とクトネも上空を見る。


「あ……」

「わぉ、あれって……」

「そういうことだ。ふふ、我々はここで戦うぞ」


 上空には、見覚えのある銀色の少女が飛んでいた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ブリュンヒルデがウロボロスへ向かった。

 それだけで、ルーシアは安心して目の前にいるサイドワインダーに集中できる。

 新調した剣で関節部を切り、体術を駆使して攻撃を躱す。

 その動きを見ながら、クトネは援護をする。


「ルーシアさん、そっちに飛ばします!」

「頼む!」


 クトネは風の力でサイドワインダーを纏めてルーシアの元へ送る。

 するとルーシアは、剣を構えてニヤリと笑う。


「ふ……これなら当てやすい」


 ルーシアは、剣の柄に付いているスイッチを押した。

 すると刀身が分割され、まるで鞭のようにしなり、宙に浮くサイドワインダーに向けて剣を振るった。

 まるでヘビのようにルーシアの剣は舞い、サイドワインダーの首と胴体を切断する。

 それを見たクトネは驚いていた。


「な、なんですか、その剣?」

「ふふ、私好みに造らせた剣だ。正式名称は『蛇腹剣カルマ』……良い剣だ」

「あ、ははは……あの、ルーシアさん」

「ん?」


 クトネは、前前から感じていたことを言う。


「ルーシアさんって、騎士っぽくないですよね」

「…………」


 クトネは、ほんの冗談のつもりで言った。

 だがルーシアは、少し困ったように微笑みながら、まだまだ湧いてくるサイドワインダーへ向きつつクトネに言う。


「クトネ、本当の事を言うと……」

「え?」


 ルーシアは、『蛇腹剣カルマ』を鞭のようにしならせる。

 そして、頭上でブンブンと振り回して楽しげに言った。


「実は……騎士団長になんて、なりたくなかったんだ」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 さて、俺とジークルーネはサイドワインダーをぶっ壊しまくった。

 キルストレガのエネルギーが切れてしまい、途中からビームフェイズガンを撃ちまくってサイドワインダーを破壊した。こういうのもなんだ、いい経験だよな。

 ゼドさんとファヌーア王は、いつの間にかゴージャスな斧で戦ってるし、心なしか謁見の間のサイドワインダーも少なくなってきた気がする。

 

「……やっぱり」

「ジークルーネ、どうした?」

「センセイ、ここの地下に遺跡があるよ。しかもかなり規模が大きい。わたしのデータにはない施設……たぶん、【戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)】が眠っている」

「マジか! よし、じゃあそいつを使ってこの状況を打破……」

「……ごめんなさい、それは難しいかも」

「え?」


 ジークルーネは、肩を落とした。

 まるで自分の不甲斐なさに絶望してるような、そんな雰囲気だ。


「仮に戦闘用の遺産だとしたら、わたしには動かせない。わたしのOSは戦闘用じゃないから、武装起動できない。できたとしても、遺産のスペックの10パーセントも引き出せない」

「え……で、でも」

「無理なの。センセイ、馬は荷車を引けるけど空は飛べないでしょ? 鳥は空を飛べるけど海に潜ることはできないでしょ? それと同じ。わたしにできるのは調整と治療、戦闘はできないの」

「ジークルーネ……」


 漫画だったら、根性や奇跡のパワーで乗り越えられる。でもこれは違う。ジークルーネはアンドロイドだ。気合いや根性でどうにかなる問題じゃない。もちろん、奇跡のパワーなんて期待できない。

 でも、遺産がどんな物かわからない。

 それを確認してからでも、なんとかなる。

 俺は周囲の状況を確かめる。

 現在、戦闘を行ってるのは俺とゼドさんとファヌーア王。

 俺とジークルーネが抜けても、問題はないくらいサイドワインダーの数は減っている。


「よし、ゼドさん、ファヌーア王!」

「なんじゃ! こっちは忙しい。セージも手ぇ動かせ!」

「そうだ、このヘビもどきはまだまだ湧いて出てくるんだからよ!」

「ですね! だからお願いがあります!」

「あぁん!?」


 ゼドさんは、銀色の斧でサイドワインダーを叩き潰した。

 ファヌーア王は張り合うように金の斧で薙ぎ払う。


「この城の宝物庫……遺跡を開けてください!!」

「んだと!? どういうつもりだ!!」

「そこにある古代の遺物で、この状況をなんとかできるかもしれないからです!!」

「なぁにぃ!? おい兄貴、どういう」

「よーし行けセージ!! おいファヌーア、鍵よこせ!!」

「ったく、このクソ忙しいときに……あぁもうしゃあねぇ!!」


 観念したのか、ファヌーア王は何故か玉座へ向かう。

 イカレた男が落ちたことで粉々に砕けた玉座を、ファヌーア王は金の斧で思い切り薙ぎ払った。

 椅子の残骸と瓦礫がまとめて吹き飛ばされ、玉座があった床も砕けて吹き飛ばされた。


「こ、これって………地下の通路? まさか謁見の間の玉座の下に!?」

「よけいな詮索するヒマあったらさっさと行けこのクソ野郎!!」

「す、すんません!! 行くぞジークルーネ!! ヴィングスコルニルはブリュンヒルデの応援に行け!!」

「はい、センセイ!!」

『了解』


 ファヌーア王の怒声はかなり恐ろしかった。

 この場をゼドさんたちに任せ、俺とジークルーネは地下階段を下りていった。ヴィングスコルニルも同時に飛び去った。

 

 この先にあるのは、果たして何なのか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺とジークルーネは、謁見の間玉座の真下から地下通路を通って走っていた。

 俺は、見覚えのある通路に驚く。


「ここは······ヴィングスコルニルの時と同じ」

「すごい。ここ······メインウェポンが出せません」

  

 ドワーフの町や城と比べ、ここだけ異質な空間だった。

 通路そのものが発光してるように明るく、不思議な材質だ。

 ということは、この最奥には。


「やっぱりな······」

「扉、ですね」


 通路の最奥には扉があった。

 暗証番号を入力するのでも、カードリーダーがあるのでも、鍵穴があるのでもない。

 これは、俺の『接続(アクセス)』でしか開けられない扉。

 アンドロイドと戦乙女型の父が、同じ能力を持つ者にしか開けられないように造った扉。


「行くぞジークルーネ······『接続(アクセス)』」


 扉に触れ能力を行使すると、扉に毛細血管のような光が走り、ゆっくりと扉が左右に開いた。

 そして、まるで電源が入るかのように部屋が明るくなる。


「·········あれ、今回は何もないのか」


 以前はアナウンスが入ったけど、今回は何もない。

 というか、部屋がめっちゃ広い。まるで体育館並の広さで、天井もとんでもなく高い。ここでフットサルくらいならできるだろう。

 そして、来た。


『GATE・OPEN』


 純白の床に切れ込みが入りスライドする。そして、何かがせり上がって来た。

 俺はゴクリと唾を飲む。

 ヴィングスコルニルと同列の、圧倒的な力。

 

 そして、そこに現れた物は。

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