第108話巌窟王ファヌーア
ゼドさん、俺、ブリュンヒルデとジークルーネで王宮を目指して歩いていた。
町の喧噪のおかげで会話がなくても賑やかだが、せっかくなのでいろいろ質問する。
「あの、ゼドさん。巌窟王ファヌーアってどんな人なんですか?」
「あん? ああファヌーアか……あいつはドワーフの中でも特に腕利きでな、鍛冶をやらせりゃ名剣を打ちやがるし、防具を造らせりゃガチガチ堅ぇのが出来上がる。全ての分野において最高の腕を持つドワーフだな。王になってからは政治にも手ぇ出してな、最近はオストローデ王国との取引を成立させたらしいぜ」
「………え」
オストローデ王国。
このタイミングで、その名を聞くとは思わなかった。
「お、オストローデ王国との取引って……」
「ああ、オリハルコン鉱石の輸入と引き替えに、ドワーフ製の武器防具の納品だとさ。この砂漠地帯じゃ稀少なオリハルコン鉱石は手に入らねぇからな、いい取引だと思うぜ」
「………」
きっと、ドワーフの取引に裏はない。
この人たちは職人だ。オストローデ王国の裏の顔なんて知らないんだろう。純粋に武器防具の納品し、見返りにオリハルコン鉱石を手に入れようとしてるだけだ。
オストローデ王国がドワーフの武器をどう使うのか……考えただけで、いい結果にならないのだと理解出来る。
「ワシから見ると、オストローデ王国みてぇな胡散臭ぇ国との付き合いはゴメンだがな。どうせ付き合うなら単純バカのフォーヴ王国がいい。獣人のパワーに耐えられる武器防具は、ドワーフしか作れねぇからな。だがファヌーアはオリハルコン鉱石をくれるって言うだけでオストローデ王国との取引を決めやがった………単純なバカさは変わってねぇな」
「ゼドさん……」
この人、やっぱ見る目がある。
前をドシドシ歩く後ろ姿は、とても頼りになる。
「さて、王宮に行くのは数年ぶりじゃな……」
ゼドさんが見上げた先に、巌窟王ファヌーアの王宮があった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王宮に繋がる門の前には、門兵が2人。もちろんドワーフだ。
「止ま……な、お前は!?」
「よぉ、久し振りだな。ファヌーアに会いに来たぜ」
「ぜ、ゼファールド……」
「行くぞ、セージ」
「え、あの、いいんですか?」
「おう、構わんぞ」
門兵を押しのけ、ゼドさんは宮殿に入って行く。
ブリュンヒルデとジークルーネを促し、後に続いた。
どうも、ゼドさんはただ者じゃない気がしたが……やっぱりそうだった。
「ぜ、ゼファールド!?」
「おうジッドル、ファヌーアはいるか? 久し振りに会いに来たぜ」
「こ、国王なら、謁見の間にいる……」
「ありがとよ」
宮殿の中に入ると、鎧を着たドワーフに出会った。
身長は低いが、高級そうな全身鎧を着ている。どうもお偉いさんっぽい。
ズンズン進むゼドさんに付いていくが、俺は聞いた。
「あの、ゼドさん……なんか、みなさんと知り合いっぽいんですけど」
「ああ、よーく知ってるぜ。っと……ここが謁見の間だ」
ドワーフが造ったのか、立派なドアの前に来た。
オストローデ、フォーヴと謁見の間を見たが、王と謁見するために造られた部屋なだけあって立派な作りだ。しかもここは遺跡、歴史を感じさせるな。
「おう、いるか!」
そんな歴史のあるドアを、ゼドさんは蹴り破った。
いやいや待て待て、マジで鼻血噴き出すかと思ったぞ。フォーヴ王国とはまた違う勢いで驚いた。
ゼドさんは、変わらずズンズン歩き進み、立ち止まる。
視線の先には、1人のドワーフがいた。
「久し振りだなファヌーア、さっそくだが『古代宝物庫』の鍵を貸せ」
「ブッフェ!? ちょ、ゼドさん、いくらなんでも失礼すぎですよ!?」
「………」
俺は、王座に座る1人のドワーフ……『巌窟王(グラウンド・キング)ファヌーア』を見た。
ドワーフだからなのか、やはり身長は低い。だがアルアサドに負けない強大なオーラを感じる。
黄金の甲冑を身につけ、素肌が見える二の腕はガッチガチ、顔は髭もじゃで髪はパンチパーマだ。
見ただけでわかる。この人もハンパなく強い。
「ゼファールド……久し振りに来て言うのがそれか?」
「ああ、オメーと話すことはねぇ。どうせ言っても理解出来ないだろうしな。それより鍵をよこせ」
「ふざけるな。ここはもうお前の家じゃない、さっさと三流の家に帰れ」
「バカ、宝物庫の扉が開くかもしれねぇんだぞ! ここにいるセージはそれができる。あの遺物もセージの力で直せたんだ。ファヌーア、宝物庫の中身が気にならねぇのか?」
「ならん。あんな過去の遺物は、我らドワーフの求める技術とは違う。あんなガラクタの山、なんの価値もない」
あの、俺の名前を出さないで欲しい。
この言葉に、ゼドさんはキレた。
「このクソボケ! あれの価値を知らねぇ行き遅れドワーフが! 何度も言ったがもう一度言ってやる!! いいか、鉄を打って武器防具を造る時代はもう終わった!! いい鉱石や鉄があれば、ドワーフなら誰だって名剣が打てる!! 二流も三流もねぇ、技術だけじゃ未来に進めねぇとこまで来てんだよ!!」
すると、今度はファヌーア国王もキレた。
王座から立ち上がり、ゼドさんに指を突き付ける。
「そっちこそふざけんじゃねぇ!! 遺跡調査で見つけたガラクタに魅せられてドワーフの本分を見失った出来損ないドワーフが!! いいか、ワシらドワーフの中のドワーフと呼ばれた『エルダードワーフ』はもうワシと兄貴しかいないんだぞ!! 亡き親父殿の意志を継ぎ、次世代に技術を継承する……」
「やかましい!! なにが次世代の技術じゃ!! 親父殿の技術は鉄を打って形にするだけの技術じゃ!! そんなもんはとうに国中のドワーフに伝わっとる!! いいか、ワシが見てるのはドワーフの未来じゃ!! 鉄を打つだけじゃない、チマチマした装飾品を造るんじゃない、デケェ家を建てるんじゃない、ワシは全てを一つにした究極の技術を求めた!! その答えが古代の遺物、そしてこのセージだ!!」
「ひっ!?」
急に指さされたからマジでビビった。
というか、この2人って兄弟だったのか。
「お姉ちゃん、これが兄弟喧嘩なんだね。わたしたち喧嘩したことないから、いいデータになるよ」
『姉妹喧嘩ならば経験があります』
「あはは、それってアルヴィート……アルちゃんとの戦闘でしょ? あれは喧嘩じゃなくて戦いだよ。お姉ちゃん破壊寸前だったじゃない」
『そうですか。あれは姉妹喧嘩には当てはまらないのですね』
「そうそう。でも、兄弟喧嘩はいいデータになるからこのままデータ収集するね」
『はい。情報共有をお願いします』
「うん。あとでアップロードするね」
こっちはよくわからん会話をしてる。
姉妹喧嘩って、アルヴィートとの戦いはマジでやばかったんだからな?
というか、ゼドさんとファヌーア国王の舌戦が終わらない。
護衛らしきドワーフ戦士や、側近らしき文官ドワーフも間に入ることができないのか、兄弟喧嘩はますますヒートアップする。
「だいたいテメェ、親父殿の遺言を忘れたのか!? 『来たるべき日、扉開けし者が現れる。その者が扉を開きし時、宝物は目覚める』って言っただろうが!! 親父の遺言に逆らう気かファヌーア!!」
「はっ、家を捨ててガラクタの山と共に生活してる職務放棄ドワーフが親父殿を語るんじゃねぇ!! そもそもテメーがここに来ること事態、親父殿に対する侮辱なんだよこのボケ!!」
「………もうわかった」
「………そうだな」
舌戦が終わった。
と、安心したのも束の間……ファヌーア王が玉座から下りてゼドさんに接近する。
「ファヌーア、最後にもう一度だけ言う。宝物庫の鍵をよこせ」
「黙れクソ野郎。テメーはここでぶちのめす」
「は、オメーよぉ、喧嘩でワシに勝ったことねぇだろ? ワシと喧嘩したらどうなるか忘れたか? 最後はいっつもテメーが泣いて終わるんだ。泣き虫ファヌーアちゃんよぉ?」
「ボケが。未来未来言ってるわりには過去のことに拘りやがる。いいかゼファールド、泣いても許してやらねぇぞ?」
「上等」
え……な、なんかヤバそうだ。
ゼドさんの筋肉がムキッと盛り上がり、眼光がギロリと光る。同じく、ファヌーア王もボコッと肉が膨張し、眼光がギョロッと煌めく。
俺も含め、この場にいるドワーフにも止められそうにない。
俺はブリュンヒルデとジークルーネに言う。
「ブリュンヒルデ、ジークルーネ、2人を止めよう」
『…………』
「…………」
「?……おい、どうした?」
ブリュンヒルデとジークルーネは、真顔で硬直していた。
天井を見つめ、さっきまでキャッキャしてたのがウソのように固まってる。まるで電源が落ちてしまったかのようだった。
そして、ゼドさんとファヌーア王が拳を握る。
「行くぞファヌーアァァァァっ!!」
「来いやゼファールドォォォッ!!」
2人の拳が交差した瞬間、ブリュンヒルデが言った。
『センセイ、敵アンドロイド反応を感知しました』
次の瞬間、天井が爆発した。
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