第107話魔工居住車エンタープライズ号

 アヌジンラウトのごま吉。

 見た目は完全なゴマフアザラシの赤ちゃん。白いふわふわの体毛に、まるまるコロコロした体型は、ネコとは違う癒し効果を発揮した。

 ディザード王国へ戻る途中、ごま吉は荷車の中でオモチャにされていた。


『もきゅー』

「見て、おなかふわふわ」

「うぅん、可愛いですね~♪」


 ごま吉をひっくり返し、おなかをモフモフなでている。

 しかも気持ちよさそうに蕩けた表情をしてるからこれまた可愛い。気のせいかルーシアもソワソワしてるしな。

 俺は荷車の壁にもたれ掛かり、チラチラごま吉を見てるルーシアに言った。


「ルーシア、気になるなら触ってこいよ」

「べ、別に気にしてなどいない!」

「いやでも……」

「う、五月蠅いぞセージ! 私に構うな!」


 うわぁ、素直じゃねぇな……。

 俺は三日月にアイコンタクトをすると、ごま吉を抱えた三日月がルーシアの傍に来た。


「ルーシア、ごま吉が遊びたいって」

「な、なんだと?」

『もきゅ?』

「く………」


 三日月は、ルーシアの太股の上にごま吉を置く。

 するとごま吉はルーシアの太股の上でお腹を見せた。どうやら触って欲しいのか、動こうとしない。

 ルーシアは、震える手でごま吉のお腹に触れた。


「お、おぉ……」

『きゅぅぅ……』

「気持ちよさそうだね、ごま吉」

「ルーシアさん、可愛い物好きなんですねー」


 ごま吉をモフりつつ、ディザード王国へ帰還した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ディザード王国に戻り、ゼドさんの家に戻ってきた。

 地下で作業をしていたゼドさんにごま吉を見せると、驚いていた。


「ほぉ、珍しいな……特殊個体か」

「え? 特殊個体ですか?」

「ああ。アヌジンラウトは本来、砂に潜って擬態するため、砂色が普通なんじゃ。だがコイツは見事なまでに白い。恐らく突然変異だろうな」

「そうなんですか……あの、守護獣としては?」

「問題ない。特殊個体は大抵が強力な力を持つ。この白いのもそうだろう」

『もきゅう』

 

 なるほど。メンバーの誰も知識が無いから知らなかった。

 見た目はまんまゴマフアザラシの赤ちゃんなんだよな。これの茶色バージョンも見てみたいな。

 それよりも、仲間たちは居住車に釘付けだった。


「いやぁ、化けましたねぇ~……」


 クトネの意見はもっともだ。

 銀色のボディに羽の意匠を付け、デザインもスタイリッシュになった。これを馬に引かせるとなると、かなりカッコいいだろう。

 入口はキャンピングカーみたいにサイドとバックに付けられ、中は相変わらず広い。

 そして、ゼドさんは1枚の看板を見せてくれた。


「ほれ、あとは看板を付ければ完成じゃ」


 横長の看板には『クラン・ヴァルキュリア』と書かれていた。

 ゼドさんは看板を正面の上部に取り付け、全ての作業が終わったことを報告した。

 

「あとは、守護獣の力でこの居住車を魔力でコーティングするんじゃ。セージ、その白いのに命じてみろ」

「は、はい……ごま吉、頼めるか?」

『もっきゅ!』


 ごま吉を車内に入れて床に置く。すると、ごま吉はのそのそと車内を移動した。

 全員がその様子を見守り、何が起こるのか期待して見ていると、車内を一周したごま吉が俺の足下へ戻って来た。


『もっきゅう』

「よし、終わりだ。これでこの居住車は守護中の守りを得た」

「は?」


 思わず聞き返してしまった。

 何か特別なことをしたようには見えなかった。ごま吉が車内を這いずり回って終わっただけだよな?

 ブリュンヒルデとジークルーネ以外が胡散臭そうにゼドさんを見た。


「なんだその目は?」

「いや、なんか信じられなくて……」

「ふん、なら確認してみろ。外に出て車体に魔術でもぶっ放してみればわかるじゃろう」

「えー……」


 とりあえず車外に出る。

 外観も変化があるようには見えない。マジでごま吉は何をしたんだ?

 ちょっと気が引けるが、試した方がいいのかな。


「おいセージ、G級魔術くらいは使えるんだろう? 車体に向けて撃ってみろ」

「はぁ……じゃあ軽く」


 俺は左手をピストルのように構え、詠唱破棄した『雷槍(サンダーランス)』を1発撃ってみた。

 すると、雷の槍はボディに衝突し、あっけなく霧散した。もちろんボディに傷は付いていない。

 

「おお、すごいな」

「ほほう、じゃあ次はあたしの炎で」


 クトネも詠唱破棄いた炎弾を放つが、同じように霧散した。

 その後、少し威力を高めたストーンバレットや、ルーシアと三日月も試したが、魔術では傷1つ付かなかった。

 ゼドさんは満足そうに微笑む。


「わかったか? これが守護獣の守りだ。恐らくだが、C級程度の魔術なら簡単に弾くぞ。もちろん、魔術だけでなく物理防御も耐性がある」

「す、すごいっすね……申し訳ない、ちょっと舐めてました」

「ま、気にすんな。それより、この居住車の名前だが」

「名前……」

「ああ」


 ゼドさんは、ボディに手を添えた。

 まるで、自分の息子に名前を付けるかのような声で言う。


「こいつの名前は『エンタープライズ号』だ。ワシが造った最高傑作じゃ、誇りに思えよ、クラン『|戦乙女(ヴァルキュリア)』よ」

「エンタープライズ号……うん、カッコいいですね」

「かっかっか! 当たり前だバカたれ、このワシの作品だぞ?」

「う~ん、念願の居住車ですぅ~♪」

「ああ、立派だ。私たちに相応しいな」

「せんせ、キャットタワー入れて」

「お金もありますし、家具を買いましょう。ホルアクティで町の情報は手に入れてあります。みなさんでお買い物に行きましょうね!」

『センセイ、スタリオンとスプマドールに牽引テストを』


 みんなハイテンションだ。

 まぁ俺も同じ気持ちだ。まさかの異空間付き居住車が手に入るとは思わなかった。お金も丸々余ったし、ジークルーネの言う通り家具を買いそろえるのもありだ。

 

「よーし、今日は宴じゃ! ワシのオゴリで飲みに行くぞ!」

「お、いいっすね。さすがゼドさん!」

「ああ。ご相伴にあずかろう」

「むー、大人はずるいです」

「せんせ、わたしもお酒飲みたい」

「ダメダメ、子供はジュースにしなさい」


 この日の宴は、とても盛り上がった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 翌日。

 ゼドさんの家で目覚め、朝食を食べる。

 今日は、スタリオンとスプマドールをエンタープライズ号に繋ぎ、実際に町を走る。そして、試走がてら町で家具などの買い物に出かける。

 

「セージ、オメーはワシと一緒に王に謁見するぞ。王宮の地下遺跡にある開かずの扉を開けてもらうぜ」

「はい、わかりました。その、開けられるかどうかわかりませんけど……」

「かっかっか! 心配すんな、オメーなら大丈夫さ」


 うーん、ぶっちゃけ自信が無い。

 機械のドアじゃなかったらお手上げだ。ホントは俺も買い物に行きたいが……まぁ、世話になったし付き合うか。それに、もしかしたらとんでもない物が眠ってるかもしれないし。

 あ、でも……国の秘宝とか言ってもらえないかも。ああもう、どうしようか。

 

「センセイ、わたしも一緒に行くね。【戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)】が眠っている可能性もあるし」

『私も同行します』

「……そうだな。ゼドさん、ブリュンヒルデとジークルーネも同行させていいですか?」

「まぁいいだろう。嬢ちゃんたちの知識も役立つかもしれん」


 というわけで、パーティが分かれた。

 まず、クトネとルーシアと三日月。


「あたしたちは、ドワーフの名工が手がけた極上の家具を買いに行ってきます!」

「……名工とまでいかなくても、それなりの物を買ってこよう。金に余裕はあるが、ムダ使いは出来ないからな。それと、私の注文した剣も出来てるだろう」

「わたし、キャットタワー買う」


 みけこ・くろこ・シリカ、そして当たり前のようにスフィンクスがいた。というかスフィンクス、完璧に馴染んでる。もしかして仲間になったのだろうか?

 

「はだお、一緒に行こうね」

『なぁぁん』

「は、はだお?」

「うん。はだ色のネコの男の子だから、はだお」


 うん、完璧に仲間だこりゃ。

 というか、動物ポジション増えすぎだろ。ネコ4匹にアザラシの赤ちゃん、そんで馬が2頭かよ。

 すると、ジークルーネがルーシアにイヤホンみたいな道具を手渡した。


「ルーシアさん、これを耳に付けてください。センセイのバンドとチャネリングしたので、通信機として使用できます」

「ちゃ、ちゃね?……とにかく、付ければいいんだな」


 そういえば、ジークルーネはガラクタの山を分解して、使えそうな部品を集めていろいろ造っていた。あれも片っぽだけの通信機を分解して作り直した、ジークルーネお手製の通信機として生まれ変わったアイテムだ。

 ジークルーネは、ルーシアに使い方をレクチャーしてる。ルーシアなら使い方をマスターするだろう。


「よし、じゃあ王宮に行くぞ」

「はい。ルーシア、クトネたちを頼む」

「ああ、また後でな」

「シオンさんシオンさん、お買い物です!」

「楽しみ。キャットタワーキャットタワー」


 こうして、王宮組と買い物組に分かれた。

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