第106話アヌジンラウト

 その日は、ゼドさんの家に泊まった。

 毛布を敷いての雑魚寝だが、酒も入っていたので気にならなかった。

 そして翌日、さっそく行動する。 

 まずは、居住車の守護獣を捕獲しに行くことになった。

 ゼドさんの家で、作戦会議をする。


「いいか、ディザードから東にある砂漠洞窟に、『アヌジンラウト』という守護獣が群れで暮らしている。大人しく無害なモンスターで人懐っこい。エサでおびき寄せて1匹捕獲してこい。ワシは居住車の最終チェックをしておく。なぁに、砂漠洞窟までは馬で数時間走れば付く、じゃあ行ってこい」


 作戦会議もクソもない。エサでおびき寄せて捕獲って釣りだな。

 エサは肉でも魚でも野菜でもいいそうだ。大事なのは相性で、クランの中で一番偉い立場にある人間が捕獲しなければならないそうだ……って、俺かよ。

 スタリオンとスプマドールに荷車を繋ぎ、町の外へ。

 ゼドさんにもらった地図を頼りに、砂漠洞窟に向かった。


「なぁ、守護獣のこと知ってたか?」

「あたしは初耳です。というか居住車のこともあんまり知りませんでしたー」

「私もだ。マジカライズ王国にいたころは、居住車を持つクランは見たことが無い」

「わたしも知らなかった。ねぇせんせ、居住車の中にキャットタワー入れて」

「ああ、いいぞ。あれだけ広いし二階もあるしな」


 ディザード王国から一歩出ると、カラッカラの暑さが俺たちを襲う。

 幌付き荷車の中は、三日月が大量に作った氷がタライいっぱいに入ってる。それが溶けることで、わずかな冷房効果を生み出し、人間もネコも多少快適に過ごしていた。ちなみにタライの中には冷えた水のボトルが浮かんでいる。


「あ、ルーシア、剣はまだなのか?」

「ああ。少し特殊な加工を頼んだからな。完成は明日だ」

「ほう、どんなのだ?」

「……秘密だ。来たる日にお披露目しよう」

「そりゃ楽しみだ」

「セージさんセージさん、あたしとしてはセージさんの腰にある金属が気になりますー」

「あ、そういえば説明してなかったな」


 ゼドさんにもらって修理した『ビームフェイズガン』だ。

 見た目は砲身がデカい大型拳銃で、グリップ部分に威力調整ツマミがある。エネルギーは充電式で、俺は『|修理(リペア)』を使用することで充電なしで打ち続けられる……らしい。

 俺の装備がどんどん豪華になっていく……一番戦闘しないのに。


「ま、そのうち見せるよ」


 そう言って、タライの中にある水のボトルを手に取った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 馬車は、アヌジンラウトの棲息する砂漠洞窟に到着した。

 アヌジンラウトは守護獣としてポピュラーなモンスターで、ディザード王国には多く棲息してるらしい。

 他にも守護獣は種類がいるが、捕獲が困難だったりする。

 ま、別になんでもいい。


「問題は、俺が捕まえなくちゃいけないんだよな……」

「群れのリーダーに従う習性があるから、セージさんが捕まえないとダメなんですよねー」


 洞窟前での会話。

 ここから先は俺1人で行かないといけない。

 砂漠の岩石地帯。オアシスがあり、木々もそこそこ生い茂った場所だ。砂漠の生物には住みやすい場所かもしれない。

 

「よし、行ってくる」

『お気を付けて、センセイ』

「センセイ、ビームフェイズガンの出力は最小に設定してください。最高出力だと洞窟が崩壊しちゃうかも。最小出力でも生物が蒸発しちゃう威力だからね」

「怖っ……迂闊に使えんわ」


 新武器のお披露目しようと思ったがやめておく。

 刀に拳銃なんてゲームの主人公みたいでカッコいいと思ったが、キルストレガだけを抜いて洞窟内へ。

 ゼドさんはモンスターは出ないと言ってたが、用心はしておく。

 

「へぇ、以外と明るいな……岩の隙間が大きいから、光が入ってくるのか」


 洞窟内は明るく気温も低い。外と比べたらかなり快適だ。

 モンスターの気配もないし、剣を収めて奥へ進む。

 洞窟の通路は、幅の広い1本道で、迷うことなく最深部へ到着した。


「おぉ……広いな。ドーム型になってる」


 最深部は岩のドーム型になっていて、天井が解放されてるのでかなり明るい。地面はサラサラの砂で、まるで砂の海に来たようだ。

 というか、モンスターなんていない。こんなところにアヌジンラウトがいるのだろうか。

 とりあえず、カバンからエサである干した魚の切り身を取り出し、手に持つ。


「………」


 手をぶらぶらさせるが、モンスターは現れない。

 というか、どんなモンスターなのか聞いてない。デカいサソリとかヘビとかだったらどうしよう。

 それから15分が経過した。


「………お」


 目の前の砂が、サラサラと盛り上がる。

 砂の中に隠れていたのだろうか、何かが現れ………え?


「…………」

『…………』


 それは、砂から完全に姿を現すと、鼻をスンスンしながら俺の元へ這いずってきた。

 どうやら俺の手にある魚の切り身が食べたいのか、俺は手のひらに切り身を乗せ、ゆっくりと差し出す。

 それは、俺の元へ来た。手のひらにある切り身の匂いを嗅ぎ、パクパクと食べた。


「………美味いか?」


 その生物は、コクコク頷く。

 言葉がわかるのか。俺は追加の切り身を出すと、その生物は美味しそうに食べた。

 持参した切り身を全て食べ尽くした生物は、満足したらしい。


「ええと、アヌジンラウト……なのか?」

『………』


 頷いた。どうやらそうらしい。

 俺は頭の部分をなでると、気持ちよさそうに目を細めた。


「あのさ、一緒に来ないか? お前の力が必要なんだ」

『………』

「これから、新しい居住車に乗って、いろんな国を回ることになると思う。お前が居住車を守ってくれれば、とても助かるんだ」


 俺はアヌジンラウトの頭をなでる。

 すると、アヌジンラウトは俺の問いに答えるかのように鳴いた。


『もきゅ!!』


 白いふわふわした体毛、くりっとした黒真珠のようなつぶらな瞳、全長50センチほどのまるまるコロコロした体型で、小さい前ヒレ、短い尻ヒレ。

 どう見ても、アザラシの赤ちゃんにしか見えなかった。


 前ヒレをパタパタさせ、『まかせろ!』と言ってるような気がした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アヌジンラウトは、けっこう重かった。

 抱っこすると嬉しいのかキューキュー鳴く。しかもめっちゃフワフワだし可愛い。

 抱っこしたまま洞窟入口に戻ると、案の定騒がれた。


「ちょ、セージさんなんですかそれ!?」

「アヌジンラウト」

「……これはまた、何というか」

「ルーシア、何を想像してたか知らんが安心しろ、俺も同じ意見だ」

「かわいい。せんせ、抱っこさせて」

「いいぞ。でもけっこう重いからな」

「うん」


 三日月にアヌジンラウトを渡すと、三日月はギュッと抱きしめる。

 みけことくろこも興味あるのか、三日月の足下をグルグル回る。


「せんせ、この子は旅の仲間なの?」

「ああ。居住車の守護獣だからな。これから一緒だぞ」

「そっか。これからよろしくね、ごま吉」

『きゅう』

「…………ごま吉?」

「名前。かわいいでしょ?」

「あー、まぁいいんじゃないか? なぁ」


 どうやら異論はないようだ。

 三日月はジッと見ていたブリュンヒルデにごま吉を渡す。

 

『………』

『もきゅ?』

「お姉ちゃん、ほらほら、ぎゅってしてあげて」

『はい。こうでしょうか?』

『もきゅう……』

「あはは、この子すっごく気持ちよさそう」


 よし、守護獣ゲット。ゼドさんのところへ帰ろう。

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